小説だから描けた「グリ森事件」のカラクリ。「罪の声」に戦慄!

週刊文春ミステリーベスト10、国内1位、
さらに本屋大賞にノミネートされた
塩田武士さんの「罪の声」(講談社)は、
1984年3月に起こった「グリコ・森永事件」を
題材にした、ミステリー小説。

発売当時から話題になった作品。
今回、あらためて読んでみて、よくぞここまで
描けたものだ!と心が震えました。

京都でテーラー営む曽根俊也は、ある日父親の
遺品から旧いカセットテープと黒革のノートを見つける。
ノートを見ると英文で全ては読めなかったが、そこには
日本の菓子メーカー「ギンガ」と「萬堂」の文字があった。
さらに、テープを再生すると自分の幼いころの声が聞こえてきた!
俊也は、記号のような言葉を話す自分の声を聞いて戦慄する!
まさか・・・あの「ギン萬事件」?
俊也は、未解決事件を扱ったテレビの動画を検索し該当の番組を発見。
その番組で流された音声は、「ギン萬事件」で恐喝に使われた
録音テープと全く同じ音声だった・・・。

大日新聞では年末企画で「昭和・平成の未解決事件」を取上げることになり、
大阪支社では「ギン萬事件」を扱うことになった。
ギン萬事件が起こる前、パリでハイネケンビール社の社長が身代金目的で
誘拐され、犯人は金を奪うと社長を解放し逃走。しかし犯人らは逮捕された。
その事件を東洋人らしい男が調べていたとの情報があったらしい。
記者の阿久津は、そのわずかな手がかりをもとに、鬼上司の命令で
イギリスに取材に行くことになる。
楽な仕事ばかりに逃げていた阿久津だったが、東洋人の恋人
だったらしい女性がいるとの情報を得て彼女を訪ねた・・・。

否応なくギン萬事件に巻き込まれ、被害者であり、加害者でもあると
認識した曽根と、仕事で仕方なく取材を進めることになった阿久津。
二人が「ギン萬事件」を調べる動機は全く別物であったが、
次第にのめり込み、特に俊也は自分のように声を使われた子ども
がいたことを知った。

やがて、俊也と阿久津はお互いが調べ出した「ギン萬事件」の
カラクリを知る・・・。
「ギン萬事件」は、一般庶民、特に子どもたちの楽しみを奪った
だけでなく、事件に関わることによって、幸せに暮らしていた一家を
地獄に突き落した事件でもあったのだ。

30年以上経過した今でも未解決の事件、「グリコ森永事件」。
子どもたちとその親たちを恐怖のどん底に落とした事件だ。
あれほどの大事件であったにも関わらず、いまだに真相を
突きとめることができない。

しかし、著者は小説に描くことによって、そのカラクリを暴いた。
緻密な取材は見事で、フィクションなのかノンフィクションなのか
読んでいると時々わからなくなる。
しかし、真相はこの通りだったかも知れないと思わせるリアルさがある。
そして事件の真相だけではない。その事件に巻き込まれた
家族の悲劇も描き、涙なくしては読めない。

30年間眠っていた大事件「グリコ森永事件」がこの小説によって
再び世間の注目を集め始めた・・・。
現実にもどんでん返しがあるかも知れない・・・。

『罪の声』
著者:塩田武士
出版社:講談社
価格:¥1,650(税別)