刑事としての正義を貫く男が主人公。姉小路祐『刑事長』がドラマ化

この春から、テレビ東京系の水曜ミステリー9でドラマ化されることになりました、姉小路祐『刑事長』を読みました。
姉小路さんが現場で働く刑事さんの気持ちを思って描いた、正統派の警察小説です。
はまさきは以前に姉小路さんの作品で『署長刑事 大阪中央署人情捜査録』を読んで、姉小路さんの描く警察小説にはまったのでした。
この『刑事長』は、姉小路さんが初めて手掛けた警察小説のようです。
森村誠一さんが、この作品に対してこんな言葉を贈られています。「久しぶりに興奮する推理小説を読んだ。興奮の種類にも様々あるが、この作品から受けた興奮は上質である。」と絶賛。(本書あとがきから)

大阪府警御堂筋署に、警察庁から同署始まって以来の若きキャリア署長、いわゆる若殿様が赴任してきた。
最近の警察署には、若いエリートのキャリアさんたちが、研修という名目で署長として赴任してくることが多い。
大阪ではそんな署長のことを若殿様と陰口をたたくようだ。キャリアさんたちを雲の上の人、彼らを支える警部以上の人たちをエライさん。現場の刑事をジャコと言うらしい。
そして一番つらい仕事はジャコにまわってくる。
署長が赴任してきてちょっと落ち着いた頃、管内で婦女暴行殺人事件が発生した。
現場はひどい有様だった。殺害された女性は元看護師。その後看護師を辞め、親戚の女性が経営するスナックで働いていた。
無断で店を休んだ女性を心配した常連客に急かされ、スナックのママが女性のマンションに行き、そこで殺害された女性を発見したのだ。
大阪府警捜査一課の岩切鍛治、通称ダンさんは、殺害された女性に見覚えがあった。以前に病院でちょっとした事件が起きた時、岩切を助けてくれた女性だった。
岩切はこの女性のために、犯人を挙げると誓う。
ところが捜査本部は、通り魔殺人事件と決め、効率の悪いローラー作戦を展開する。
芳しい情報が挙がらない中、兵庫県警が殺害された女性の写真が売られていた事実を新聞で発表!事件は大きく動き、犯人逮捕に繋がる!
しかし、岩切刑事はその決着に不審を抱き、上司からの叱責も無視し、たった一人で地を這うような捜査を開始する。

上位下達の警察組織の中で、ただただ市民ために働く岩切刑事。優秀なベテラン刑事だ。
しかし彼のような職人型の刑事は組織の中でも浮いた存在。
組織の動きを無視し単独で行動すればたちまち懲罰を受ける。
しかし、岩切はそんなことは何とも思っていない。
彼の思いはただ一つ!事件の真実を暴くことだ。
それがどんな結果になろうとも、悪は悪だ。このぶれない岩切刑事が本当にかっこいい。
後輩の刑事に「岩切さんは風采はあがらないのにあれほど後ろ姿が恰好いい刑事はいないよ」と言わしめる。
悪に挑む下積み捜査員の執念!!これこそ上質の興奮!!

『刑事長』
著者: 姉小路祐
出版社:講談社
価格:¥571(税別)