高校生探偵の凄さに舌をまく!「紅蓮館の殺人」

東大ミス研出身、25歳のミステリー作家・
阿津川辰海さんの「紅蓮館の殺人」。
「このミステリーがすごい 20202年版」国内第6位、
「ミステリが読みたい2020年版」国内第5位、
「2020本格ミステリ・ベスト10」国内第3位。
年末の名だたるミステリーランキングで10位以内に
ランクインした凄い作品。

山中の館に隠棲した文豪に会うために、
高校の合宿を抜け出した「僕」と葛城。

しかし、落雷による山火事に遭遇した。
危険が迫る中、「僕」と葛城は文豪の館に
たどり着き救助を求めた。

館には文豪の息子と孫の青年と孫娘がいた。
山火事で火の手が回って下山できないと
説明すると、彼らはしぶしぶ館に入れてくれた。
途中、下山中のぶっきらぼうな女性とともに
彼らは館で山火事から避難した。

しばらくすると、おなじく下山できなくった
保険外交員の女性とその客という男性も
避難してきた。

館には仕掛けがたくさん施してあり、ミステリ
好きでこの館の主人である文豪のファンだった
「僕」と葛城は探検を始める。

その間、火の手は徐々に館にも迫ってきていた。
館の中を探検するうちに「僕」は、文豪の孫娘と仲良くなる。
明るい彼女の性格に元気をもらう「僕」。

ところが翌朝、その孫娘が吊り天井で圧死している
のが発見された!
事故か?殺人か?
葛城は推理をしようとする。
そこへ保険外交員の女性が「事故」だと言い放った。

火の手はもう目の前に迫ってきている。
住人と他の避難者たちは推理よりも脱出を優先
すべきだと語る…。

葛城によって次々と登場人物たちの「嘘」が
暴かれてゆく!
さらに、10年前に起こった殺人事件の謎も
絡み合い、吊り天井事件の真相も複雑に
なってゆく。

山火事で館に閉じ込められる特殊なクローズド
サークルと、館焼失までのカウントダウンを背景に
葛城のロジカルな推理が冴えわたる!
生存と真実!彼らは生きて真実を知ることが出来るのか!?

クールな高校生探偵・葛城が凄すぎる!

『紅蓮館の殺人』
著者:阿津川辰海
出版社:講談社(タイガ文庫)
価格:¥870(税別)

「大江戸科学捜査八丁堀おゆう」第6弾!北からの黒船!?

江戸と現代を往来する、元OLの関口優佳・
通称おゆう。
江戸で起きた事件の謎を現代の科学捜査で
解き明かす!
めちゃめちゃ面白い時空探偵ミステリー。

その第6弾は、ロシア絡みだ。

ロシアの武装商船の乗組員・ステパノフは、
日本の鹿島灘あたりに漂着した。
村人に見つからないように潜入したつもり
だったが、役人に見つかり捕えられてしまう。
ところが、役人の目が離れたすきに逃走してしまう。

江戸では、異人が府内に潜入したと、
鵜飼伝三郎の上司である戸山から直々に話が出た。

トップシークレットだ。その場に集められたのは
鵜飼をはじめとする同心たちと優秀な岡っ引きたち。
その中には現代と江戸で二重生活を送るおゆうもいた。

その異人は江戸に入ったかも・・・という情報で、
極秘裏に異人を捕えよとの命がくだった。

そんな折、ステパノフの移送責任者の配下だった
鉾田代官所手代・狭間甚右衛門が殺害される。

甚右衛門の目撃証言から、割賦のようなものを
持っていたとの情報があがり、そこから
捜索を開始・・・。

捜索の末、江戸に潜伏していたステパノフは
おゆうたちによって捕えられ、お目付役が準備
した隠れ家に幽閉されてしまう。

おゆうは、甚右衛門殺害の謎を探るため、
一旦現代に戻り、現場の遺留品を
鑑定専門の宇田川に預ける。
その折、ステパノフの盗聴を命じられる。

おゆうは盗聴器を仕掛けるため、また事件の
からくりを探るために、ステパノフ付の
女中として、隠れ家に通うことに成功する!

おゆうの機転で次々と暴かれる、ステパノフの
秘密。
彼は一体何者なのか!?

下手をしたら外交問題に発展しかねない大事件を
おゆうはいかにして解決に導くのか!?

