巧妙で精緻!どんでん返しに驚嘆!「テミスの剣」

『贖罪の奏鳴曲』『追憶の夜想曲』で
中山七里にすっかり魅了されました。
この2つの作品はものすごく面白いですが、
「テミスの剣」はもっと面白い!!

「テミスの剣」の主人公、渡瀬という刑事は、
「連続殺人鬼カエル男」「贖罪の奏鳴曲」に
登場する、渡瀬警部補なんです!
‘刑事の鬼’となる前の渡瀬警部補の苦悩する姿が
描かれています!
さらに『静おばあちゃんにおまかせ』で、冴えわたる推理を見せた
現役裁判官時代の高遠寺静も登場!
中山ファンにはたまりません!

テミス

昭和59年台風の夜、埼玉県浦和市で不動産会社経営の夫婦が殺された。
浦和署の若手刑事・渡瀬は、ベテラン刑事の鳴海とコンビを組み捜査を開始。
鳴海刑事が現場から秘かに押収した帳簿から、殺された不動産会社社長は、
裏で高利な金貸しをしていたことが発覚!
その帳簿のリストから、容疑者を絞り込んだ。
そして、鳴海は任意同行した楠木青年に苛烈な取り調べを行った。
渡瀬は、鳴海のやり方に違和感を覚えつつも、突出した検挙率を誇り
上層部からも一目置かれている鳴海に、意義を唱えることは出来なかった。
やがて、楠木は苛烈極まる聴取の結果、犯行を自供した。
だが、楠木は裁判では供述を一転。刑事の暴力的な取り調べで自白
させられたと訴えたが、死刑が確定し、獄中で自殺した。

そして、事件から五年後、同一管内で発生した窃盗事件をきっかけに、
渡瀬は昭和59年の強盗殺人の真犯人が他にいる可能性に気づく。
渡瀬は、自分は無実の人間を死に追いやったと激しい後悔の念を抱きつつ、
一人、再捜査をする。しかしそれは県警全員を敵に回す行為だった・・・・。

苛烈な取り調べのシーンは、まるで冤罪が生まれる過程を読んでいる
ようだった。実際にあった数々の冤罪はこうして生まれていたのかと・・・。
刑事がこいつは黒だ!と判断したら、なんとしてでも(証拠をでっちあげても)
自白を強要する・・・。恐ろしい!
しかしもっと恐ろしいのは、冤罪とわかってもそれを隠蔽しようとする
今の日本の司法制度だ・・・。

渡瀬は、絶対に間違えない、真実のみを追う刑事として
生まれ変わって行く・・・。
その渡瀬が、冤罪事件から20年以上過ぎ、その事件の
裏に隠された、ありえない真実にたどり着いてしまう。

いったい、正義とはなんなのか?
いつもタイトルに深い意味を持たせる。
「テミスの剣」はいったい誰に振り下ろされるのか・・?

現代日本の司法制度に大きな疑問を投げかけ、最後の最後まで二転三転し、
読者を翻弄する「どんでん返し」を融合させた驚異の社会派ミステリー。
物語の面白さ、奥深さは中山作品中一番!!

『テミスの剣』
著者:中山七里
出版社:文藝春秋
価格:¥1,750