女性なら誰でも共感!芦沢央「今だけのあの子」

芦沢央さんは、「罪の余白」でデビュー。
デビュー作は映画化されました。

「罪の余白」は中学生のいじめがテーマ。
いじめにあい、学校のベランダから転落死した娘の
復讐を遂げようとする父親と、自分の罪をひた隠しする、
小悪魔な美貌の中学生との心理的攻防を描いたサスペンス。
人間の心に潜む深い闇をリアルに描き、読者を震撼させた。

そんな著者が描いた本作は、女性の友情の陰に隠れた想いを
情感あふれる筆致で描き、思わず共感、そしてハッとさせられる!
秀逸な連作短編。

「届かない招待状」
親友だと思っていた友人の結婚式に呼ばれなかった恵。
サークルの仲間にも真実を告げず、招待されなかった
結婚式に出席する決心をする。
自分以外のサークルの仲間はすべて招待されているのに
なぜ自分だけが呼ばれなかったのか・・・・?
なぜなぜなぜ・・・!!!疑心暗鬼は募り、その焦りは
自身の夫へも向かった。
この作品はすべての女性が一度は経験ありなのでは?
心の中で次第に膨らむ親友への憎しみ。
しかし、あまりにも予想外の真相でひっくり返る。
その真相が泣ける。

「帰らない理由」
中学生の喜多見瑛子と北見くるみは同じ卓球部。
切磋琢磨する二人は、ライバルでもあり大の親友だった。
全国大会の1回戦で強豪校にあたってしまったくるみを
瑛子は必死で応援した。だが、その応援席の写真を撮った
新聞部の悪意で、瑛子は裏切りものとレッテルを貼られた。
誤解を解きたい、くるみと仲直りをしたいと思っていた矢先、
くるみは交通事故で亡くなってしまう。
瑛子が後日くるみの家にお悔みに行ったとき、くるみと
つきあっていたという男子生徒と鉢合わせをする。
二人はお互いの胸の内を探り合う・・・。
二人には誰にも言えない秘密があったのだ。
思春期の女子中学生の心の襞を繊細な心理描写で綴る。
意外過ぎるラストにホッとする。

「答えない子ども」
評判のお絵かき教室に通う、直香と娘の恵莉那。
直香は娘の描いた絵を必ず写真に撮って残している。
それが親ばかと言われようと気にしない。
そのお絵かき教室には直香が苦手な母子がいた。
母親の方はかなり若く、雑であまり場の空気を
読まない、息子はその母に似てちょっと乱暴な所がある。
そんな母子と関わりを持ってしまうことに・・・・。
若干、神経質な母の苦悩が描かれる。
ママ友同志の関係に悩んでいるなら、かなり共感できる。

「願わない少女」
必ず合格すると思っていた名門校の試験に落ち、
不本意な高校に行くことになった、奈央。
教室で一人ぼっちは絶対に嫌だと思ったとき、
漫画家を目指す悠子と出会い意気投合する。
悠子と仲良くなりたくて自分も漫画を描いていると
嘘をついた。悠子に嫌われたくない一心で、必死
で漫画を描けるようになった・・・
ところが進路を考える時期になって、悠子の様子が
変ってきた。不安を覚える奈央・・・。
同性に対する羨望。そして嫉妬。裏切り・・・。
あらゆる思いがこの一編に凝縮されている。

「正しくない言葉」
夫と二人で入った老人ホーム。夫は活動的で
周囲の人たちと何かしら楽しんでいた。
そんな夫が亡くなった。亡くなる前、夫は妻に
「君とは絶対に相性がいい」と紹介してくれた親友。
その親友の息子とその嫁が何だか言い争っている。
嫁が言った「お義母さんとはもうやっていけない」
という一言が聞こえ、思わず声をかけてしまった・・・。
親友の息子の嫁の話をじっくり聞くうちに様々な事を
思い出してしまった。
熟年の女性同士の友情とはなんと心が温かくなるのか。
亡くなった夫への思慕が心にじわ~っと沁み込むような短編。

いずれの作品も、身近に起こる日常がテーマ。
だが、この著者にかかると、大事件に発展する!?
緻密で繊細な心理描写と大胆な構成力!で読者を物語の
世界に惹き込んだ行く。
読み始めたら止まらない!連作心理ミステリ。

『今だけのあの子』
著者:芦沢央
出版社:東京創元社
価格:単行本¥1,650(¥1,500+税)
   文庫¥814(¥740+税)