薬丸岳氏、吉川英治文学新人賞受賞後第1作「ラストナイト」

薬丸岳さん、「Aではない君と」で吉川英治文学新人賞を受賞後の第1作が
この「ラストナイト」です。

数々の罪と罰に向き合い、その都度作品の奥深さが増してゆく、
薬丸岳さん。
今回は、「累犯者」に焦点を充てた哀しく切ないミステリーです。

ラストナイト

菊池が義理の息子と営む居酒屋「菊屋」に35年来の友人・片桐が現れた。
片桐は、かつてこの店で傷害事件を起こしから
妻・陽子と離婚。その後「累犯者」として32年間
何度も刑務所を出たり入ったりしている。
その容貌は異様・・・。
顔にタトゥー。片手は義手。
ひと目見て、誰もが恐れる姿をしていた。

そして今回も出所してすぐにほかの客とトラブルを起こしそうになる。

片桐は陽子と幸せな結婚をしていた。だがこの傷害事件が
きっかけで全ての歯車がくるってしまったのだ。
菊池は片桐に対し、申し訳ない気持ちもあった。
だが、何度も何度も刑務所を行きつ戻りつする片桐に
菊池も堪忍袋の緒が切れてしまった・・・。
そして片桐に最後通牒を突きつける。

最近の薬丸さんの作品は安易に面白かった
と言えないくらい重厚なテーマで圧倒させられる。

「累犯者」になってしまった主人公の男性。
何故、犯罪を繰り返すのか?
5人の関係者、友人の視点から片桐という男が語られ、
やがて「累犯者」となった真相へと繋がってゆく。

主人公本人に語らせるのではなく、
その周辺から浮かび上がる片桐像は常にミステリアス。

顔中にタトゥーを入れるということは、事件を起こしても
すぐに見つかる!逃げ切れない。
そして警察にすぐに捕まってしまい、刑務所へと舞い戻ることになるのに・・・。
そのあたりを考えながら読んでいたら、その真相があまりにも
衝撃的で言葉が出なかった!
切なく重く悲しい、だが極上のミステリーでもある。

『ラストナイト』
著者:薬丸岳
出版社:実業之日本社
価格:¥1,500(税別)