今回は盗聴器が大活躍!
外国船がちらちらと日本海に出現し始める頃が舞台。
ロシアのエカテリーナ女帝に謁見した
実在の人物、大黒屋光太夫が登場したり
「異人」をみた江戸の人たちの驚きがリアルに
伝わってきたりと本当に面白い。
そしてクライマックスに描かれたエピソード!
へえ~そういうことって思わず唸る展開!

そして一番興味深いのは、ドローン事件から
江戸にちょこちょこやってくるようになった
宇田川。おゆうをはさんで鵜飼伝三郎と
火花を散らすシーンが、とても面白い!

第6弾も堪能しました!

次回作が待ち遠しい!

『大江戸科学捜査 八丁堀おゆう 北からの黒船』
著者:山本巧次
出版社:宝島社
価格:¥680(税別)

皇后になるまでの関小玉を描く第4弾「紅霞後宮物語 第零幕四」

「紅霞後宮物語」の本編も非常に面白いけれど、
皇后・関小玉の若き時代を描く、「零幕」
シリーズも凄く面白い。
大好きなシリーズ。

兄の代わりに武官となり、いまや閣下と
呼ばれるほど偉くなった小玉は、
母が亡くなり、やっと休暇をとり
義姉の三娘(さんじょう)と
甥の丙のいる実家へと戻った。

そこへ、従卒の清喜も休暇をとってやってきた。
そしてちゃっかり居ついてしまう。
清喜の人柄からか、母を亡くした悲しみを
まぎらすことができた3人だった。

ところが、そこへ副官の文林までやってきた。
三娘は、小玉に対する文林の接し方を
見ていぶかしむ。文林は小玉に好意を
抱いているのでは・・・・と。

そんなとき、とんでもない事件が起きる。
小玉のかつての許嫁がまたまた求婚して
きたのだ。
妻が死んで本当に好きだったのは小玉だったと・・・。

小玉からすればそんな勝手な言い分は通らない
自分を捨てて、金持ちの令嬢と結婚し、
小玉が村から出ることになった原因を作った男だ。
決して復縁はない。
ところが、小玉が首をたてに振らないならと
いうことで強行突破に出たのだ!
いきなり結婚式!?
しかも村ぐるみで。

怒り狂った小玉は、家族皆で都へ出る決心をする。

そして、三娘は子どもの頃に出会った占い師の
言葉を思い出す。小玉を見た占い師は、
「あの娘は、やがて高き御位にのぼるだろう」
と言った。

占い師の予言は実現し本編では、小玉は皇后となるが…。

小玉の恋の変遷と、家族の絆、そして…。
コメディタッチで描かれるが、今回は切ない展開が
心に響く。

続きが気になる、はまる面白さ。
次回の展開はどうなる!!

『紅霞後宮物語 第零幕四 星降る夜に見た未来』
著者:雪村花菜
出版社:富士見L文庫
価格:¥620(税別)

犯罪ミステリーの最高峰!『罪の轍』

今年話題の犯罪小説「罪の轍」を読みました。
昭和38年に起きた、「吉展ちゃん誘拐殺人事件」
をモデルに描かれた犯罪小説です。

昭和38年。アジアで初めて開催される
東京オリンピックの前年、東京は熱狂に
包まれていた。

二十歳の青年・宇野寛治は、北海道で
漁師の仕事を手伝いつつ貧しさと孤独、
そして蔑みの日々を生きていた。

ある日、寛治は漁師仲間の男に弱みを
握られたあげく、その男の奸計にはまり
海難事故にあってしまう。

数か月後、東京都荒川区で元時計商の
老人が自宅で殺害された。
警視庁捜査一課の落合刑事は、捜査の過程で
子供たちから北国訛りの青年の情報を得る。
やがて捜査線上に行方不明と思われていた
宇野寛治の存在が浮かび上がる。

その矢先、浅草署管内で小学1年生の
児童が誘拐される事件が起こる!
犯人の要求は身代金50万円。

警察は必死で児童と犯人を捜索するが
杳として行方が知れない。
警察の捜査を嘲笑うかのように逃亡を
続ける不気味な犯人の正体とは?

