「撃てない警官」柴崎令司シリーズ初の長編「広域指定」

安東能明氏は『撃てない警官』に収録されている『随監』で
日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞。
その後、『撃てない警官』の主人公、キャリア警察官・柴崎令司を主人公に
『出署せず』・『伴連れ』と3作品を描きシリーズ化。
上記の3作品はいずれも秀作揃いの短編集だが、新刊の『広域指定』は初の長編。
このシリーズの長編、待っていました!

広域指定

出世街道まっしぐらだった柴崎令司は、部下の拳銃自殺の責任を
問われ、所轄の綾瀬署の警務課に左遷された。
その後は、所轄で事件が起こる度に呼び出され、捜査員のまね事を
させられる。捜査経験ものないのに便利に使われている状況だ。
女性署長の下、多少やりにくい面はあるが、信頼はあつい。
柴崎は洞察力が鋭く、そこいらの刑事と比較しても
事件の本筋を見極める眼を持っているようだ。

正月明けの10日、午後9時頃、綾瀬署に「小学生の娘が帰って来ない」
との一報が入った!
柴崎はすぐさま、高野朋美巡査らを現場に急行させた。
行方不明になった女児はまだ9歳。
事件か?事故に巻き込まれたのか?いったいどこへ消えた!?

そんな中、貴重な情報がもたらされた。要注意人物がこの管内に
住んでいるというのだ。その人物とは、5年前千葉県で女児誘拐殺人事件を
起こし、一度は自白したが一転否認。人権派弁護士とマスコミが
味方に付き、起訴されずに釈放された人物だった。

女児の早期保護を目指し、捜査の指揮を執る坂元真希署長は、
千葉県警に5年前の事件の資料を依頼する。
だが、千葉県警はこの未解決事件に触れてほしくない。
さらに、警視庁捜査一課が事件の主導権を奪おうと画策!
警察の面子にこだわり、肝心の女児保護が遅れると判断した
坂元署長は強硬手段に出る!

そして捜査の本線から外された柴崎と高野は、事件に奇妙な
違和感を感じ独自の捜査を始める。

女児保護のために、警察の正義を全うしようと
奮闘するリーダー、坂元真紀署長。
そして、被害者家族に寄り添う高野朋美刑事。
今回は女性刑事たちの活躍が目覚ましい!
しかし、管轄をまたぐ県警同士の軋轢や、上層部からの
横やりなど、警察内の暗部もリアルに描かれていて、
警察小説としての面白さが際立っている!
さらに、事件の真相はどんでん返しの様相で、
本格ミステリーのような面白さをも加味されている。

警察小説ファン、ミステリーファンも楽しめる
読み応えたっぷりの「超」傑作!!!

『広域指定』
著者:安東能明
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥590(税別)