今年のミステリー大収穫作品!「幻夏」

心にグッとくるミステリーです。「幻夏」太田愛(角川書店)

著者の太田愛さんは、脚本家から作家に。
脚本家としてスタートしたのは、1997年に放送された、
「ウルトラマンティガ」。はまさき、筋金入りのウルトラマン好きです。
特に「ウルトラマンティガ」は大好きで、DVDで何度も観ました。
52話あるのですが、太田愛さんはその中で何本か脚本を書いて
おられます。ヒーローものは勧善懲悪が基本。怪獣は悪いやつで
それを倒す正義のヒーロー、ティガなんですが、太田さんのドラマは
ただの勧善懲悪ではないんです。必ず心にグッとくるストーリーなんです。
だから妙にドラマの細部まで覚えているんです。
そして、次に「相棒」の脚本を書かれます。
この作品の帯には「相棒」の出演者、及川光博さんが感想を書いておられます。

幻夏

夏の終わり、十二歳の少年が失踪した。
それから23年、しがない探偵・鑓水は、少年の母親から息子を探すように
依頼を受ける。その息子こそ、12歳のとき失踪した少年だった。
同じ頃、少女連れ去り事件が起きた。
所轄の交通課にいる相馬は、その捜査本部からの要請で、後方支援をしていた。
その過程で、少女が連れ去られた現場からある‘印’を発見する。
それは23年前の少年失踪事件の現場にあったものと同じ‘印’だった。
相馬は23年前の事件と今度の少女連れ去り事件が関連性があると考え、
本部に話そうとするが、左遷された刑事の話など誰も聞く耳を持たなかった。
仕方なく、相馬は友人で探偵の鑓水に相談する。
鑓水が依頼された件と相馬の事件が交差する。
相馬は23年前に失踪した少年の友人だったのだ。
相馬にとって、失踪した少年とその弟との記憶は、夏の終わりの切なさと
まぶしさと、胸が苦しくなるほどの喪失感が伴う、決して忘れられないものだった。
幼いころ、友人が言ったひとこと「俺の父親はヒトゴロシなんだ」・・・。
しかし、友人の父親は冤罪だった。
そこから物語は、複雑な様相を呈してゆく。

冤罪による家庭崩壊、自分の父親を憎むことしかできなかった少年。
真相を知った子どもたちの苦悩・・・壊れていく心。
冤罪によってどれほどの人たちが苦しむのか?
当事者家族、そして被害者家族も苦しむことになるのだ。
冤罪の恐怖と冤罪が生まれる今の日本の警察制度に問題提起をしている。
子どもたちの目線で描くことによって、その背負わされた罪の重さ、
苦しさが余計に心を抉る。
どれほどの想いがこの作品の中に込められているのか・・・?
引き裂かれた子供たちが、切なく哀しい慟哭のミステリー。

『幻夏』
著者:太田愛
出版社:角川書店
価格¥1,600(税別)