心に沁みるミステリー「staph スタフ」

道尾秀介さんの新刊「staph スタフ」を読みました。
「獏の檻」からしばらくぶりに読んだ作品。

今までの作品と微妙に何かが変わっていたような気がした。

スタフ

旦那の浮気が原因で離婚した夏都は、旦那が立ち上げた移動デリを
意地になって、一人で切り盛りしていた。
マンションには、中学生の甥が同居している。
甥の母親は息子を妹の夏都に預けて、貧しい国で小児科の
医者をしている。なかなか帰国できず、夏都も甥のことが
少し可哀そうな気がしていた。
しかし、当の甥と言えばいつもパソコンで何か
している。そして、たまにしか会話をしないのに、
妙に人の気持ちが読めるような子どもだった。

夏都の移動デリは2か所で営業している。
だが、一か所で問題が生じた。
突然、夏都の移動デリに食品衛生局と名乗る男たちが
乗り込んできた。
そして移動デリの車ごと夏都は男たちに拉致された!?

彼らに連れてこられた場所には、美貌の少女とその
親衛隊らしき妙な若者たちがいた。
そして、美貌の少女が夏都に向かっていきなり命令した。
「メールを削除してください」と・・・・。

夏都はまったく何のことか理解できず、まず事情を聞くことにした。
それにしても、夏都は美貌の少女に見覚えがあった。
そうだ!!!甥の部屋に隠されていた、ブロマイドの少女だ。
何だ・・・?
結局、夏都は人違いで拉致されたことを知る。

少女の事情を聞き、放っておけなくなった夏都は、
甥の塾の講師に相談。
その塾講師も巻き込み、少女が抱える問題解決に乗り出す。

少女が抱えた事件を解決してゆく過程をユーモアたっぷりに描いて
読んでいると楽しい。物語の着地点が見えないのもワクワクする。
そんな展開は、いつも通りの道尾節炸裂。
だが、読ませる手管は今までの作品を超えてしまっている!

主人公夏都は、ダメンズの元夫に思いを残しつつも
絶対頼らないと心に決め意固地になってしまうキャラ。
女性ならばついつい共感してしまう、リアルな女性像
として描かれている。これも今までの道尾作品には
あまり登場しなかったのでは?

また、まじめすぎる謎めいた塾講師が、夏都に淡い
恋心を抱くが、意外な探偵役に徹していてその設定もとても面白い。
さらに、ミステリアスな甥の動きにも注目だ!

夏都たちの動きで事件自体は解決するが、その後に
待ち受ける衝撃展開!!!
この物語の本当の狙いはこれだったのか!という驚愕!
その、あまりのストーリー展開の上手さに唖然とする。
そしてどんでん返しの本当の真相に涙を誘われるのだ!
このラストを読んで、泣けない人はいないだろう。
胸を締め付けれるほどの切なさだ。

一皮も二皮も脱皮した道尾作品がここにある。
今までにない傑作に心を打たれた。

『staph スタフ』
著者:道尾秀介
出版社:文藝春秋
価格:¥1,600(税別)