2016年、第36回横溝正史ミステリ大賞が決まりました。
逸木裕さんの『虹を待つ彼女』です。
人工知能、オンラインゲームなどがもっと発展した、
近未来の2020年を舞台に描かれた異色のミステリ。
あまりの完璧さに選考委員絶賛!
物語のテーマの深さ、構成の上手さ、魅力的なキャラクター設定・・。
全てが新人離れしている、デビュー作とは思えない傑作!
主人公の工藤賢は、優秀ゆえに他人に心を開くことが出来ず、
自らの感情さえもコントロールしてしまう。
恋愛もサプリメントのようなものだと嘯く冷淡な人間だ。
そんな彼の仕事は、ゲームソフトをプロデュースするクリエイターだ。
人工知能と恋愛が出来る人気ソフト「クリフト」を手掛けている。
その「クリフト」もそろそろプレイヤーには飽きられる頃・・。
そんな折、故人を人工知能化するプロジェクトに参加。
若くして亡くなった名女優の人工知能化を目標に、試作品を作ることに。
そのモデルとして選ばれたのが、6年前に自分を標的にしたテロ事件
を起こし、最後には自殺を遂げた、美貌のゲームプログラマー・
水科晴。工藤はより本人に近づけるため、晴について調べ始める。
やがて、工藤は晴の人格に共鳴し強く惹かれるようになる。
そして晴には‘雨’という恋人がいたことを突き止める。
だがその過程で「晴の調査を止めなければ殺す」という脅迫を受ける。
それでも、工藤は憑かれたように晴の調査をするのだった。
或る筋から手に入れた、晴の遺した未発表のゲームの中に、
謎に包まれた彼女迫るヒントを見つける!
人工知能、ゲーム、プログラマー、オンライン、IT・・・。
人間的な暖かさが感じられない、無機質な世界。
しかも、死者の人工知能化とは・・・。?
苦手な世界観だったが読み進むうちにはまってしまう!!!
工藤によって明かされる、水科晴。
なぜ劇場型自殺事件を起こさなければならなかったのか?
雨とは誰なのか・・?
それがすべて明らかになった時、なんだこれは?読者は完全に騙される。
この無機質な世界観が、人間の激しい感情に染まり
切なく、苦しくなってくるのだ!!!
水科晴を調査する工藤はさながら探偵だ。
さらにきな臭い殺人予告の脅迫メール。
いかにもミステリだ。
だがこの作品にはもっと違うものが隠されている!
人間にとって一番大切な感情だ!
その感情は、最後の最後に迸る!
ラストの1ページ!思わず号泣する!
『虹を待つ彼女』
著者:逸木裕
出版社:KADOKAWA
価格:¥1,600(税別)