手に汗握るノンストップミステリー『逃げる女』

骨太な社会派ミステリーを描き続ける
青木俊さんの最新作、
「逃げる女」を読みました。

2017年刊行の「潔白」では、冤罪で一つの
家族を不幸のどん底に突き落としておきながら、
決して「間違い」を認めない、警察、検察
さらに日本の司法の在り方に憤りを感じた。

そして、この「逃げる女」からは、青木さんの
「怒り」のようなものが、ヒロインを通して
感じられた。

青木さんの作品は、フィクションでありながら
ノンフィクションのようなリアルさと迫力が
あり、問題提起されたテーマは心に強く残る。

札幌市内のマンションでフリーの記者が殺害され、
容疑者として、久野麻美の名前が浮上した。
その葬儀に出席した久野に、道警捜査一課の
生方吾郎は張り付いていた。

しかし、彼女は葬儀場を出た後、警察の追尾を
受けながらもその姿を消してしまう。
札幌、旭川、釧路と張り巡らされた捜査網を
かわし、北海道を脱出しようとする久野麻美。

生方は所轄で新米刑事の溝口直子とコンビを
組み、久野を追い続ける。
状況証拠は久野が犯人だと示している。
生方たちは、それを信じ絶対に確保する!
その強い思いを抱きどこまでも追う。

久野麻美と彼女を追う警察との手に汗握る
逃走劇!
だが、その先には思いもよらぬ真実が
隠されていた。

必至で逃げるヒロインと執拗に追う警察。
その構図から察するに、ある事件が隠蔽され、
その秘密を知ったヒロインを警察が抹殺
しようとしている?
それは警察関係者が絡んだ事件、または、
大物政治家か?その関係者か?
様々な推理をしてみるが・・・。

意図的に警察が捜査できない状況に追い込む。
そんな恐ろしいことが実際にあるのか?と
疑ってしまうけれども、この本を読み進んで
いくと、次第にそういうことが本当にあるかも
しれないと思えてくる。
「人を殺しても逮捕できないヤツがいる」
の本当の意味とは?

まさかまさかの真相に驚きの連続、そして
次第に膨らむ、この国の政治に対する怒り。

社会派ミステリー小説だからこそ描けた。
この作品の深すぎるテーマに心を抉られた。

『逃げる女』
著者:青木俊
出版社:小学館
価格:¥1,760(本体¥1,600+税)