ダークな極寒フィンランド・ミステリー「凍氷」

前からちょっと気になっていた、
ジェイムズ・トンプソン「凍氷」を読みました。
以前、新聞で紹介され書評を読んでものすごく
読みたくなった作品でした。
でも、ちょっと失敗。
シリーズ第2作目から読んでしまい、ちょっととまどいました。

フィンランドの小説なのに、著者の名前が北欧っぽくない。
著者はアメリカ人!奥様がフィンランド人・・・納得。
でもアメリカ人が描いたとは思えない、北欧の質感にあふれた作品。
北欧ミステリファンにはたまりません!

凍氷

カリ・ヴァーラ警部は、上層部からフィンランドの
ユダヤ人虐殺加担疑惑など、歴史の調査ともみ消しの
指令を受ける。
同じ頃、ヘルシンキでロシア人富豪妻拷問死事件が起こる。
カリは、相棒のミロとともに捜査を開始。
捜査線上に浮かんだのは、富豪妻の愛人・レイン。
カリはレインを逮捕、取り調べるが無実を主張。
かたや、ロシア人の夫は秘書と愛人関係にあった。
レインの犯行説に疑問をもったカリは、
夫に疑いの目をむけるが、上層部から圧力がかかる。
また、ユダヤ人虐殺について、自分の祖父が
関わっているのでは・・・?
祖父と同じ部隊にいたと思われる、アルヴィドを訪ね
話を聴くことに・・・。

警察の事件だけでなく、カリの心を支配するのは、
臨月を迎えた愛する妻・ケイト。
過去に流産という悲劇を体験している。
事件のこと、さらに原因不明の頭痛。
妻には絶対に心配をかけたくない。
だが、カリの心遣いもむなしく、アメリカから
やってきた、ケイトの弟と妹が問題を起こしてしまう・・・。

複雑な事件展開、歴史の真相など盛り沢山な
エピソードが面白い。
しかし、この作品をさらに面白く、奥深くしているのは、
妻を愛し、ただひたすらに気遣うカリ・ヴァーラ警部の姿。

警察ミステリーに濃いヒューマンドラマの味付け。
そして北欧という質感をプラス!
素晴らしい作品!

『凍氷』
著者:ジェイムズ・トンプソン/高里ひろ(訳)
出版社:集英社(文庫)
価格:¥820(税別)