凄すぎるミステリー「天上の葦」

太田愛さんの新作「天上の葦 上下」を読みました。
デビュー作「犯罪者」から2作目の「幻夏」。
常に弱者を見つめ、社会の矛盾点をついた重厚な
ミステリーを描き続ける太田愛さん。
その作品は読んでいると心にずっしりと響きます。

そして最新作「天上の葦」は、前2作を上回る力作です。
凄すぎるミステリー作品。

老人が渋谷のスクランブル交差点でいきなり
天を指し倒れ、そのまま息を引き取った。
白昼に起こった老人のその奇妙な行動は、
お昼のニュースで放送され、衝撃がはしった。

老人が指差した先には何があったのか?
ある筋から調査を依頼された探偵の鑓水と修司。
期限は2週間!?修司は納得できなかったが
成功報酬の大きさに逆らえず、調査を受けた。
鑓水はまず亡くなった老人の過去をさぐる。
老人は90歳を過ぎるまで現役の産婦人科医だった。
小さな個人病院だったが親切丁寧で看護師からも
患者からも信頼されていた。
彼を紹介した記事を読んだ鑓水は、戦後産婦人科医に
なってからの経歴しか記載されていないことに
疑問を持ち、それ以前の彼の経歴に何かあると
推理し、修司と共に関係者を探すことにする。

一方、交通課に左遷された刑事・相馬は、
公安の課長から部下の行方を内偵して欲しいと依頼される。
まじめな公安刑事がなぜ行方を断ったのか・・?
何を調べていたのか・・・?
二方向からの調査は、やがて交差し、読者の想像を
はるかに超えたストーリーへと展開する。
そして、鑓水・相馬・修司の三人でこの事件の背景を
調査してゆくと、隠されていた老人の過去に辿り着く・・・・。

戦後70年、忘れさられようとしている、太平洋戦争。
その時、国は如何にして国民を戦争に駆り立てたのか?
それはメディアの暴走だったのではないか?

戦争中、帝国軍が国民に強いてきたこと。
それを当然のように受け入れてきたこと。
その描写力とストーリーは圧倒的臨場感を持って
読者の心に刻まれる。

心臓を患いながら、死に瀕して必死に老人が訴えたかった
ある強烈なメッセージ。それを明らかにするために
三人は命懸けで奔走する。

シリーズ史上最も面白い、最もスケールが大きい!
読み終わった後の余韻がなかなか去らず、心に残る凄い
ミステリー作品です。

『天上の葦 上下』
著者:太田愛
出版社:KADOKAWA
価格:各¥1,600(税別)