北欧ミステリーの極致!エーレンデュルシリーズ第5弾「厳寒の町」

アイスランドのベストセラー、
レイキャヴィク警察が舞台の
犯罪捜査官・エーレンデュルシリーズ第5弾
「厳寒の町」を読みました。

「湿地」「緑衣の女」「声」「湖の男」
既刊の4作品、どの作品も心に残る作品ばかり。

悲惨な犯罪小説でありながら心が震える感覚。
アーナルデュル・インドリダソンの作品は
ただ事件が起きた、捜査した、犯人が判明した、
というシンプルなストーリーだけではない、
物語の底辺にある「テーマ」に心を動かされる。

レイキャヴィクの古い住宅街で少年の
死体が発見された。年齢は十歳前後と
思われる。地面にうつ伏せになり、
体の下の血溜まりは凍り始めていた。

少年はアイスランド人の父とタイ人の
母の間に生まれた。両親は離婚し、
母親と兄と一緒にレイキャヴィクの
住宅街に越してきたのだ。

アイスランドでは移民政策に綻びが出始め
移民に対する差別が生まれていた。
少年はそんな状況の中で殺された。
人種差別的な動機が疑われ、
レイキャヴィク警察のベテラン犯罪捜査官・
エーレンデュルは、同僚のエリンボルクや
シグルデュル=オーリらと共に、少年が
住んでいたアパート周辺、通学していた学校を
中心に捜査を開始する。

少年の死という事で、教師、子どもたちにも
厳しい聴取する刑事たち。

少年はなぜ殺されてしまったのか?

エーレンデュルは、また「女性失踪事件」
という別の捜査も抱えていたが・・・。

少年の事件を捜査する物語と並行して、
今作品は、エーレンデュルの少年時代に
触れる。彼は、子どもの頃弟を喪うという
過去を持っていた。遺体も何も発見されず、
心に深い傷として残っていた。
しかし、彼の二人の子どもたちによって
改めて向き合うのだ。
また、同僚二人の苦悩するプライベート
も丹念に描かれる。

少年殺害事件で慟哭する家族、
こんな悲劇が起こってしまった社会に対する
怒り、そして戸惑い。

哀しみ、むなしさ、やるせなさが
物語を支配している…。
しかし、読まずにはいられない魅力がある。

『厳寒の町』
著者:アーナルデュル・インドリダスン/柳沢由美子訳
出版社:東京創元社
価格:¥2,100(税別)