デイリーサスペンスの女王が描く、傑作短編集『巻きぞえ』

新津きよみさんの著書は、日常の中で起こりうる小さな出来事をサスペンスタッチで描いた作品が多いです。
この『巻きぞえ』(光文社文庫)もそんな中の1点。‘死体’をテーマに取り上げた7編の短編集です。
『第一発見者』、『巻きぞえ』、『反対運動』、『行旅死亡人』、『二番目の妻』、『ひき逃げ』、『解剖実習』どれも傑作ぞろいですが、特にはまさきが面白いと思ったのは、表題作の『巻きぞえ』です。
夫と息子と幸せに暮らす‘わたし’は、ある日夫の部屋で9年前に起きた自殺事件の記事を発見した。その記事とは、9年前に飛び降り自殺の巻きぞえになって亡くなった、‘わたし’の恋人についての記事だった。なぜこんな記事を夫が持っているのか?不信感とともに9年前の哀しい記憶が甦ってきた。さらに、その事件の真実をも知ることになる・・・・。これは、飛び降り事件の裏に隠された真実が明らかになる、謎解き仕立てになっていてその真相解明の過程がとても面白かった。
『第一発見者』『二番目の妻』は、サイコチックなサスペンス。どちらも何かに憑りつかれた女性が起こす哀しい事件。
『反対運動』は、執拗に署名を迫る隣人との不気味なトラブルを描いた作品。
『行旅死亡人』は、隣人の若い女性が突然亡くなったことで、行方不明になった父親を探す決心をする女性の心の動きをミステリータッチで描いている。
『ひき逃げ』は、不倫中の女性教師がある日犬を轢いてしまう。犬だからとそのまま逃げ去ったが、やがてそのことが女性教師をとことん苦しめることになる。愛するものを奪われた人の苦しさと、無神経な女性に訪れる不幸を描く。『解剖実習』は、解剖献体のつぶやきに驚く!?
どの作品も練りに練られた作品ばかり!!新津さんの他の作品も読みたくなりました。

『巻きぞえ』
著者: 新津きよみ
出版社:光文社
価格:¥590(税別)