渋くてリアルで切ない社会派ミステリー「最果ての街」

「地の底のヤマ」で吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞、
日本冒険小説大賞など、数々の賞を受賞した、西村健さんの
新刊が発売されました。
実は、はまさき、西村さんの作品はこの「最果ての街」が初読み。

東京には通称「山谷」と呼ばれる巨大なドヤ街がある。
そこにある山谷労働出張所は、日雇い労働の斡旋専門の職業安定所だ。
山谷地区は、不景気のため仕事が減少、さらに労働者の高齢化など
様々な問題が多発していた。
所長の深恒は、厳しい労働条件の中でも必死に生きる
労働者たちを、静かに温かく見守りながら接していた。

そんなある日、近くの公園でホームレス殺害事件が起こった。
被害者は、山谷地区の労働者だった・・・。
警察は、ホームレスの事件は日常のよくあること
と片付け、なかなか真剣に捜査はしない。
それでも、そのホームレスの死をなんとか遺族に伝えたい!
そういう思いが募り、深恒は被害者の親族を
探そうと動き出した。家族からもあきれられるほど
熱心に被害者の軌跡をたどる深恒・・・。
やがて、被害者の意外な過去が明らかになる。

ミステリー小説の展開だが、全くそういう片鱗を見せない。
ホームレスの日々の生活を丁寧に描てあり、ものすごくリアル。
事件が起きるまで、「なぜ、ホームレスに行きついてしまうのか」
という、底辺に墜ちてしまった様々な人たちの状況が語られる。
この作品を読み、今まであまり触れることのなかった暮らしを
している人々の実態を知ることができた。
経済活動のみを優先してきた結果の陰の部分だ。
今の日本社会の歪みが、すべてこの作品のなかの
登場人物たちの口から語られている。

厳しい現実の中、それでも前を見て生きている人がいること、
希望を持てるということがわかり、事件解決したあと少し切なく
なってしまったが、読後は清々しい気持ちになった。

『最果ての街』
著者:西村健
出版社:角川春樹事務所
価格:¥1,600(税別)