一部松江が舞台の企業サスペンス!「黒い紙」

三十年前に宍道湖に当時ロシアの最新鋭機
が不時着水した事件を調査するという、
堂場瞬一さんの企業サスペンス小説
「黒い紙」(角川文庫)を読みました。
本作の発表は2016年。
地元住民として松江の描写にワクワク~~~。

企業のリスクマネジメントを請け負う会社
「TCR」に勤務する、元捜査一課の刑事・
長須恭介。警官だった父の突然の死から
立ち直れずにいた。

そんな頃、「TCR」のクライアントである
大手総合商社・テイゲンに旧ソ連との不適切な
関係を指摘する脅迫状が届く。
現会長の糸山が、30年前旧ソ連のスパイ活動を
行ったというものだった。
警察には絶対に知られたくないテイゲンは、
事件解決を「TCR」に委ねる。

30年前、宍道湖に当時ロシアの最新鋭機
「Su-25MM」が不時着水した。
機体はボロボロ。搭乗していたパイロットは
アメリカに亡命した。

その詳しい調査をするために、長須は同僚の
元弁護士・境美和とともに松江に向かった。
そこで、ロシア人のパイロットが立ち寄った
とされる喫茶店を訪ねるが・・・。
あと少しで松江での調査に動きが出るというとき、
会社から呼び戻される。

最初の脅迫に続き、犯人からは、現金10億円
を要求する脅迫状が届いていた。

長須は、クライアントの利益と元刑事という
立場での正義の間で苦悩し葛藤する。

松江の描写は読んでいて、想像するのが
楽しかった。
蔦の這うカフェ、県庁近くの新聞社、
昔からある松江の有名な洋食屋・・・・
松江に住んでいれば「あ、あの店だ!」
とすぐにわかり思わず嬉しくなる。

巨大企業の闇・・・。
一人の人物に権力が集中すれば起こるべきこと。
そのために理不尽な人生を強いられた人たちの
苦しみ、悲しみ、くやしさが描きだされる。

そしてこの事件解決をきっかけに、長須が
一皮むけ一歩前に進もうとする姿も描かれ、
企業サスペンスでありながらも、登場人物の
人間ドラマに心を揺さぶられた。

『黒い紙』
著者:堂場瞬一
出版社:KADOKAWA
価格:¥880(本体¥800+税)