警察ミステリーの極致「可燃物」

米澤穂信さんの「可燃物」(文藝春秋)読了。
本書は、著者が初めて本格的に警察小説に挑んだ作品。

宝島社「このミステリーがすごい2024」
文藝春秋「2023週刊文春ミステリーベスト10」、
早川書房「ミステリマガジン1月号」の特集
「ミステリが読みたい!」。それぞれの
ランキングで1位を獲得した2023年の傑作ミステリーだ。

群馬県警本部刑事部捜査一課・葛警部が様々な
事件の謎を紐解いてゆく短編集。

「崖の下」
スキー場で起こった殺人事件。
遭難した二人のうち一人が失血死した。犯人は
特定できたが、凶器が見つからない!?
凶器の特定が軸。

「ねむけ」
ワゴン車と軽自動車の衝突事故。
深夜の交差点で起こったその事故は
聞き込みの結果「運転手の信号無視」
という目撃情報。その情報の不自然な
一致は何を意味する?

「命の恩」
人間の右上腕が人気の遊歩道で発見された。
やがてバラバラになった遺体の一部が
次々と見つかる!遺体に不審な点がいくつか
あった。犯人はなぜ目立つ場所に右上腕を
捨てたのか?

「可燃物」
住宅街で連続放火事件が発生。
難航する捜査。その最中、突然犯行が
止まった。いったい誰が何のために
放火事件を起こしたのか・・・?

「本物か」
郊外のファミレスで立てこもり事件が
発生した。立てこもり犯は前科持ちの
男だった。避難した人質たちに事情聴取を
行ったが、証言がいまひとつかみ合わない・・・。

葛警部ほか、捜査員たちの地道な捜査で
集められた数々の証拠が細大漏らさず提示される。
それらを精査してゆく過程で生まれる、
小さな違和感や謎を徹底的に追及する葛警部。
そこから事件の真相へと繋げてゆく。

読み進めていくうちに、読者は無自覚なまま、
葛警部と同じように推理させられていることに気づく。

そして、自分の推理に絶対の自信を持って結末までたどり着く。
しかし、「えッ?」と思わず声をあげそうになるほど、
想像を超える真相が待っている。

著者の持つ、鮮やかすぎる「逆転」の衝撃は、
この作品の中でも遺憾なく発揮されている。

ミステリー作品のの特徴である、ハウダニット、
ホワイダニット、ミスリードが思う存分楽しめる。
警察小説でありながら謎解きに特化した、
正統派のミステリー小説。

『可燃物』
著者:米澤穂信
出版社:文藝春秋
価格:¥1,870(本体価格¥1,700+税)