警察の度重なる捜査ミス、早期解決を望む
世間からの重圧、限られた時間の中で刑事
たちは極限まで追い詰められてゆく。
それでも警察一丸となって、
絶対に犯人をとらえ、
児童を親元に還すという強い思いが
ひしひしと伝わってくる。

そして刑事たちの執念の捜査で事件の
全貌が明らかになったとき、
言葉を失うほどの衝撃を受ける。
何が人間を犯罪者へと変貌させるのか?
なぜこんな悲劇が起こったのか?
描かれた真相の重さに胸が締め付けられる。

敗戦後すさまじい勢いで発展を遂げる日本。
しかし、貧富の差はやはり激しい。
オリンピックのために集められた労働力。
山谷と呼ばれる労働者の宿泊施設の実態や、
活動家と警察の攻防も臨場感たっぷりに
描かれる。

また、当時の警察組織についても詳しく描かれている。
未熟な誘拐事件捜査のため、ミスを重ねる警察。
逆探知などまだ導入されておらず、犯人の
声を録音しテレビで放送するという手段で
捜査を行っていた。

世間から置き去りにされた
一人の青年の孤独な魂の彷徨を、
緻密な心理描写と緊迫感あふれる圧倒的リアリティーで
描き切った、犯罪ミステリ。
その熱量のすさまじさが、行間からにじみ出ている!

『罪の轍』
著者:奥田英朗
出版社:新潮社
価格:¥1,800(税別)

底知れぬ悪意に翻弄される刑事たちを描く!『痣』

伊岡瞬さんの「代償」「悪寒」に続き
「痣」(徳間文庫)を読みました。
伊岡ワールド炸裂!面白かったです。

日頃あまり凶悪事件が起こらない、奥多摩分署管内で
全裸の女性冷凍殺人事件が発生した。
その被害者の左胸には特徴的な形の印が
遺されていた。

2週間後に退職する真壁刑事は、その印を見て
激しく動揺し困惑した。なぜならば、
真壁の亡くなった妻の「痣」と酷似して
いたからだ。

真壁の妻は殺害され、容疑者は死亡した。
事件は解決したとして、警察上層部は
事件の詳細にフタをした。

その判断に納得できない真壁は、奥多摩分署に
左遷され、くすぶっていた。
そんな中で起きた、女性冷凍殺害事件。

まさか、犯人は死んだはず。それとも真犯人は
ほかにいるのか?

そんな真壁をあざ笑うかのように次々と起こる
残虐な殺人事件。
真壁は、捜査一課時代の元上司に強引に
この連続猟奇殺人事件に駆り出される。

捜査の過程で、殺された女性の周りから
妻に関する遺留品が現れる。
真壁は何者かの強烈な「悪意」を感じつつ
真相に近づいてゆく・・・。

「痣」は、警察小説だが、ミステリー的要素が
際立っている。

主人公・真壁を追いつめる謎の設定。
それらが徐々に明らかになってゆく過程が
スリリングに描かれる。
クライマックスのどんでん返しには戦慄する!

「代償」「悪寒」「痣」と人間の底知れぬ
‘悪意’を様々な形で描く。凄い!!

ちなみに真壁刑事は「悪寒」にも登場。

『痣』
著者:伊岡瞬
出版社:徳間書店(文庫)
価格:¥710(税別)

新たな名コンビの誕生!『捜査一課ドラキュラ分室大阪刑務所襲撃計画』

島根県在住のミステリー作家・吉田恭教さんの
新作が発売になりました。
タイトルは、
「捜査一課ドラキュラ分室 大阪刑務所襲撃計画』。
タイトルからしてどんな内容なのか?
想像してワクワクしました。めちゃめちゃ
ホラーな展開かなと思いましたが、
ちょっと違っていました。

荒川河川敷で性転換手術をしたと思われる遺体が
発見される。あまりにも無惨な遺体に捜査員たちは
難事件を予想する。

堂安一花は、若年ながらキャリア警視。
前途洋々と思われたが、日光に当たると火傷を負う
という奇病を発症してしまう。
現場での仕事は出来なくなったが、一花の
捜査能力の高さ、指揮能力が認められ在宅捜査を
許される。
新任の舟木は、突如捜査一課へ異動させられた。
花の捜一で….。と期待に胸はふくらむ。
だが、思惑は外れ、一花の手足となって働くことを
命じられた。

その頃、大阪刑務所では受刑者の矯正展が行われていた。
ところが、矯正展に来ていた見学客と受刑者を
人質にしテロリストが「野党の党員と人質を
交換する」という無理難題な要求を政府に突きつける!

結果、要求は実現しなかったが、なぜかテロリスト
たちは突如人質を解放し大阪刑務所から逃走した。

堂安はテロリストたちの犯行に疑問を持ち、舟木に
逃走経路を探らせた。

テロリストたちの真の狙いは何か?
なぜ、大阪刑務所だったのか?

