精神鑑定医、犯罪者の心の闇を暴く!「十字架のカルテ」

知念先生の最新作「十字架のカルテ」(小学館)
を読みました。

今まであまり触れられなかった、精神疾患
の犯罪に焦点をあて、それを鑑定する
精神鑑定医が主人公のミステリー。
短編5作、どれも読みごたえがありました。

精神科医・影山司の助手に志願した弓削凛。
凛には精神鑑定を学ばなければならない理由があった。
しかし、影山の「正確な鑑定のためにはあらゆる手をつくす」
という信念のもと、犯罪者と対峙し心の闇に
触れてゆくうちに、凛は精神鑑定の重要性を
改めて知ることになる。

無差別殺傷事件を起こした男性は
重度の統合失調症と診断されたが…。

重い鬱病と診断された母親は、生後五か月の娘
とともに無理心中を図ろうとした。
それは「悪魔が娘を殺せ」と脅したと言う…。

自宅に引きこもっていた青年が姉を刺し逮捕された。
影山と凛が青年の鑑定を行うと、恐慌状態に陥ってしまった。

傷害致死で起訴された男には精神疾患の疑いが。
しかし影山は裁判で「罪を逃れるための詐病」と
証言する…。

同僚を刺殺した女性、過去に2件の殺人事件を
起こしていた。女性は解離性同一障害(多重人格)
と診断され、不起訴となっていた…。

緻密に練り上げられたストーリー展開と
予想をはるかに超えるどんでん返しの妙。
そして、様々な犯罪者との緊迫感あふれる頭脳戦に
ぐいぐいと惹きつけられた。

犯罪を犯しても、心身喪失や心身耗弱で刑事責任能力を
問えないということで不起訴になってしまう今の司法制度。
被害者や遺族にとってそれはあまりにも悲しい。
それをわかりながら、鑑定する精神科医は、
どれほどの苦しみを抱えるだろうか?

精神疾患と犯罪。とても難しいテーマだと思う。
そこにあえて斬り込んでいった著者。
物語の端々に著者のブレない姿勢を感じる。

凄すぎる!社会派の医療ミステリー

『十字架のカルテ』
著者:知念実希人
出版社:小学館
価格:¥1400(税別)