はぐれ者の男が一途に生きる道を究める!「底惚れ」

時代小説もわりとよく読んでると思うけれど、
この作品は、詳しく紹介されるまで知らなかった。
青山文平さんの「底惚れ」(徳間書店)。

江戸時代版ハードボイルドと帯に謳われている
通り、主人公の男が終始江戸っ子口調で語るので、
それがとても粋に感じられ、この作品に
ぴたりとはまりとても良かった。

一季奉公を重ねて四十も過ぎ、自分を持て余し
はぐれ者だった男が、殿さまのお手付きになり
子供を産んだ後、里に帰される女・芳に惚れた。
芳は二度と戻れぬ宿下がりを命じられ、その
同行者として男が選ばれたのだ。

殿様は芳にひどいことをしたもんだと憤った男。

芳に奉公先を見返す話を持ちかけたが、
男を刺して逃走した。

男は思った。芳に殺されるなら本望だ・・・。
でも、芳は本気で殿さまのことが好きだったんだ。
俺みたいな男を刺して、俺が死んだら芳は
人殺しになっちまう。それだけはダメだ・・・。
死にかけた男はそんなことを思った。
幸い、男は一命をとりとめた。

何をしても中途半端な生き方しかできなかった男が
惚れた女に刺されたおかげで生きる目標を持った。
そして、芳に人殺しでない事を伝えるため、
芳を探し出すことを決心する。
そのために、男はとんでもない策を打ち出す!

その策を練るために男は様々な人物たちと出会う。
彼らは、男の覚悟に惚れ男のために誠意をつくす。

最底辺を懸命に生きる江戸の庶民の暮らしや
江戸情緒がたっぷりと描かれ、その中で
愛の力でよみがえった男の一途な生き方が映える!

物語全体がかっこいい!

『底惚れ』
著者青山文平
出版社:徳間書店
価格:¥1,760(¥1,600+税)