味わい深い、傑作刑事小説「崩壊」

「崩壊」の著者、塩田武士さんは厳しい将棋の世界を描いた
「盤上のアルファ」でデビュー。
デビュー作は話題になりました。
その後、様々なテーマで作品を描いておられますが、
はまさき、なかなか読む機会が無く、
たまたま「崩壊」が刑事小説だったことから手にとってみました。

大阪が舞台で、登場人物たちの会話はほぼ大阪弁。
事件が起きた背景を読むと、とても切なくて・・・。
でもぶっきらぼうな大阪の言葉が、この作品を
滋味深いものにしてくれているような気がします。

崩壊

冒頭の家族の崩壊を予感させるシーンは
読んでいると胸がざわざわとしてくる。

波山署の本宮刑事は、高校時代に苦い経験をし、それを
ずっと引きずりながら生きている。

ある日、市議会議長が殺害された。
雨が降っていた。外で車の音が聞こえ、帰ってきたと思った
家族はいくら待っても家の中へ入ってくる気配がなかったので、
様子を見に出たら、車の中で血まみれで倒れていた。

波山署の本宮は県警捜査一課の若手・平原優子と組みその事件の捜査にあたる。
だが、捜査を進めてゆくと、高校時代の苦しい過去と否応なしの向き合うことになった。
本宮は高校時代、野球部のピッチャーだった。試合中、自分の投げた球が
バッターの手首に当たり、その選手の骨がおれてしまったのだ。
そのバッターは野球が出来なくなり、その後の生活はすさんでいった。
だが、バブル絶頂期不動産で当て莫大なお金を手にする。
しかし、バブル経済は長く続かず結局自己破産してしまった。
その男の兄がこの事件に関係している可能性がある・・・。
そしてその男を追ううちに、本宮たちは一人の青年の心の闇に出会う・・・。

八〇年代のバブル経済に踊らされ、そして呑み込まれた男と女・・・。
それを見つめ、また彼らに翻弄された子どもたち。
お金によって変貌してゆく大人たちを間近で見ながら、子どもたちは
どう感じたのか・・?
心に深い疵を負い、暗い闇に閉ざされた青年の姿が切ない。

ある家族の崩壊と殺人事件を通して、人間たちの浅はかさとそこに巣食う
暗い闇をを鋭く描き出した傑作、刑事小説。

『崩壊』
著者:塩田武士
出版社:光文社(文庫)
価格:¥700(税別)