少女の生きざまに涙が止まらない「われら闇より天を見る」

クリス・ウィタカ―「われら闇より天を見る」
(早川書房)は、
2021年度英国推理作家協会賞最優秀長篇賞
(ゴールドダガー)を受賞した、傑作海外
ミステリー。
ヤングケアラーの少女が、家族を守るために
必至に生き抜く物語。

カリフォルニア州の小さな町。ケープ
ヘイヴンで10代の少女ダッチェスは、
母親と幼い弟と3人で暮らしている。

母親のスターは、酒におぼれ、何度も
救急車で病院送りになっている。
弟のロビンはまだ幼い。
貧しい暮らしや、母親のことで周囲から
孤立しているダッチェスたち。
彼女たちを心配をするのは、警察署長の
ウオークだった。
しかし、ダッチェスは他人に弱みを決して
見せない。自らを「無法者」と呼び、
家族をバカにする大人たちや同級生たちに
敢然と立ち向かった。

ウオークは、30年前に起こった少女殺人事件の
裁判で親友のヴィンセントに不利な証言をして
しまい、ヴィンセントは有罪になった。
そのことをずっと引きずっていた。

そしてヴィンセントが出所し、町へ帰ってくる。
平穏だった町に、さざ波が立ち始める。

そんな時、事件は起こった。
ダッチェスの母親、スターが殺されたのだ!

幼い弟と二人きりになってしまった
ダッチェスは、やがて祖父に引き取られる。
しかし、ダッチェスは彼女たちを顧みなかった
祖父を憎んでいた。
ロビンは祖父に懐いたが、ダッチェスは決して
心を開こうとしなかった。
大人の優しさにすがりたいと思いながらも
裏切られる恐怖に慄くダッチェスだった。
しかし・・・・。

弟のために懸命に生きようとするダッチェス
を次々と悲劇が襲う。

なぜ彼女にだけ・・・。どんなに悲劇に
見舞われようと、絶対に挫けない。
10代の少女なのに、なぜこれほどの強さを
持てるのか?

30年前に起きた、少女殺人事件の真相と
新たに起きた殺人事件の犯人を追うという
ミステリーでありつつ、少女ダッチェスの
強く逞しい生き様を描いた、ヒューマンドラマ。

ラスト一行で、読んでる間ずっと我慢していた
涙が思い切りあふれてきた。

心が激しく揺さぶられる。
この秋、NO1の海外ミステリー。

『われら闇より天を見る』
著者:クリス・ウィタカ―
出版社:早川書房
価格:¥2,530(本体¥2,300+税)