胸がしめつけられるほどの感動!「神(カムイ)の涙」

「神(カムイ)の涙」を読んで、アイヌという言葉を
久しぶりに耳にした。
自然を顧みず、便利すぎる生活を謳歌する私たち。
本当に人間らしい生き方ができているのだろうか・・・?
アイヌの人のその潔い生き方に感銘を受けた。

北海道、屈斜路湖に暮らすアイヌの木彫り作家・平野と
中学3年になる孫の悠。
平野が山に籠っているときに、若い男が訪ねてきた。
尾崎と名乗る青年は、平野に弟子にしてくれと懇願する。
平野は断固拒否していたが、周囲に説得され尾崎は通いの
弟子になる。
料理の腕前も良い、しっかり働く尾崎に悠はすっかりなついてしまった。
尾崎を警戒していた平野も信頼を置くようになる。
そして、彼ら3人は平和な日々を送っていたが、ある日突然破られる・・・。

尾崎は何のためにここにやってきたのか?
尾崎には誰にも言えない秘密があった。

尾崎の過去を振り返りつつ、現在の物語と交互に
描かれている。時計の針を戻しながら尾崎の秘密が
あばかれてゆく。

アイヌが差別されていると、この本で知った。
アイヌのプライドを持って、自然を敬い自然と共存する平野。
自分のルーツを捨て去りたい、孫の悠。
自らのルーツをたどる尾崎。

差別とは、家族とは、いまを生きることとは何か?を問う。

自然と神を崇拝し、今、自分に与えられた試練を
受け入れる。自分を信じる。身体に流れている
血を信じる。人は変われるんだ・・・。

クライマックスは著者流のバイオレンスな展開が待ち受けうるが
読み終わると涙が止まらなくなる。

こんなに泣けるサスペンスは久々に読んだ。

『神(カムイ)の涙』
著者:馳星周
出版社:実業之日本社
価格:¥1,600(税別)