ある刑事の再生の物語、笹本稜平氏『駐在刑事』

『駐在刑事』(講談社文庫)は、「越境捜査」シリーズ(双葉社)、「素行調査官」シリーズ(光文社)で人気の笹本稜平氏の短編集。
冒険小説の第一人者である、著者が描く一人の刑事の物語。
かなり渋い作品です。(はまさきは渋い系大好きなので!)

警視庁捜査一課の警部補だった江波淳史。彼は取り調べ中に容疑者が服毒自殺したことで、奥多摩の駐在所へと左遷された。
心も体もボロボロに傷ついたまま、駐在所での勤務が始まる。
時にはいやおうなく過去と向き合うこともある。自分は容疑者を死に追いやる何かをしたのか・・・と。どうしようもない焦燥にかられ、自分を否定する日々。
しかし美しい山々に囲まれた奥多摩での仕事は、すべてを失った江波を優しく包み込んでいく。

静かな奥多摩でも事件は起こる。行方不明の女性の遺体。自殺か他殺かそれとも事故なのか・・・?
不審な血痕を残し、行方不明になった老人。老人の孫の機転で捜査が開始されることに。などなど。移ろいゆく奥多摩の自然を舞台に描かれた、6つの事件。

連作短編の形式をとり、組織の歯車のひとつに過ぎなかった一警察官が、生身の一人の人間として再生してゆく過程を丁寧に描いている。
血なまぐさい事件も絡んでいますが、奥多摩の自然とそこに住む人々の優しさ、ぬくもりが伝わってきます。

『駐在刑事』
著者: 笹本稜平
出版社:講談社
価格:¥648(税別)