二人の地道な捜査は、紆余曲折の末、荒川河川敷に
遺棄された性転換者殺害事件へと繋がってゆく。

点で配置されていた謎が次々と繋がり、やがて一本の線
となり真相を暴き出す。
そこには、言葉を失うほどの衝撃が待ち構える。
そして、警察捜査小説の醍醐味も味わえる。
ただの捜査小説ではない、多彩なトリックと謎解き
の面白さが際立っている。

「可視る」(「凶眼の魔女」という改題で文庫化)
「亡者は囁く」「鬼を纏う魔女」「化身の哭く森」
「亡霊の柩」で活躍する、探偵・槇野&女刑事・東條
シリーズにも匹敵する、名コンビの誕生!
天才キャリア警視・堂安一花と新任刑事・
舟木のコンビがとても魅力的だ。

シリーズ化期待です!

『捜査一課ドラキュラ分室』
著者:吉田恭教
出版社:南雲堂
価格:¥1,800(税別)

最後の最後までぶっ飛びの展開!「武家屋敷の殺人」

やりすぎミステリの伝道師・小島正樹さんの
記念碑的作品!「武家屋敷の殺人」。
ついに読みました。
いや~凄い展開で驚きの連続、さらにクライマックス
は間違いなく絶叫します!

孤児院で育った女性から、生家を探して欲しいとの
依頼を受けた弁護士の川路。
手掛かりは、赤ん坊だった女性が、孤児院に置かれた
ときに残されていた日記だった。

だが、その日記には20年前の殺人とミイラについての
異様な記述があり、とても本当の事とは思えない。
早くもお手上げ状態となった、川路は友人の
那珂に助けを求める。

那珂は日記に続らていることは全て事実として
考え、記述にあったことを丹念に調べ あげ
ついに女性の生家を突き止める。
その家は江戸時代から存続する曰くつきの屋敷だった。

そして、その屋敷には、叔父と女性の母親が住んでいた。

川路と女性は、早速屋敷を訪れた。そこで女性の母親と
対面するが、彼女から異様な物語を聞かされる。

はずみで殺した男を床下の氷室に隠すとミイラ化。
首無し死体の登場、ミイラが蘇る!?
そして死体が移動!?

これでもか!?と提示される謎の数々と前代未聞の
トリックに心が躍る。こんな複雑怪奇な
ミステリーが読みたかったんだ~。

あまりにも予想外の展開に、読まずにはいられない!
読まないと損をするとばかりにいっきに読み切った。

二転三転したあげくのどんでん返し。もう凄すぎて唖然。

ミステリ好きを最後の最後まで楽しませたい、
著者の思いが伝わってきました。

『武家屋敷の殺人』
著者:小島正樹
出版社:講談社(文庫)
価格:¥960(税別)

心に刻まれる1冊「あしたの君へ」

「検事・佐方貞人」シリーズや「孤狼の血」、
「盤上の向日葵」「慈雨」など、読後
いつまでも余韻が残る作品を描く、柚月さん。
文庫新刊「あしたの君へ」を読みました。

家庭裁判所調査官補、望月大地が、事件を
通して成長してゆく姿を描く。

九州の福森家裁に配属された、望月大地。
研修期間中、大地は数々の事件の調査を
担当する。

女子高生の窃盗事件から、その少女に
架された悲劇を知る。

男子高校生が、同級生の女子生徒に
ストーカー行為を行ったとして逮捕されたが….。

小学生の息子の親権争いで揉める夫婦。
そこには意外な事実が….。

面接をしても心を開いてくれない相談者
たちを相手に、苦悩し続ける日々。

先輩たちの人に寄り添う言葉に大地も次第に
前を向く。

彼らの事件を丹念に調査してゆくことで、調書や
面接だけでは把握出来なかった、隠された真実が
浮かび上がる…。

「人に迷惑をかけることと、助けを求める
ことは違う。人に助けを求めることは悪い事
じゃない。むしろ生きていく上で必要な事だ」

がつんと頭に響いたひと言だ。

人は誰でも複雑な思いを抱えて生きている。
もしそれが、事件という形で表に出てしまったならば
それは、「助けて」のサインではないだろうか?
読んでいてふとそう思った。

日頃、忘れがちな、人として大切なことを
思い出させてくれるそんな作品だ。

『あしたの君へ』
著者:柚月裕子
出版社:文藝春秋
価格:¥640(税別)