「Aではない君と」は吉川英治文学新人賞にふさわしい感動作!

「天使のナイフ」で江戸川乱歩賞を受賞。
ミステリにしても警察小説にしても薬丸さんの作品は
心をざわつかせる作品が多い。

特に「刑事のまなざし」は印象に残っている。
ドラマ化もされた傑作。いちばん好きな作品。

そんな作品を描き続けてきた薬丸さん。
「Aではない君と」で第37回吉川英治文学新人賞を受賞されました。
この作品は、少年犯罪を真っ向からとらえた衝撃作。
自分の息子が少年犯罪を犯したらどう向き合うのか?
こんなに激しく重いテーマをよくぞ描いてくれました!
この賞にふさわしい作品だと思いました。

Aではない君と

建設会社に勤める吉永は、美術館建設の件で自分たちが企画したコンセプトが通り、
チームの面々と祝杯を挙げていた。
その時、息子から電話がかかってきた。
宴席だったため、電話は取らなかった。そのあとトイレに立った時に電話したが通じず、
留守電にメッセージを入れた。
吉永は妻と離婚したとき、息子の親権を妻に譲った。
ただ、息子とは自由に会うことが出来たので、忙しい中でも何とか時間を作り息子と一緒にいるようにした。
しかし、仕事で大きなプロジェクトを任されたため、最近は疎遠になっていたのだ。
その宴会の日、ニュースで「胸を刺された中学生くらいの男性の遺体が発見された」と報道していた。
吉永は自分の息子と同年代の男の子の死を痛ましいと思った。

それから数日後、会社に警察官が現れ吉永が呼び出された。
そして、息子の同級生が殺害されたと知らされた。
その後も根ほり葉ほり聞かれた。まさかまさか・・・?!
そして元妻から衝撃の電話が入った!
息子が同級生殺害の件で逮捕されたとうのだ。
何かの間違いであって欲しい!祈る思いで警察に行くと
息子とは会えない、捜査の過程で何も教えられないと
冷たく言われる・・・・。

吉永は宴会の日の息子からの電話が気になっていた。
あの日、息子は自分に何か言いたかったのではないか?
電話に出なかった自分を許すことが出来ない。
何もかも捨てて、ただ息子のために生きようと決心する。

息子は、同級生を殺害したことは認めたが、
それ以外はいっさい話そうとしなかった。
警察にも、吉永が依頼した少年事件専門の弁護士にもだ。
ただうつむき、ひたすら沈黙していた。

このままでは成人と同じように、衆人環境の中で裁判をするということに
なってしまう。それだけはなんとしてでも避けたい!
何とか息子と話したい!そして吉永は、少年法10条2項「付添人」
制度を申請し、自ら息子の弁護活動を行うことにする。
息子の語る真相がどのようなものであっても、自分は受け入れなければならない。
息子の更生は自分が必ず果たしてみせる。

この作品は、事件を起こした息子を想うの父親の姿が痛々しいほどに胸を貫く。
父親の後悔の念と息子に対する深い愛情・・・。

そして息子がゆっくりと父に語った真相が、あまりにもあまりにも切ない。
かわいそうになり、父親の思いとシンクロして泣ける・・・・。

この作品にはどれほど深いメッセージが込められているだろう。
親が子にできることはあるのだろうか?
薬丸さんが出した答えとは・・・?

『Aではない君と』
著者:薬丸岳
出版社:講談社
価格:¥1,500(税別)