キャリア警察官の悲哀を描く!『出署せず』

安東能明氏は、『撃てない警官』に収録された『随鑑』で
日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞したミステリ作家。
『撃てない警官』には、人気警察小説作家の方々から絶賛の声!
今野敏さんは、‘刑事たちのリアルな息づかいが痛いほど迫ってくる’
誉田哲也さんは、‘確かな手ごたえと重み、味わい深い作品集’
柴崎令司という一人の警察官の物語。
その「撃てない警官」の続編が、本書『出署せず』。

「撃てない警官」は総務部企画課の課長・柴崎が
部下の拳銃自殺の責めを負わされ、綾瀬署に左遷される。
綾瀬署の警務課で課長代理を勤めながら様々な事件と向き合う。
そして、自分を陥れた上司への復讐の機会を虎視眈々と狙う。

出署せず

「出署せず」も「撃てない警官」と同様短編集。しかし最後の
表題でもある「出署せず」は、読み応えのある中編だ。

綾瀬署警務課・課長代理の柴崎は、この春綾瀬署の新署長に
なった、女性キャリア・坂元真紀に少々不安な日々。
そんな中、監察から銃刀法違反に関する事件で、
退職間近のベテラン刑事の不正を指摘されたのだ。
軽犯にするため、カッターナイフの刃をわざと折ったとして
監察に内通があったのだ。柴崎は、署長に請われこの
事件を精査することに。「折れた刃」。

ひき逃げ事件が発生!その事故車は盗難届が出ていたものだった。
柴崎は、盗難届を出していた男性に事情を聴くことに。
さらにその男性の会社へ行くと、従業員が最近辞めた
男が怪しいと言い出した。柴崎は本格的に調査するはめになる・・。
「逃亡者」。

保護司を務める人格者の男性が、息子をバットで殴り殺したとして
逮捕された。拘留中、柴崎はその男性と事件について書かれたノートを
やりとりすることに。人格者として評判の高かった、この男性が
なぜ、息子を手にかけたのか・・・?息子は日頃から家庭内暴力を
奮っていた。正当防衛であってい欲しい・・・。柴崎はそのノートから
真相を探ろうとするが・・・『息子殺し』。

9年前の老女強盗傷害事件の証拠として保管されていた4本のたばこの
吸い殻。どれも同一人物のもののように見えるが・・
最近起きた、事件の関連でDNA鑑定をしたところ、
一本だけ違う人物のものだということが判明。
綾瀬署内で何かが起きている・・・?柴崎はまたしても
調査に駆り出される・・・。『夜の王』

5年前に行方不明になった娘の再捜査を依頼された綾瀬署。
生活安全課課長は、大人が自分の意志で家出したのなら事件性は
ないと判断。再捜査など忙しくて出来ないと署長に言い放った。
先の証拠不明事件で、現場の捜査員たちと距離が出来てしまった
署長は、柴崎に女性行方不明事件の捜査を指示する。『出署せず』。

現場とかけ離れた感覚を持つ女性キャリア署長と、捜査員の
間で頭を悩ませる課長代理・柴崎。また現場では捜査員同士の
軋轢が署内を機能不全に陥れる・・・。

5つの事件の行方と謎の解明は、これぞまさにミステリー!
刑事ではないが、洞察力優れた柴崎が探偵役となり見事に真相を暴き出す。

さらに、警察組織での人間ドラマが濃密に描かれていて、
今まで読んできた警察組織をテーマにした小説よりも
さらにリアルで生々しい。

名だたる警察小説作家をも唸らせる!見事な警察小説ミステリー。

『出署せず』
著者:安東能明
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥750(税別)