巨悪に立ち向かう男の復讐劇を描く!「銀行仕置き人」

半澤直樹風、銀行内の「やられたらやりかえす」ストーリーにちょっとミステリーの
味付けをした、痛快無比の復讐譚。
銀行仕置き人

関東シティ銀行の営業でエリートコースを突っ走っていた、黒部一石。
しかし、500億円もの巨額融資の焦げ付きの責任を一身に背負わされ、
人事部付となり、通称‘座敷牢’で名簿整理をさせれることになる。
やがて、黒部は同期の友人から500億円焦げ付き事件のからくりらしき
話を聞かされ、自分を罠にはめた一派の存在と、陰謀に気が付く。
激しい怒りを胸に秘め、黒部は銀行内に巣食う不正を暴くことを
決意する。
そんな彼を人事部の上司・英悦夫がバックアップする。
不正を暴くために、彼に調査の名目を与えたのだ・・・・。
英は、黒部に言った。「銀行を腐らせるな」
その一言で、黒部は決してあとには引かない覚悟を決める・・・。

半澤直樹ほどのドラマチックさはないが、
銀行内部で行われている不正の数々が描き出されている。
現実では、先日来、メガバンクが反社会的勢力に融資をした事実が
取上げられ非常に問題視されているが、この作品ではすでに
そういうことも物語の中で取り上げている。
さらにこの物語は、詐欺事件から殺人事件に発展していく過程が
ミステリー仕立てにもなっており、スリリングな展開がミステリーファンには
たまらない。
「半澤直樹」で池井戸作品にはまった方々にぜひこの作品も
読んでもらいたいです!

『銀行仕置人』
著者:池井戸潤
出版社:双葉社
価格:¥638(税別)

復讐の連鎖を描く、薬丸岳『闇の底』

月曜日夜8時から放送中の『刑事のまなざし』は薬丸岳さんの
『刑事のまなざし』が原作。
毎回、ドラマを観ていますが原作に非常に忠実に作られていて、
ドラマの出来にとても好感を持てます。
椎名桔平さんの刑事像はとても合っています。
さて、薬丸岳さんは、「天使のナイフ」で江戸川乱歩賞を
受賞され、ミステリー作家としてデビュー。
その後、ただの謎解きだけでは終わらない、
人間の罪について鋭く抉った作品が多いです。
この『闇の底』もそんな1作です。
闇の底

子どもへの性犯罪が多発し、埼玉県警では犯人を捕らえるため、
刑事たちが寝る間を惜しんで捜査を続けていた。
そんな刑事の一人、長瀬一樹は20年前に性犯罪によって
幼い妹を失っていた。
一緒に捜査する刑事たちも、犯人を憎み、必死で捜査する長瀬に
一目置いていた。
幼女が殺されたタイミングで、性犯罪の前歴者が首を切られて殺される
という事件が起こった!
県警本部のベテラン刑事、村上はそのすさまじい現場を視て犯人の怨念を感じた・・・・。
そしてその犯人は大胆にも、前歴者を殺害するシーンを収めたDVDと
警察への挑戦状を送りつけた!
「警察ではこの事件は解決することができない。もし今後も
性犯罪により子どもが犠牲になれば、前歴者を生贄にする
サンソンより」と書かれていた。
このサンソンはもしかすると、性犯罪被害者の遺族ではないのか・・・?
しかしそれは単純な筋ではなかった・・・。

長瀬の心の傷・・・それは一生消えることはない。
妹を殺した犯人を憎み続けた。サンソンに同調する心が揺れた・・・。

長瀬もサンソンも心に深い闇を抱えている。
長瀬もサンソンになりたいだろう・・・しかし警察官だ。

人間の心の闇と葛藤をこれでもかと抉った問題作。
ラストの衝撃は多分二手に分かれる・・・。

『闇の底』
著者:薬丸岳
出版社:講談社
価格:¥600(税別)

本の学校今井ブックセンターで「ビジュアル探偵」ミニフェアやってます!

