マスメディアの正義を問うミステリー「セイレーンの懺悔」

中山七里さんの「報道」をテーマにしたミステリー
「セイレーンの懺悔」を読みました。

最近、よく目にする「BPO」、放送倫理・番組向上機構。
このBPOから徹底的にマークされている、大手テレビ局の
社会部を舞台にミステリー仕立てで描かれた、
日本の報道を抉る!作品です。

葛飾区で起きた女子高生誘拐殺人事件。度重なるBPOからの
勧告で、番組存続の危機にさらされている、帝都テレビの
「アフタヌーンJAPAN」の里谷太一と朝倉多香美は、
起死回生のスクープを狙って奔走していた。多香美は、
事件の担当刑事の後をつけ、事件現場に遭遇。そこで
多香美は暴行を受け、顔が焼けただれた被害者・東良綾香の
遺体を目撃した。
里谷と多香美は、綾香の友人から、綾香がいじめられて
いるとの情報を得た。そこから浮かび上がった少年少女グループ。
その主犯格と思われる少女は、小学生連続レイプ事件の被害者
だった。
だが、里谷と多香美は強引なやり方でに主犯格の少女たちを
マークしてゆく。そしてさらなる不祥事を重ねるのだった。

報道の倫理、学校でのいじめ問題、家族崩壊。
現代の日本社会が抱える、歪みを取り上げながら、
それらを伝える「報道」とは何かを問うている。

マスコミの中に身を置きながら、報道の正義と
視聴率だけを追う組織のありかたその矛盾点を
里谷がばっさり斬っているところが面白い。

テーマは「報道の在り方」に絞ってい入るが、
少女を誘拐し殺害したのは誰なのかという
ミステリーも興味深い。
里谷と多香美が追う犯人と思われる方へと
ミスリードされてしまい、中山さんの術中にはまってしまうのだ。

また、イケメンの刑事・宮藤が、執拗に取材攻勢をかけてくる
多香美に警察官としての矜持を説くシーンが良い。
警察とマスコミは、事件真相を追うと言う点で似てはいるが、
決定的に違う点がある、警察は犯罪被害者やその遺族に
平穏な生活を取り戻すために仕事をしている。だがマスコミは
不安や不幸を拡大させているのではないか?そう問われる多香美。
果たしてそうだろうか・・・?
マスコミは被害者の悲しみを娯楽にし不幸を拡大再生産する
セイレーンなのか・・・?

里谷と多香美の報道人としての矜持と宮藤刑事の矜持が
ぶつかりあう!
瞠目のクライマックスに絶句!

『セイレーンの懺悔』
著者:中山七里
出版社:小学館
価格:¥1,600(税別)