いつもラストにハッとさせられる。長岡弘樹さんの新作『赤い刻印』

長岡弘樹さんの短編「傍聞き」の印象が強く残っている。

新刊「赤い刻印」(双葉社)が「傍聞き」の母子が登場する
ということで、読んでみました。

日常の中の何気ない一瞬が、実は重要な意味を持つということに
気づかされる。

赤い刻印

「赤い刻印」
「傍聞き」に登場した刑事の母と娘の触れ合い。母には育ての母と
生みの母がいると知らされた娘は、祖母に会いに行くことに。
祖母のぶっきらぼうな態度に面食らう娘だったが、いつしか
絆が深まってゆく。刑事の母の方は、時効が近い過失致死の
事件を追っていた・・・。

「秘薬」
薬学の勉強をしている女子医大生は、試験前に頭痛で倒れてしまった。
脳神経外科の医師からは頭に血腫が出来ており投薬で治すと言った。
女子大生にとっては、感じ悪いオヤジにしか見えなかった。
そして、毎日日記書かされる。実は女子医大生は、倒れて以降
一日しか記憶が続かなくなっていた。その事実に衝撃を受ける。

「サンクスレター」
学校で飛び降り自殺をした息子の父親は、何が起こったのか
きちんと調査しない学校側に腹を立て、とうとう強硬手段に出る。
子どもを人質に学校に立てこもってしまったのだ。
飛び降り自殺をした児童の担任だった女性教師は、本当の理由を
知っていたが、それはどうしても言えなかった。
しかし、人質にされた子どもたちを助けるために女性教師がしたことは?

「手に手を」
母の介護と障害のある弟の面倒を何年も看ている、初老の女性。
その女性を気遣う、町医者。
介護する時に、重要な事を忘れないように医者のアドバイスを
きちんと録音する日々。だが、毎日の介護で疲れ果てた女性は、
階段を踏み外したり、餅をのどに詰まらせたり、お風呂でおぼれ
そうになったり・・・。やがて弟に疑いを抱く・・・が。

4編の短編に込められた、人の優しさ。それが謎を解くキーに
なっている。

特に、「秘薬」と「サンクスレター」は明かされた真実が
胸に沁みてくる・・・。

人の心の闇も、その人を思う誰かの優しい心遣いで
ハッとさせられる。それは主人公もだが、読者もそうだ。

これほどの巧みな構成は他にないだろうと思う。

『赤い刻印』
著者:長岡弘樹
出版社:双葉社
価格:¥1,200(税別)