真実を求め戦う女性暗殺者を描く!「ライアー」

大沢在昌さんの元女性刑事が主人公の「冬芽の人」に
続き、女性暗殺者が主人公の「ライアー」を読みました。

大沢さんの作品の中で一番好きなのは、もちろん
新宿鮫シリーズですが、バイオレンスな描写も
多いので、休み休み読んでいるところです。
それでも、この「ライアー」に登場する女性は、
女版鮫島みたいで、読んでしまいました。

優しい夫と素直に育った息子に囲まれ、
幸せな家庭生活を送っている、神村奈々。
実は、対象人物の「国外処理」を行う秘密機関の工作員。
優れた判断力と暗殺技術で機関内でもトップクラスだ。

奈々は対象人物の「国外処理」を行うため、上海にいた。
夫と息子には友人に会いに行くと言ってある。
それならば家族で久々にゆっくりしようということで
夫と息子も一緒にやってきた。その二人は、釣りに行っている。
奈々はその間に任務を完了する予定だ。
仲間と入念な打ち合わせの末、任務を決行した。
完璧だと思われた仕事だったが、処理を行った
対象人物の関係者二人に顔を見られてしまった。
とっさの判断で関係者を処理し、逃亡を図った奈々だったが
意外な速さで中国の警察がホテルを包囲していた。
奈々は連行されたが、あっさり釈放された。

その後日本に帰り穏やかな日常を送っていた。
だがある日、夫が身元不明の女性と怪死を遂げた。

夫の性格と自分に寄せる愛情を考えれば、女と一緒にホテルで
死ぬなんてありえない!
奈々は冷静に状況を把握しようとした。
夫の遺体と対面させられ、事情を聞かれたときだった。
奈々のあまりの冷静さに、刑事は疑問を抱く。

奈々は夫の死の真相を知るため一人動き始めた。
しかし、そのことがさらに‘何か’を刺激したらしい。
奈々は命を狙われる。
そして、運命の歯車が狂い始めた。
次々と現れる殺人者、裏切り、謎!?。

それでも奈々は夫のために真相を追う!

奈々は生き残るため、自分の障害になるものをすべて
排除してきた。普通の人間の感情はどこかに置き忘れた。
だから夫に対する気持ちは、息子の父親という感情しか
持てなかった。自分の方が早く死ぬ。だから夫に
息子を育ててもらいたい。ただそれだけだった。

だが、夫と息子との穏やかな生活の中で大切な事を知ったのだ。
夫を失い、次第に夫が本当にしたかったことがわかると
奈々は夫に対し深い愛情を感じるようになった。

夫はなぜ死ななければならなかったのか・・・?

夫と息子のために一人で闘いを挑む奈々の姿に心が震える!
女性版、アクション・ハードボイルドの傑作。
全てを悟ったとき、奈々は亡くなった夫のために息子と生きる
決意を固める。その清々しさは何とも言えない!

『ライアー』
著者:大沢在昌
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥940(税別)