今野敏さんの伝奇警察小説が面白過ぎる!

隠蔽捜査」シリーズがついに!連続ドラマ化です!
正統派の警察小説ミステリーですが、今野先生は実は
伝奇小説も描いていて、それを警察小説と上手く融合させた、
オカルトチックな警察小説もすごく面白いんです。
その代表作と言えば、「パラレル」(中公文庫)です。
「パラレル」には「わが名はオズヌ」で修験道の祖・役小角(えんのおずぬ)
が転生した・賀茂晶や亡者を追う、祓師・鬼龍光一登場させ、
刑事と共に不可解な連続殺人事件を解決に導いています。

陰陽憑物

祓師・鬼龍光一もシリーズ化されています。「陰陽」「憑物」
この2点、とても面白いです。
若い女性をターゲットにした惨殺事件や大量殺人事件の現場に度々現れる
黒ずくめの男。彼は亡者を祓う‘鬼道衆’と呼ばれる祓師・鬼龍光一。
警視庁の刑事・富野は、祓師と名乗るこの男に不信感を
募らせるが、いつしか絶妙な協力関係で、事件の真相に
近づいて行く。また、鬼龍とのライバル関係である、
外道を祓う‘奥州勢’と呼ばれる祓師・安倍孝景も登場する。
いつもは憎まれ口ばかり叩き合っている二人だが、
亡者や外道を祓う時に二人で協力し、陰陽パワー全開で
憑物を退治するときが、めちゃめちゃかっこいいんです。

多彩な今野敏ワールド、面白くて面白くてやめられなくなります。

『陰陽 祓師・鬼龍光一』
『憑物 祓師・鬼龍光一』
著者:今野敏
出版社:中央公論新社(中公文庫)
価格:陰陽¥686(税別)憑物¥648(税別)

警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズ文庫最新刊『エチュード』。

今野敏さんの文庫最新刊です。
『エチュード』(中公文庫)
警視庁捜査一課のウスやんこと、碓氷弘一シリーズ第四弾!
はまさき、このシリーズも大好きです。
なぜかというと、この碓氷刑事は、いつもちょっと変わった
パートナーと組まされるんです。
「触発」では事件が爆弾を使ったものだったので、自衛隊の
爆弾エキスパートと組んで、爆弾魔を追いつめる。
「パラレル」では、連続猟奇殺人事件の犯人を追ううちに、
役小角が転生した、男子高校生・賀茂晶と、祓い師・鬼龍光一に
助けられ、「アキハバラ」では、外国人スパイとパソコンマニアと
ともに事件を追うことになる・・・。
そして今回、相棒になったのは、なんと検察庁から
送り込まれた心理調査官。しかも若い女性だ。

エチュード

中年太りと頭が薄くなってきたことを最近気に掛けるようなになった碓氷警部補。
渋谷・新宿で通り魔殺人事件が連続して発生した。しかし何故か誤認逮捕が
繰り返され、事態を重く見た検察庁は、迅速な事件解明をすすめるために、
心理調査官を派遣。しかも女性!。碓氷警部補はまたもや、変わり種の
パートナーと事件を捜査する羽目になる。
しかし、女性心理調査官・藤森紗英は、非常に優秀だった。
彼女の助言により、巧妙な「犯人すり替え」が行われていたことが
わかった。いったいどんなトリックを使ってすり替えを行っていたのか?
常軌を逸した犯人の行動に、この異色のコンビは事件解明できるのか!?

毎回、碓氷警部補の柔軟な対応に驚く!
どんなパートナーと組まされようと、相手の力を引き出す
碓氷警部補の懐の深さに脱帽する。
今回は若くて美人で優秀という、碓氷警部補がちょっと
苦手な相棒だったが、一緒に捜査をすることでお互いに
心を開き、碓氷の後押しで藤森紗英が捜査本部に
なじんでいく様はとっても良かった。
(田端捜査一課課長がまたもやいい味を出していました!)

読了後、やはりさわやかな気持ちになるのは私だけだろうか?

