「弁護士探偵物語 天使の分け前」はセリフ回しがかっこいい。

第10回このミス大賞受賞作、法坂一広さんの
『弁護士探偵物語 天使の分け前』(宝島社)を読みました。

現役弁護士が描いたミステリー。
舞台は福岡。方言での会話がとてもテンポが良くて物語にすっと入り込めた。
さらに、主人公の弁護士がアメリカのハードボイルド小説好きという設定のため、
セリフ回しがちょっとコメディがかった、ハードボイルド探偵小説を彷彿とさせる。
かなり前にハヤカワ文庫で出ていた、ウオーレン・マーフィー著、
保険調査員・トレイシーシリーズ『豚は太るか死ぬしかない』を思い出して
しまったほど!かなりコメディ色の強いハードボイルドで彼のセリフに
警察も悪者も翻弄されていた。

天使の分け前

3年前に起きた母子殺害事件の容疑者として
逮捕された内尾。取り調べ当初から
「殺した記憶はない」と言っていた。
裁判のあり方をめぐって司法と検察に異を唱えたことで、弁護士の「私」は
懲戒処分を受ける。復帰後、事件の被害者・寅田が「私」の前に現れ
事件当初からずっと違和感を抱いていた、この事件に再び挑むことになる。
しかし、心神喪失として病院に強制入院させられていた、内尾が失踪、
さらに周囲で不可解な殺人事件が起きた・・・。

主人公「私」の会話がとても面白いでんす。
そのセリフは警察、検事、同じ弁護士たちをも
翻弄し、悪者たちをあわてさせる。
かなり危険な状況に陥っても、決してぶれない。
いまどき、こんなコメディタッチのハードボイルドを
日本人が描けるなんて!と思ってしまいました。
会話の面白さが際立ってしまって、ミステリーのストーリーが
少しかすんでしまったような感じもしましたが、
ラストはかっこいい!と思って終わりました。
続編、『弁護士探偵物語 完全黙秘の女』も発売中。
ううう~読みたいです。

『弁護士探偵物語 天使の分け前』
著者:法坂一広
出版社:宝島社
価格:¥600(税別)

「凄く面白い」それしか言いようがない!「追憶の夜想曲(ノクターン)」

驚異のリーガルサスペンス、中山七里さんの『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』
続編が出ました!!『追憶の夜想曲(ノクターン)』。
「贖罪の奏鳴曲」は、大きな負の過去を持つ、辣腕弁護士‘御子柴礼司’が
保険金殺人事件の真相を暴く!鮮やかな逆転法廷劇はまさに
「まさか、まさか」の連続だった。
久しぶりに、めちゃめちゃ面白いサスペンス小説を読んだなあ~と
感心していたら、嬉しいことに続編が!!
この続編、読み終わった後思わず「これ、凄い!前作より面白いわ~」と
声が出てしまったのでした。

追想の~

「贖罪の~」で重傷を負い、入院していた御子柴であったが、
退院するとすぐに動き出した。
目的は、夫を殺害し一審で16年の実刑判決を受けた主婦の弁護だ。
その主婦は量刑不当で控訴したのだ。
お金にならない事件には身が入らない弁護士から強引に
交代させた御子柴はすぐに公判記録を調べなおす。

高額報酬を要求する、悪徳弁護士で通っている御子柴が、
なぜお金もないこの主婦の弁護を買って出たのか?
周囲は御子柴の態度に不気味なものを感じた・・・。
一方、検察側は、弁護士が御子柴に交代したことを知ると、
検事正である、岬恭介が自ら法廷にたつと言い出す。
過去に岬は御子柴から屈辱的な負けを喫していたのだ。
報復するチャンスが目の前に転がり込んできた!
優秀な検事と、悪辣な弁護士との法廷対決!
軍配はどちらにあがるのか!?

ハラハラドキドキの法廷対決も読みどころ。
いつもはクールな御子柴が、岬検事の切り返しに
焦るシーンもある。
だが、御子柴は岬の上を行く。主婦の過去を
調べることで、すべてを覆す考えだった・・・。
次々と明るみに出る、夫婦の関係。
母親としての顔・・・。
当初は支離滅裂であった、主婦のイメージが
全く変わってしまうのだ・・・。
しかし、法廷対決以上に面白い!!全く予想だにしなかった
事件の真実。(鳥肌ものですよ~)
クライマックスの超どんでん返しは言葉にならない
衝撃です!!

