哀切に満ちたミステリー「盤上の向日葵」。

この秋話題のミステリー作品「盤上の向日葵」(中央公論新社)
を読みました。
著者は、「検事の死命」「検事の本懐」
「孤狼の血」「慈雨」など、胸を打つミステリー作品を描く、
柚月裕子さん。
大好きな作家さんです。

今回は、「盤上」とタイトルにあるように、将棋の世界を
舞台にした本格ミステリーです。

埼玉県天木山山中で白骨死体が発見された。
その白骨死体は日本に7つしか存在しないといわれる、
初代菊水月作の将棋の駒を抱いて埋められていた。

元奨励会でプロをめざしていたが、夢破れ刑事に転身した佐野刑事は、
将棋に詳しいだろうということで、頑固で偏屈な石破刑事とコンビを
組まされ、その名駒を頼りに捜査することになった。

片や、将棋界では世紀の対局が迫っていた・・・・。
若き天才棋士・壬生芳樹竜昇とプロ棋士の養成所である
奨励会を経ず、実業界から転身し特例でプロになった
東大卒のエリート棋士・上条圭介との竜昇戦だ。
特に、上条圭介の特異な経歴と天賦の才能をワイドショーが
連日競って取り上げていた・・・。

2人の刑事が名駒を追って、事件の核心へと迫ってゆく過程と
特異な経歴の持ち主・上条圭介の生い立ちが交互に描かれてゆく。

父親に育児放棄された上条少年。それでも父を慕う姿が切なく迫る。
将棋の恩師・唐沢との出会いで人間らしく生きることを
学ぶ上条少年。唐沢の教え通り、ただひたすら勉学に励む。
しかし、上条が大学時代、裏の将棋界(お金をかけて将棋をさす)
の真剣師と出会い、命がけで将棋をさす真剣師たちとの
勝負に心を奪われてゆく・・・。

上条の生い立ちを読んでいくと、胸が苦しくなる。
恩師・唐沢の教えを胸に必死に生きるが、彼の
特異な才能に目をつけ利用しようとするものと出会う。
実業家として成功しても心が休まることはない。
自分の運命に翻弄されつつ生きる上条の姿がとにかく
哀切極まりない・・・。

読んでる途中で、何だか懐かしい感じがした。
この展開・・・松本清張の「砂の器」を彷彿とさせた。

柚月さんにしか描けない、「慟哭」!のミステリー

『盤上の向日葵』
著者:柚月裕子
出版社:中央公論新社
価格:¥1,800(税別)