圧倒的心理描写で迫る!「許されようとは思いません」

芦沢央さんの「罪の余白」は第3回野生時代フロンティア文学賞受賞作。
映画化され、話題を読んだ。角川文庫で発売され、ロングセラーになっている。
「罪の余白」は読み始めた時、凄いと思った。ドキドキしながら読んだ。
自分の罪をひた隠そうとする、主人公。その心理描写の上手さに驚いた。

そして、本書「許されようとは思いません」(新潮社)は
その心理描写の上手さがさらに際立つ、ミステリー短編集だ。

表題の「許されようとは思いません」
第68回日本推理作家協会賞短編部門ノミネート。
祖母の納骨をするために、祖母が暮らしていた田舎にやってきた
青年とその婚約者。青年の母と待ち合わせをするが・・・・。
そこで、青年は婚約者に自分の祖母が曽祖父を殺害するという事件
を起こし、村八分にされた事を話し出す。
青年にとっては優しい祖母だった。祖母を殺人へと駆り立てた
曽祖父と村の人たち。祖母の苦労と悲しみを婚約者と共に
分かち合っていると、婚約者はあることに気が付く!

「目撃者はいなかった」
新人の営業マンは、成績不振。今月も最下位かと思っていたら
なんと上位に喰い込んでいた・・・。
さらに、自分の売上金額を見ると、思っていた以上に多いことがわかる。
なぜだ・・・。そして確認するととんでもないミスを犯していたことに
気が付く。皆の前でほめられた手前、ミスを犯していたことを言い
出せなくなった新人くんはあることを思いつく。それは隠蔽工作。
気が小さな新人くんは、隠蔽工作途中にで起きた事故の目撃についても
必至になって隠そうとするが、嘘に嘘を重ね、自ら破滅の道へ・・・・。

「ありがとう、ばあば」
孫可愛さに、9歳の孫娘を自分の思い通りにコントロール
しようとする祖母。そして抑圧される孫娘。自分の母親が
祖母にやり込められる場面を見る孫娘・・・・。
時に何も語らず、一切の感情を無くしてしまう孫娘を
気遣いつつも、自分の価値観を押し付け続ける祖母・・・。
だが、その果てには・・・?

「姉のように」
小さいころからなんでも出来て、幸せな結婚をし、さらに絵本作家
になり成功した姉をずっと慕ってきた妹。姉のようになりたい!
と願い、結婚し可愛い娘も出来た。悩みはいつも姉に相談した。
だが、そのあこがれ続けた姉が事件を起こし逮捕された!
その衝撃で、妹は徐々に自分を見失ってゆく・・・。
そしてその矛先は・・・?

「絵の中の男」
曰くつきの絵を家に飾ったらその家で人が死んだ・・・。
その画家について語る、元家政婦。
その画家には暗い過去があり、その過去の苦しみは
絵を描くことによって忘れられた。
だがその絵は『地獄絵図』のようだった。
人の心を芯からざわつかせる魔力を持つ絵。
地獄絵図に込められた画家の情念・・・・。
だが、その画家は夫を殺害した罪で服役中だった・・・。

5編の短編集の中でも、
「目撃者はいなかった」は、多少、後ろ暗い事を
した経験のある人は読んでいて背筋が凍ります。
手に汗をかいてしまうくらい・・
それほどリアリティのある心理描写。
「ばあば、ありがとう」は孫娘を自分の思い通りに
コントロールする祖母が描かれているが、
自分の事を描かれている?と勘違いしそうになる。
「姉のように」は、罪を犯した姉のようになるのでは?
と思い込んだ妹が次第に追い込まれ、心が壊れてゆく
過程が臨場感あふれた筆致で描かれ、目が離せません。

本当に、のめり込んで憑りつかれたように
一気読みしてしまいました。
圧倒的な心理描写にノックアウトさせられる!
凄いミステリー作家の登場です!

『許されようとは思いません』
著者:芦沢央
出版社:新潮社
価格:単行本¥1,760(¥1,600+税)
   文庫 ¥649(¥590+税)