『追憶の夜想曲(ノクターン)』
著者:中山七里
出版社:講談社
価格:¥1,600(税別)

美味しいミステリー「あまからカルテット」。

柚木麻子さんの「あまからカルテット」ってミステリーなの?と
思うかもしれません・・・。
実は、美味しい食べ物が恋の謎解きをする、とっても素敵な
ミステリー作品なんです。(はまさき的にはそう思います。)

あまからカルテット

中学校の時から仲の良かった、アラサ―女子四人組。
ピアノ講師の咲子、編集者の薫子、美容部員の満里子、料理上手な由香子。
それぞれ容姿も性格も全然違うけど、恋に仕事に悩みは尽きず・・・・。
ある日、恋に奥手な咲子が、花火大会でたまたま隣に座った
男性とちょっとした会話をし、さらに稲荷寿司まですすめられた。
食べてみるとあまりの美味しさに絶句!男性のさわやかさと
お稲荷さんの美味しさにノックアウトされ、一目ぼれした。
ところがそのあとに起きたアクシデントで連絡先も交換することなく
帰るはめに・・・。その話を聞いた、薫子・満里子・由香子の3人は
今まで恋に消極的だった咲子のためにひと肌脱ぐことを決意!
恋の手がかりは、とても美味しくてちょっと大きめの「稲荷寿司」だけ。
3人はそれぞれの縁を頼りに「お稲荷さんの君」を探し出そうとするが・・・。

由香子だけは早々に結婚し、好きなお料理をブログにアップして
楽しく暮らす日々。
満里子は合コンで知り合った男性に咲子の恋の顛末を相談。
薫子は編集の仕事にかまけて、上司の男性と寿司屋を
食べ歩く・・・・。果たして「お稲荷さんの君」を探し出せるのか!?

この過程で、満里子と薫子にも恋が到来。
咲子の一件が片付くやいなや、今度は由香子に
異変が!!

女性たちの友情をここまで素敵に描いた作品があっただろうか?
しかも美味しそうな食べ物が次々に登場する。そしてそれが
謎を解くキーワードになっているのだ。
女性たちの友情も、ときに壊れそうなったりするけれど、
お互いを大切に思う気持ちに気が付き決して壊れない。

そんな女性同士の友情も、恋の顛末も楽しめる。
とっても楽しく、そしてとっても面白く
心がとても優しくなる、素敵なミステリーだ。

『あまからカルテット』
著者:柚木麻子
出版社:文藝春秋
価格:¥560(税別)

チーム「よろいち」最大の危機!

人気シリーズ「よろず一夜のミステリー」第4弾が発売されました。
タイトルは、「よろず一夜のミステリー 炎の神判」です。
今回も都市伝説サイト「よろず一夜のミステリー」に不可解な書き込みが
あったことで、チームよろいちが事件に巻き込まれます。
今までも、サイトの社長・万木輝一とアルバイトの日比野恵は、ことあるごとに
衝突していましたが、今回はとうとう一触即発の状態に!
どうなる!?チームよろいち!といった展開!!!

よろいち4

都市伝説サイト「よろいち」に‘おひとりさま’の怪情報が届いた。
夜道で「火を貸してくれ」と声をかけられ、断ると身体に火を
つけられるという恐ろしいものだ。
そんななか、火の気のない学校の屋上で、女子高生の身体が燃える
事件が起きる。被害者は奇しくも、よろいち事務所社長・輝一の
知人の教え子だった。単身調査に乗り出す恵。
人体自然発火事件を巡り、怪しい人物が浮上する、
さらに、輝一の意外な過去を知ってしまった恵。
それに気づいた輝一と、恵の間に亀裂が奔る。

輝一と恵の間はシリーズ3まではいがみ合っていはいたが、
それが彼らのスタイルという感じだった。
しかしシリーズ4では、輝一の知られたくない過去と、
もっとも会いたくない人物の登場で、恵との仲が
完全に壊れてしまうのではないかとハラハラ・ドキドキ。
事件も今までにないほど強烈で面白かったです。
今回も楽しんで読めます。

『よろず一夜のミステリー 炎の神判』
著者:篠原美季
出版社:新潮社(新潮文庫)
価格:¥490(税別)

「アナザーフェイス5凍る炎」と「警視庁追跡捜査係 刑事の絆」が異例のコラボ!

『警視庁追跡捜査係』(ハルキ文庫)の新作がコラボレーションを
果たしました!!
ファンにとっては嬉しいこと、この上ないです!
そして、2冊連続で読み終わり、大・大・大満足!