10月に入り、かなり秋めいてきたので、探偵小説のミニコーナーを
設置しました。
藤木稟さんの『バチカン奇跡調査官』シリーズの最新刊が
10月下旬に発売されるので、それにちなんで、ビジュアル系の探偵が
登場する、探偵小説を集めました。
ビジュアル探偵3

ビジュアル探偵2
藤木稟さんの『バチカン奇跡調査官』シリーズを中心に、
『探偵・朱雀十五』シリーズ(藤木稟著)、『臨床犯罪学者・火村英生の推理』
シリーズ(有栖川有栖著)、『ラスト・メメント』シリーズの4シリーズを
集めました。
『バチカン奇跡調査官』は、バチカンの神父・平賀とロベルトのコンビが
世界中から報告される、‘奇跡’の真偽を調査するために世界各地へ向かう。
行く先々で事件に巻き込まれるという物語。
宗教の歴史や建物、古文書など興味深い知識がふんだんに盛り込まれ、
謎解きだけでなく歴史の知識も学べる(?)面白い探偵シリーズです。
『探偵・朱雀十五』は「バチカン奇跡調査官」シリーズの著者・藤木稟さんの作品。
舞台は昭和初期、美貌の探偵・朱雀十五が人間の色や欲にからむ事件を
ホラータッチで描いた、ホラーミステリー。昭和のレトロな描写が懐かしい。
その世界を堪能できます。
『臨床犯罪学者・火村英生の推理』シリーズは、大学教授でもある、
名探偵・火村英生とその友人で推理作家の有栖川有栖とともに、難事件を
解決してゆく人気シリーズ。
若い人にも読んで頂きたく、ライトノベルスの体裁で、角川ルビー文庫で
再登場しています。
表紙の絵がとてもかっこいい!物語は本格推理小説。イラストとともに楽しめます!
『ラスト・メメント』シリーズは、『蛟堂報復録』シリーズを描いて人気上昇中の
鈴木麻純さんの作品。主人公は遺品蒐集家・高坂和泉。遺品鑑賞から鋭い洞察力で
遺品に秘められた謎や真実を導き出す。生と死を繋ぐゴシック・ミステリー。
これは新たな角度で描かれた探偵小説のようです。
どのシリーズもイケメンが活躍!
面白いですよ!!

本格警察小説!!『笑う警官』佐々木譲氏

佐々木先生が、警察小説作家として注目を集めた作品がこの「笑う警官」です。
単行本のときのタイトルは「うたう警官」。‘うたう’というのは警察用語で、
内部告発をするという意味で使われているようですが、文庫化にあたり、
「笑う~」に変更。
それは、佐々木先生が愛読している「刑事 マルティン・ベック」シリーズへの
オマージュであると何かで読みました。(先日紹介しています~。)

札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。
遺体の女性は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。
容疑者となった交際相手は、同じ本部に所属する津久井巡査部長だった。
やがて津久井に対する射殺命令がでてしまう。
捜査から外された所轄署の佐伯警部補は、
かつて、おとり捜査で組んだことのある津久井の潔白を証明するため、
有志たちとを集め、極秘裡に捜査を始めたのだったが・・・。

北海道警察で実際にあった汚職事件を事件をヒントに描かれて
いるので、ストーリーは結構リアル。
内部告発をしようとする警察官を抹殺する!?なんて
ことは実際には無いと思うけど・・・。
津久井の使命を果たさせようと、命を懸けて真相究明に動く佐伯警部補ほか、
仲間たち。
そのタイムリミットは刻々と迫っている!間に合うのか!
極秘で捜査し、警察内部の汚職にまみれた真実が
浮かび上がってくる過程が非常に面白い。
さらに、極秘調査ということで、いつばれちゃうのか?
裏切り者はいないのか?その緊迫感が尋常ではない。
記念すべき、「北海道警察」シリーズ第1弾です。

『笑う警官』
著者:佐々木譲
出版社:角川春樹事務所
価格:¥686(税別)

池井戸潤の最高傑作「空飛ぶタイヤ」

ドラマ「半沢直樹」で大ブレイク中の池井戸潤さんです。
ドラマの原作「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」「ロスジェネの逆襲」などで池井戸さんにはまった方たちに絶対におすすめなのが、この「空飛ぶタイヤ」(実業の日本社)です。
「下町ロケット」で直木賞を受賞される前から、池井戸さんの作品にぞっこんだったはまさき。最初に読んだのが「空飛ぶタイヤ」でした。
あまりの面白さに誰彼かまわずに薦めた作品です。
多少長いですが、長さを全く感じさせないストーリー展開に驚くばかりです。

走行中のトレーラーのタイヤがはずれ、近くを歩いていた母娘を直撃。母親の方が亡くなってしまった。一瞬にして死亡事故を引き起こした運送会社の社長となってしまった、赤松。
大企業のホープ自動車は、「運送会社の整備不良」として責任を全て運送会社に押し付けた。
赤松はその決定に納得がゆかず、自社の整備記録と社員を徹底的に調査。
その結果、赤松の会社には何の非もないことが判明した。
だが、ホープ自動車は大企業の倫理でそれを認めようとはしなかった。
そこから、中小企業社長・赤松の孤独で長い闘いが始まった。