『エチュード』
著者:今野敏
出版社:中央公論新社(中公文庫)
価格:¥667(税別)

嬉しい!「隠蔽捜査」が連続ドラマ化

「隠蔽捜査」連続ドラマ化!
今野敏フリークならば、このニュースに思わず叫んだはず!
かくいう、はまさきも涙が出るくらい嬉しかったんです。

今野先生の作品の中で「隠蔽捜査」シリーズは特別。
警察という組織の中で、原理原則を貫くことは、ほぼ不可能。
しかし、主人公の竜崎伸也は、東大卒のキャリアでありながら、
組織の判断が間違った方向に行こうとすれば、それは違うと
堂々と言える男だ。
変人と言われながらでも、正しいと思う道を行く。
そんな竜崎に憧れを抱いた人も少なくないだろう。

一番最初の印象は、いけすかない奴だった。
でも読んでいくと、次第に竜崎に共感するようになる。
不思議だ。
結局、竜崎にどんどん惹かれてゆく。

そんな竜崎をテレビのドラマで観ることができる。
ファンにとってこんなに嬉しいことはない。
今からウキウキワクワクという状態。
(今野先生の作品を次々ドラマにしてくれる、某テレビ局に感謝!)

ドラマの中でも竜崎流を貫き通してほしいと思う。

今年のミステリー大収穫作品!「幻夏」

心にグッとくるミステリーです。「幻夏」太田愛(角川書店)

著者の太田愛さんは、脚本家から作家に。
脚本家としてスタートしたのは、1997年に放送された、
「ウルトラマンティガ」。はまさき、筋金入りのウルトラマン好きです。
特に「ウルトラマンティガ」は大好きで、DVDで何度も観ました。
52話あるのですが、太田愛さんはその中で何本か脚本を書いて
おられます。ヒーローものは勧善懲悪が基本。怪獣は悪いやつで
それを倒す正義のヒーロー、ティガなんですが、太田さんのドラマは
ただの勧善懲悪ではないんです。必ず心にグッとくるストーリーなんです。
だから妙にドラマの細部まで覚えているんです。
そして、次に「相棒」の脚本を書かれます。
この作品の帯には「相棒」の出演者、及川光博さんが感想を書いておられます。

幻夏

夏の終わり、十二歳の少年が失踪した。
それから23年、しがない探偵・鑓水は、少年の母親から息子を探すように
依頼を受ける。その息子こそ、12歳のとき失踪した少年だった。
同じ頃、少女連れ去り事件が起きた。
所轄の交通課にいる相馬は、その捜査本部からの要請で、後方支援をしていた。
その過程で、少女が連れ去られた現場からある‘印’を発見する。
それは23年前の少年失踪事件の現場にあったものと同じ‘印’だった。
相馬は23年前の事件と今度の少女連れ去り事件が関連性があると考え、
本部に話そうとするが、左遷された刑事の話など誰も聞く耳を持たなかった。
仕方なく、相馬は友人で探偵の鑓水に相談する。
鑓水が依頼された件と相馬の事件が交差する。
相馬は23年前に失踪した少年の友人だったのだ。
相馬にとって、失踪した少年とその弟との記憶は、夏の終わりの切なさと
まぶしさと、胸が苦しくなるほどの喪失感が伴う、決して忘れられないものだった。
幼いころ、友人が言ったひとこと「俺の父親はヒトゴロシなんだ」・・・。
しかし、友人の父親は冤罪だった。
そこから物語は、複雑な様相を呈してゆく。

冤罪による家庭崩壊、自分の父親を憎むことしかできなかった少年。
真相を知った子どもたちの苦悩・・・壊れていく心。
冤罪によってどれほどの人たちが苦しむのか?
当事者家族、そして被害者家族も苦しむことになるのだ。
冤罪の恐怖と冤罪が生まれる今の日本の警察制度に問題提起をしている。
子どもたちの目線で描くことによって、その背負わされた罪の重さ、
苦しさが余計に心を抉る。
どれほどの想いがこの作品の中に込められているのか・・・?
引き裂かれた子供たちが、切なく哀しい慟哭のミステリー。

『幻夏』
著者:太田愛
出版社:角川書店
価格¥1,600(税別)

警察大河小説の傑作です!「警察署長」

日本の警察小説は、海外並みに、いやいやそれ以上に面白く
なってきています。
横山秀夫さん、佐々木譲さん、今野敏さんなど警察小説の王道を行く作品や、
最近では、特殊警察ものや、警察を舞台にした刑事が探偵役にもなるような
作品などなど・・・多彩です。

しかし、やはり海外の警察小説には凄い作品があります。
ちょっと前の作品ですが警察大河小説も言うべき
スチュアート・ウッズ『警察署長 上下』(ハヤカワ文庫)
この作品があまりにも面白い!!
アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞を受賞した傑作。
翻訳も素晴らしい!