アナザーコラボ

『アナザーフェイス5 凍る炎』は、刑事総務課の大友鉄が、
またもや、捜査に駆り出されているところから始まる。
息子の授業参観に行くことができるかどうか心配しながら
事前にキャッチした、中国人窃盗団による宝石強盗事件を
同期の柴克志と二人で張り込みをしているところに突然爆破事件が起きた。
大友はその現場から逃げる二人組を追うが、結局逃げられてしまう。
捜査を続けるのかと思いきや、刑事部参事官の後山から
メタンハイドレードの研究施設で起きた密室殺人事件の捜査に
加わるように指示を受ける。
捜査を進めるうちに、大友はこの事件の不可解さに戸惑い、
常にざわざわと嫌な感覚に陥ってゆく。
そして夢のエネルギー資源を巡る、最悪の謀略に巻き込まれていくのだった。
『警視庁追跡捜査係 刑事の絆』は、追跡捜査係の沖田が、
かって強行犯係で一緒だった、刑事総務課・大友鉄のために
彼が巻き込まれた最悪の事件に決着をつけるため、一肌脱ぐ!
というストーリー。
『凍る炎』では、メタンハイドレードの研究施設で起きた
密室殺人事件の決着はついたかに見えたが、実はその裏に
もっと大きな謀略が潜んでいたのだ・・・。
追跡捜査係の沖田と西川の二人は、その現場に呼ばれも
しないのに、大友のために独自の捜査を開始する。

「凍る炎」は大友鉄のプライベートにちょっとした変化が
起こる。不安な事件を追う中でその個所だけが平和に感じる。
「刑事の絆」では、沖田と西川が大友の人柄について
語るシーンが何度も出てくる。このあたりを読むと、
大友鉄という人物がいかに凄いやつなのか、「アナザーフェイス」
シリーズを読まずともわかるようになっている。
この2作品で一つの物語の上下巻みたいな展開になっている。
だからまず「凍る炎」を読んで、そのあと「刑事の絆」を
読むと事件の全貌がわかるようになっているのだ。

はまさき、「アナザーフェイス」シリーズは読んでいたけれど、
実は「警視庁追跡捜査係」はまだ読んでいなかった。
でもこのコラボレーションで「追跡捜査係」の沖田と西川にも
惹かれた。
違うシリーズのキャラのコラボレーションは、楽しみが2倍になる。
読んでいなかったシリーズも面白いと感じてしまうから。
今度は「警視庁追跡捜査係」シリーズも読もうと思う。

『アナザーフェイス5 凍る炎』
著者:堂場瞬一
出版社:文藝春秋(文春文庫)
価格:¥690(税別)

『警視庁追跡捜査係 刑事の絆』
著者:堂場瞬一
出版社:角川春樹事務所(ハルキ文庫)
価格:¥730(税別)

ドイツの凄いミステリーパート2「深い疵」

今回紹介する「深い疵」は、以前紹介したドイツの凄いミステリー
『白雪姫には死んでもらう』、ピア&オリヴァー刑事シリーズ
第1作目となる作品です。
同僚が面白いと言って先に2作目「白雪姫~」を貸してくれ、そのあと
この「深い疵」が1作目だと気が付き教えてくれたものです。

深い疵

「白雪姫には死んでもらう」は大変面白く、ピア刑事とオリヴァ―刑事のコンビが
気に入ってしまいました。第1作目も気になりますよね。

ホロコーストを生き残り、アメリカ大統領顧問まで務めた
著名なユダヤ人が射殺された。その遺体はナチスがユダヤ人を射殺
したときと同じやり方だった。さらに、凶器は第2次世界大戦時
使用された拳銃と同じものだったのだ。司法解剖の結果、
驚愕の真実が発見される。著名なユダヤ人は実はナチスの親衛隊員
だったのだ。その後も同じような年齢の男女が次々に同じ凶器、
同じ方法で射殺された。被害者の過去を調べるうちに、不可解な
真実が次々と判明する。
女性実業家をめぐる家族の確執、憎しみ合う兄弟、復讐のために
手段を選ばない男。複雑な人間関係が事件をさらに混乱させる。
いったい誰が犯人なのか?
最後の最後まで本当にわからない。
第2次世界大戦の混乱の時代から悲劇が続く、哀しい過去が
事件を起こしてしまった。
ミステリーとしての面白さもそうだが、きっちりと書きこまれた
人物と背景、人間描写が素晴らしい。奥の深いミステリー小説。

『深い疵』
著者:ネレ・ノイハウス/酒寄進一訳
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,200(税別)