一時期問題となった‘大手自動車会社のリコール隠し’を取り上げ、その欠陥車で事故を起こした中小企業の運送会社社長が、大手企業を相手に企業責任を追求する。
企業人としての誇りを欠いた、無責任で傲慢な態度の大企業があまりにもリアルに描かれていて、読んでいると本当に腹が立つ。そんな腐った大企業に社会正義の信念の貫き、真っ向から闘いを挑む赤松社長がものすごくかっこいい。
家庭を大切にし、社員を家族と同じように愛し、時には弱音もはいてしまう、とてもヒーローとは呼べない、そんな普通の男が一度肚を括るとここまで強くなれるのか!?
読んでいる途中、何度、赤松社長とシンクロしたかわからない。
物語の中盤から、孤独な闘いを強いられていた赤松を応援する人物が現れる・・・。
彼が貫く正義を信じ同じように大企業に向かっていく男たち・・・。
果たして一発逆転なるのか!?
池井戸潤さんが渾身の想いをこめて描いた、圧倒的エンターティメント長編です。
池井戸さんの世界を思う存分堪能できます。

『空飛ぶタイヤ』
著者:池井戸潤
出版社:実業之日本社(ノベルス)
講談社(文庫)
価格:ノベルス¥1,143(税別)
   文庫上下各¥648(税別)  

ドラマ化!心ゆさぶる警察ミステリー「刑事のまなざし」

月曜日から始まったドラマ「刑事のまなざし」を観ました。
椎名桔平さんの渋い演技が光っていました。
刑事と言えば眼光鋭く、威圧感たっぷりというイメージが強いですが、
ドラマも原作本である「刑事のまなざし」に登場する夏目刑事は違います。
被害者も加害者に対しても包み込むような優しさで接し、心を開かせていきます。

刑事のまなざし

「刑事のまなざし」は7つの作品が収録された短編集。
「黒い履歴」「ハートレス」「プライド」「休日」「オムライス」
「傷痕」「刑事のまなざし」
どの作品も心に深い傷を持つ人たちが登場する。
過去を忘れ、必死で幸せになろうとする人たち。
しかしその幸せを守ろうと、罪を犯す。
そんな人たちを温かく見守る刑事。それが夏目信人だ。
夏目は、何らかの理由で親と離れて暮らすことになった、
子どもたちの荒んだ心を癒す法務技官をしていたが、
幼い娘が暴漢に襲われ、寝たきりの状態になってしまった。
犯人は捕まっていない。その犯人を見つけるため、
30歳で警察学校に入り、刑事になったのだ。
しかし、それだけではない、夏目の心には複雑な思いが
あった。
そんな夏目が関わっていく事件は、虐待され、14歳で殺人を犯した過去を
持つ青年の周辺で起きた新たな殺人事件、ホームレス殺人、非行犯罪だ・・・。
社会の歪で苦しむ人間たちを温かく、時には厳しく見つめながら真実を探り出す。

今までの警察小説には登場しない、温かさと優しさで罪を見つめる刑事。
心が揺さぶられる、警察ミステリー小説。

『刑事のまなざし』
著者:薬丸岳
出版社:講談社
価格:¥648(税別)

「半沢直樹」その後が気になる!『ロスジェネの逆襲』

ドラマ「半沢直樹」の最終回のラストの続きが気になって仕方なく、
「ロスジェネの逆襲」を読みました。
東京中央銀行の子会社である、東京セントラル証券の企画部長として
出向させられた半沢。出向先の証券会社の成績は芳しくない・・・。
就職氷河期に何とか東京セントラル証券に滑り込んだ、
部下の森山たちの愚痴を聞き流す毎日だ。
そんなある日、IT企業の雄・電脳雑技集団の社長から、
ライバル会社の東京スパイラルを買収したいとの相談が受ける。
そのアドバイザーの座につけば、巨額の手数料が入る、
まさにビッグビジネスだ。
早速チームを編成し、企画内容を詰めているところで、
親会社の東京中央銀行から理不尽な横槍が入る。

担当部長である半沢は、その責任を追及され、またしても窮地に追い込まれる・・・。

ドラマでも次々に襲いかかる難問を、その不屈の精神で乗り越えてみせた半沢。
本書でも半沢が主人公だが、さらに、ロスジェネ世代の部下・森山や、
森山の親友で今回買収される側の東京スパイラルの若き社長らが、
いかにしてこの難問を乗り越えていくか?が読みどころだ。
半沢は、森山の友人を救うため、東京中央銀行の子会社でありながら、
親会社に闘いを挑むことになる。
半沢と森山の八面六臂の活躍で、最後の逆転劇は、ドラマ以上に
「バブル入行組」「花のバブル組」以上に鮮やかだ!
そしてラスト(P362~P365)に森山に語った半沢の想いがかっこいい!泣ける!素晴らしい!