警察署長上警察署長下

1920年冬、ジョージア州田舎町デラノの郊外で、若い男性の全裸死体が発見された。
就任間もない、デラノの初代警察署長、ウイル・ヘンリー・リーは、
秘密結社K・K・Kの仕業とみて捜査を開始したが、検屍の結果、死体に警察関係者
によって尋問された形跡が残っていると判明。犯人はいったい何者なのか?
捜査を続けるウイルはやがて意外な人物に行き当たるが・・・・。
第2次大戦後、復員してデラノ警察に職を得たサニー・バッツ。やがて署長に抜擢される。
バッツは、前署長・ウィル・ヘンリーの遺したメモから殺人事件のことを知り、
犯人に迫るが逮捕をあせるあまり、犯人の思わぬ陥穽に落ちてしまう。
それから十余年が過ぎ、タッカー・ワッツが初の黒人署長として華々しく就任した。
州副知事でウィル・ヘンリーの息子ビリーの支持を受ける彼は、
前任者二人が解きえなかった事件に挑む。
だが、ビリーの知事選出馬、黒人差別を続ける反動勢力の策謀が絡み、
捜査は複雑な様相を呈してきた・・・・!
人種差別が色濃く残る、南部の小都市を舞台に、40年にも及ぶ殺人事件を、
多彩な登場人物を配して描く警察大河小説。これ以上ない面白さ。

何故この作品が‘あまりにも面白い’と言い切れるのか!?
それは、3代の署長の人物像がしっかりと描かれている。
彼らに絡む登場人物たちが、これ以上ないくらい絶妙のタイミングで
配置されている。さらに、捜査の段階で次第に判明する犯人像。
わかりそうで、わからない、つかまりそうでうまく逃げてしまう
犯人のしたたかさ。それは今までにないハラハラ・ドキドキの展開なのだ。
1920年代~1960年代のアメリカ南部の社会背景が詳細に描かれている。
それが40年もの間、殺人事件が解決しない理由の一つになっているのだ。

全てが計算しつくされ、描かれている。上手い!うますぎる!
とても新人が描いた作品とは思えない。
海外警察小説の醍醐味を思う存分味わうことが出来る傑作中の傑作!!

『警察署長 上下』
著者:スチュワート・ウッズ/真野明裕訳
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫)
価格:上下各¥820(税別)

ドラマ「SRO」の原作はこれ!「SRO警視庁広域捜査専任特別調査室Ⅰ」

12月9日(月)の夜9時から放送されたドラマ
「SRO 警視庁広域捜査専任特別調査室」とても面白かったです。
原作は、富樫倫太郎さんの「SRO 警視庁広域捜査専任特別調査室Ⅰ」
(中公文庫)。ドラマ化されると設定など、ドラマ用に変更になることが
多いですが、今回はほぼ原作通りの展開。

警察小説好きのはまさき、このシリーズも大好きです。
登場人物がとても個性的で、それぞれバラバラに動いているように
見えるのですが事件捜査になるとひとつにまとまる。
このチームの室長で頼りなさそうな山根新九郎だが、事件解決と犯人逮捕に
並々ならぬ決意を見せる。チーム全員、室長に一目置くようになる。

SROⅠ

ドラマではこの室長を、田辺誠一さんが演じていました。
イメージにぴったり!
またキャリアの副室長を、木村佳乃さんがピシッと演じていて
とても良かった。キャスティングの上手さに脱帽!

