推理小説の面白さが半端ない!「土屋隆夫推理小説集成8穴の牙/深夜の法廷」

土屋隆夫先生は、1949年に推理小説作家として
デビュー。有名なのは、ドラマ化された
千草検事シリーズ。多くの作品がドラマ化
され、人気を博しました。
「影の告発」で日本推理作家協会賞を受賞。
ミステリー小説を読むようになってから
土屋先生作品に出合い、その面白さに
はまってしまいました。

東京創元社から「土屋隆夫推理小説集成」が
全8巻で発売され、本書はその完結巻。
なぜかこの本だけ、本棚から発掘。
読んでみたら止まらなかったです。

「穴の牙」
妹を殺された復讐のために完全犯罪を
もくろんだ兄がはまった穴とは?。「穴の設計書」

夫の出張中に行き倒れそうになった元上司を家に
あげてしまった妻がはまった罠。「穴の周辺」

優しい夫の異変に気付き、夫の出張中に一人
思い悩む妻が陥った罠、そして夫も・・・。「穴の上下」

強盗犯の仲間割れから大金を隠し場所を知った
元刑事。悪魔のささやきに負けてしまい・・・。「穴を埋める」

身に覚えのない強盗殺人事件の容疑者に
されてしまった男。罠を仕掛けたのは・・?「穴の眠り」

男に貢ぎ続ける女、それを当たり前のように
受け取る男。彼らがはまった穴とは?「穴の勝敗」

学生時代に特訓と称して、後輩を苛め抜いた男。
定年間近、その男の上司としてやってきたのが!?「穴の終曲」

以上の7編の短編は、何気ない日常を切り取っているが、
そこには至るところに罠が張り巡らされている。
欲望の赴くままに行動する人間たちが陥る‘穴’。
その愚かしい姿が絶妙なタッチで描かれる。

「深夜の法廷」
幼いころからその美貌で、周囲の人々を魅了してきたヒロイン。
しかし、彼女は自分を裏切ったもの、いじめたもの
には容赦なく制裁を下してきた。
その性格は大人になっても変わらずにいた・・・。
幸せな結婚をした彼女だったが、夫が不倫を
していることを知る。
激しい怒りを内に秘めた彼女。
自分を冷静にコントロールし、夫と不倫相手に
制裁をくだすべく、完全犯罪を計画する・・・・。
彼らを陥れようとする計画が緻密過ぎる。
読んでいるともしかしたら計画成功するかも・・・
と思ってしまった。

そのほか、中編「地図にない道」「半分になった男」を収録

「半分になった男」は、ある資産家の娘の婿になった
男が精神分裂症を患い自殺を図った。
しかし数年後、ある新聞社に投書があった。
自殺した男は殺されたのだ・・・と。
投書の内容から殺人事件をロジカルに推理。
その過程が見事!

昭和時代に描かれた作品もあるが、作品の
古さを感じさせない。
文明の利器が進歩しても犯罪を犯す人間の心理は
いつの時代も変わらないと思った。

短編、中編が何作も収録され、700ページ超の
厚さだが、その厚さ、長さを全く感じさせない、
面白さに引き込まれ、時間を忘れて読みふけった。

『土屋隆夫推理小説集成8 穴の牙/深夜の法廷』
著者:土屋隆夫
出版社:東京創元社(文庫)
価格:2,090円 (本体1,900円+税)