心に沁みる物語「ひとつむぎの手」

知念実希人さんの「ひとつむぎの手」(新潮社)を
読みました。
読んでる途中で何度も目頭が熱くなりました。

優秀な心臓外科医を目指す平良は、
常に患者やその家族を思い治療にあたっている。

医学部内の権力抗争に巻き込まれることなくただ愚直に働く姿は、
上司・同僚や後輩、患者、さらにその家族からも篤い信頼を得ている。
しかし夢の実現のために心臓外科手術が数多く出来る
病院の出向を心底願っていた….。

平良は、3人の研修医を心臓外科の医局に入れることが出来たら、
その病院への出向を考えても良いと言われた。
その下心を隠しつつ3人の研修医に接するが、
あっさりと見破られ侮られてしまう。

しかし、平良の真摯に患者に接する態度や、
教授に媚びることなく患者のための手術を選ぶ事ができる決断力、
緊急時の冷静な処置などを目の当たりにした研修医たちは、
やがて、平良に対し尊敬の念を抱くようになる。

だが、平良は、一人の後輩に激しい嫉妬心を抱いていた。

読んでいて、平良の気持ちは痛いほど伝わってくる。
認められ夢を実現させたいとの思いが叶うかどうかの
焦燥感、そして嫉妬心。

心に広がるどす黒い闇に、時に飲み込まれそうになる。
そんな心に勝てるのは、自分自身だ。
平良がそれを悟った時の清々しさは、まるで自分が経験したかの
ような感じがした。

ミステリーチックな展開もあるが、医者としての平良の生きかたや、
心の成長が描かれた、素晴らしいヒューマンドラマだ。

『ひとつむぎの手』
著者:知念実希人
出版社:新潮社
価格:単行本¥1,540(本体¥1,400+税)
    文庫¥781(本体¥710+税)