余韻の残るミステリー『王とサーカス』

このミステリーがすごい2016年版で国内1位になった
米澤穂信さんの「王とサーカス」を読みました。
この作品、本屋大賞にもノミネートされています。

昨年も米澤さんの作品「満願」がこのミス1位になり
2年連続は珍しく快挙です。

王とサーカス

読み終わった後、余韻が残りしばらく切ない気持ちになりました。
なんと奥の深いミステリー作品だと思いました。

ネパールのカトマンズを舞台に、2001年にネパールで
実際に起きた王宮事件を背景に描いたミステリー。

ミステリー的な展開はなかなか訪れない。
100ページあたりまでは、主人公のジャーナリスト・大刀洗万智が
どのようなきっかけでネパールにやってきたのか?
そのネパールで出会った人たちとの何気ない交流が描かれている。
だが、この冒頭は後に重要な意味を含んでくる。

王族一家が王子によって射殺されてしまう事件が起こってから
俄然面白くなってくる。

王宮で起きた王族一家殺害事件の余波でカトマンズ市内は混沌としていた。
日本から旅の取材のためにカトマンズを訪れていた大刀洗万智は、
この事件をスクープするため、取材を開始。
ホテルの支配人・チャメリの知り合いで、王宮で警護の
任に就く軍人・ラジェスワルを紹介してもらう。

万智はラジェスワルに王宮事件の詳細を聞くが、ラジェスワルは、
その件について一切語らなかった。
仕方なく帰路につく万智。そして、カトマンズには夜外出禁止令が出た。
翌朝、万智は王宮近辺に取材に出向く。だが得られるものはあまりなく、
市内の様子を撮影し戻るところに、ラジェスワルの死体を発見する!
彼の背中には「INFORMER」という文字が刻まれていた。
一体、誰が何のために・・・!?
王宮事件の取材の傍ら、万智はラジェスワルの殺害の真相を追うことに!

ミステリー小説に、社会派色をプラス。
貧困にあえぐカトマンズの下層の人たちの心の叫びが物語の
ドンでん返しに繋がっている。
2重3重に張り巡らされた伏線。それが解明されたとき、悲しい真実が暴かれる!

途上国の真の姿も知らず、何を求めているのかも忖度せず、
大国は自らの価値観で善意を施す。
しかしそれは大国の驕りであり、途上国からしたら「ほっといてくれ!」
それが真実の想いかも知れない。

『王とサーカス』
著者:米澤穂信
出版社:東京創元社
価格:¥1,700(税別)