心が揺さぶられる、検察ミステリー「地検のS」

伊兼源太郎さんの「事故調」が
あまりにも面白かったので、
「地検のS」も続けて読んだ。

湊川地検を舞台にそこに関係して
いる、新聞記者、弁護士、検事
検察事務官たちを主人公にした
短編集。

「置き土産」
1週間以内に特ダネをあげろと
司法回りの記者・沢村は、上司から
強いプレッシャーをかけられていた。
そんな中、湊川地裁での取材中、
地検の総務課長・伊勢雅行が
法廷を覗く姿を見かける。
陰の実力者と噂される男が、
ありふれた事件になぜ興味を抱くのか?

「暗闇法廷」
面倒な事件を押し付けられた。
暴力団の構成員が起こした保護責任者
遺棄致死罪の裁判で、証人として
呼ばれた男は、森本検事の質問を
のらりくらりとかわし続けた。
森本の検察事務官である新田は、
この裁判を歯がゆい思いで見ていた。
尊敬する森本検事は一体どうなるのか?
そんな時、総務課長の伊勢が声をかける。

「シロとクロ」
両親にも見放された男の弁護をする
弁護士・別府直美。
確かに、男はトラブルメーカーで
これまで何度も警察お世話になっている。
両親からは、刑務所に入れてほしいと
言われる始末。しかし今回の事件に
おいて、男は罪を犯していない。
まっとうな弁護をするべきだと考える
しかし・・・。
苦悩する別府の前に伊勢が現れる。

「血」
DVの夫に息子ともども殺されると
思い、夫を殺害してしまった主婦。
罪を償い出所したあとは、建設
会社の事務員として働いていた。
ところが、ある政治家の政治資金
規正法違反の端緒を握る存在だと
検察に目をつけられた。
担当の検事・相川晶子は、その主婦
から何としても自白を引き出せと
プレッシャーをかけられていた。
しかし、聴取しても頑なな主婦からは
自白が取れない・・・。

「証拠紛失」
政治家の闇献金疑惑に関連し、建設会社の
社長席で発見された重要なメモが紛失
した。総務課長の伊勢から呼ばれた
三好は、そのメモを3日後の会議までに
探し出せと命令を受ける。
同僚とともに必死に捜索するが・・・・。

湊川地検の総務課長・伊勢雅行は
いったい何者なのか?
長年、総務課長の席にあり、湊川地検の
すべてを知る男。
そのすべての事件の裏側には、伊勢がいた。

伊勢の登場によって、苦悩する彼らは
何をつかんだのか?

それぞれの物語の「謎」が解明
された先に思いも寄らない真実
が待ち受ける!

司法に携わる者にとって、本当に
正しい行いとは何か?

彼らが見つけた「正義」に思わず
ハッとさせられる!

元新聞記者が圧倒的臨場感で
描き切った、斬新な検察ミステリー。

『地検のS』
著者:伊兼源太郎
出版社:講談社(文庫)
価格:¥780(税別)