「バブル世代の批判はもうたくさんだ・・・中略 正しいことが正しいと言えること。
ひたむきで誠実に働いたものがきちんと評価される世の中。
そういう世の中をお前たちなら作れる!戦え森山!」
すご~く省略してしまいました。すみません!
この本はロスジェネ世代への応援歌なのだと思います。

物語はすかっと気持ちよく終わります。
エンターティメント作品として申し分なく面白い!

でもこの作品は、生きることとは?仕事は何か?
組織とはどうあるべきか?を深く考えさせれる作品でもあります。
本当に素晴らしい作品。
あのラスト数ページは何度読んでも心に深く刻まれます。

『ロスジェネの逆襲』
著者:池井戸潤
出版社:ダイヤモンド社
価格:¥1,500(税別)

北欧ミステリーの原点!新訳で登場!『刑事マルティン・ベック 笑う警官』

今、海外ミステリーの中で人気が急上昇している‘北欧ミステリー’。
その先駆けとなったシリーズがこの『刑事マルティン・ベック』シリーズです。
社会活動家でもあったマイ・シューヴァルとペール・ヴァ―ルー夫妻が、
1960年代後半に国家への批判の意味を込めて描いた、北欧初の本格的な警察ミステリー小説です。
以前、角川文庫で、シリーズ10作品が英訳から日本語に翻訳されて出版されていましたが、
この度、スウエーデン語から直接日本語に翻訳され新訳と言う形で発売されました。
訳者は、非常に読み易く日本語に翻訳してくださる、柳沢由実子さんです。
今人気のある北欧のミステリーは、ほぼこの柳沢さんの翻訳で読めます。
このシリーズがスウエーデンで発売されたとき、‘マルティン・ベック’は英雄視されたほど
スウエーデンの人々の心を掴んだようです。

はまさき、以前の訳でシリーズ全10巻を2回も繰り返して読みました。
ストックホルム警視庁の殺人課に所属する、主任刑事マルティン・ベックとその仲間たちが、
当時のスウェーデンが抱える社会的背景から起こる不可解な事件を地道な捜査で解決してゆく。
チームで事件を解決してゆく、警察ミステリー小説の面白さが際立っている。
複雑な社会的背景の中で、職務に忠実な刑事たちが事件を暴いていく過程はスカッとする。
また、魅力的な登場人物がこのシリーズをさらに面白くしている。
読み進めていくうちに、だんだんと登場人物たちに共感していきます。
平凡だが優秀な刑事たちの活躍が私たちの心をとらえて離しません。
またこのシリーズは、現在の日本の警察小説作家に多大な影響を与えました。
特に佐々木譲先生の「北海道警」シリーズは、この「マルティン・ベック」シリーズに
影響を受けて創作されたそうです。
佐々木先生の描く道警シリーズ第1作「笑う警官」はこのシリーズへのオマージュ(?)
今野敏先生はこのシリーズはお手本と言っておられます。

本書「笑う警官」のストーリーは、反米デモの夜、ストックホルムの市バスで
八人が銃殺されるという大量殺人事件が発生した。
被害者の中には、右手に拳銃を握りしめた殺人捜査課の刑事がいたのだ!
警察本庁殺人捜査課主任捜査官マルティン・ベックは、後輩の死に衝撃を受ける。
若き刑事はなぜバスに乗っていたのか?デスクに残された写真は何を意味するのか?
唯一の生き証人は、謎の言葉を残し亡くなった。捜査官による被害者一人一人をめぐる、
地道な聞き込み捜査が始まる―。

アメリカ探偵作家クラブ賞受賞の北欧ミステリーの最高傑作が新訳で登場!

『笑う警官 刑事マルティン・ベック』
著者:マイ・シューヴァル/ペール・ヴァ―ルー 訳:柳沢由実子
出版社:角川書店
価格:¥819(税別)