日本で起こる猟奇殺人事件や、連続殺人事件もだんだんと
アメリカに近くなり、シリアルキラーは日本にはいないだろうと
思われているが、実は捜査が管轄に縛られて、広域捜査が
出来ないため、発見できていないというのが現実という
設定のもと、物語が進む。
捜査の仕方も今までの警察小説とは少し違い、
犯人像も意外で面白いです。

シリーズは5作品出ているので、ぜひ連続ドラマにしてほしいな。

『SRO 警視庁広域捜査専任特別調査室Ⅰ』
著者:富樫綸太郎
出版社:中央公論新社(中公文庫)
価格:¥800(税別)

一番恐いのは人間の欲望か?!「シンプル・プラン」

ちょっと古い海外ミステリーです。
映画化もされ、話題になりました。
1995年の「このミステリーがすごい 海外編」第1位になった作品
「シンプル・プラン」。
普通の人たちが大金に出会うとどうなるか・・・?
読んでいくと恐ろしい展開が待っています。
今でも忘れられない作品。

シンプルプラン

ある雪の日の夕方、借金苦で自殺した両親の墓参りに向かうため、
ハンクは兄・友人たちとドライブをしていた。
その途中、ハンクたちは、墜落した小型飛行機の残骸を見つける。
そこには、440万ドル(約4億5千万円?)もの現金が詰まった
袋がかくされていた。
墜落した小型機の残骸には、パイロットの死体のほか何もなく
さらに、自分たちのほかだれもいない。
誰にも危険は及ばないだろうと判断したハンクたちは、
しばらくその金を保管し、いずれは自分たちで分けるため、
ごくシンプルな計画をたてた。
だが、その計画は徐々に狂い始める。

雪深い田舎を舞台で、仲間たちとその日その日を
気ままに暮らしていた、ごく普通の人たち・・・。
そういう登場人物の設定うまさ、そして徐々に狂い始める
人間の心理描写があまりにも上手い!!
淡々と展開するストーリーだが、逆に登場人物たちは
静かに静かに狂っていく・・・。
登場人物たちの動きがどう変わるのか・・・?
先のストーリー展開が全く読めず、ハラハラしながら
ページをめくった・・・・。

あのホラー小説の帝王・スティーブン・キングが絶賛した、
デビュー作とは思えない、驚異の傑作ミステリー。

『シンプル・プラン』
著者:スコット・スミス/近藤純夫訳
出版社:扶桑社(文庫)
価格:¥699(税別)

北欧警察ミステリー「刑事ヴァランダー」シリーズが渋い!

次々と面白い作品がが出てくる、北欧ミステリー。
スウエーデンの「刑事マルティン・ベック」シリーズに
続き、人気のシリーズがこの「刑事ヴァランダー」。
その第1作目を読みました!!
面白すぎていっき読みしました。

ヴァランダー

スウエーデンの田舎、小さな村で老夫婦が惨殺された。
知らせを受けた、ヴァランダー刑事とその仲間たちは
現場に駆けつける。その現場は今までにない凄惨な光景だった。
まだ息のあった妻は、「外国人」と言い残して死んでしまう。
1990年代のスウエーデンは、移民をすべて受け入れていたため、国の
移民政策に国民の不満は頂点に達していた。
もし、老夫婦惨殺事件が外国人の仕業なら、
それに不満を持つ過激なグループが、移民地区に
報復しかねない。妻の証言がマスコミに漏れないように細心の
注意をはらったヴァランダーだったが、無駄に終わって
しまった。
そのあと、ヴァランダーのもとに脅迫電話がかかってくる。
3日以内に老夫婦惨殺事件を解決しなければ、
移民地区から死人が出ると・・・・・

ヴァランダーたちは、老夫婦惨殺事件と脅迫事件と
二つの事件を追うことになる。

派手なトリックや、大ドンでん返しのような展開はない。
ただひたすら、地道に捜査する警察の基本が描かれている
なのになぜこんなに面白く心惹かれるのか?

それは、チームで捜査にあたる警察小説の面白さが際立っていること、
さらに登場人物たちの描き方が素晴らしい。
主人公・ヴァランダーの悩みや生き方があまりにもリアルに
描かれているため、とても共感してしまうのだ。
第1作目がこれほど面白いのなら、2作目、3作目はさらに面白さが
増すだろうと、予想できる。
現在9作品が翻訳されて、発売中。
柳沢由実子さんの翻訳も読みやすい!!

『殺人者の顔』
著者:ヘニング・マンケル
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥1,000(税別)