北欧ミステリーの極致、犯罪捜査官・エーレンデュルシリーズ最新作「サイン 印」

アイスランド、レイキャビク警察、犯罪捜査官・
エーレンデュルシリーズ最新作「サイン 印」読了。
毎回、心を揺さぶられる。大好きなシリーズ。
毎回切なすぎる展開なのに、なぜか心を掴んで離さない。

湖のほとりのサマーハウスで女性の首つり遺体が
発見された。
第一発見者は、その女性の幼馴染の友人だった。

エーレンデュルが夫に話を聞くと、二年前にとても
親密にしていた母親が亡くなり、
精神的にとても不安定だったという。
そして、死後の世界に助けを求めるようになり、
霊媒師のもとへ出入りするようになったらしい。

自殺してもおかしくない状況は揃っていて、
自殺で間違いないとほぼ断定されてしまう。

ところが、第一発見者で女性の幼馴染から
彼女が自殺するはずがないと証言を得る。
さらに、その女性から預かったあるテープを
聞き、自殺説に疑いを持ったエーレンデュルは
独自に捜査を開始する。

エーレンデュルの事件捜査と並行して
エーレンデュルの家族のことが描かれる。
十代の頃、弟を喪ったエーレンデュルの
深い悲しみ。
その過去の呪縛を抱えたまま結婚し
二人の子どもエヴァリンドとシンドリスナイル
に恵まれるが、妻と離婚。子どもたちと
会うこともなく孤独な日々を過ごした。

ところが大人になった子どもたちが
エーレンデュルに会いにくる。
彼らはエーレンデュルに憎しみさえ
抱いていた。
彼らの気持ちをそのまま受け入れ、
子どもたちと向き合うエーレンデュル。

孤独な捜査は、亡くなった女性の悲痛な過去を
暴いてゆく。
エーレンデュルは執拗に彼女の死の真実を追い求める。
そして、明らかになった真実はあまりにも悲劇的だ。

女性の心の痛みを自らのことのように共感するエーレンデュル。

家族とは?夫婦とはいったい何なのか?
あまりにも深く、切ない問いに心の奥底まで
揺さぶられる。

『サイン 印』
著者:アーナルデュル・インドリダスン著/柳沢由実子
出版社:東京創元社
価格:¥2,200(本体¥2,000+税)

火村&有栖シリーズ最新作「捜査線上の夕映え」

犯罪学者・火村英生とミステリー作家・
有栖川有栖コンビシリーズ最新作。
「捜査線上の夕映え」を読了。
新刊で気になっていたのと、このミス3位に
ランクインしたということで読みました。
登場人物とともに、ゆったりと謎解きに
浸る、贅沢な時間でした。

コロナ禍の大阪が舞台。
あるマンションの一室のクローゼットから
男性の遺体が詰め込まれたスーツケースが
発見された。
男性は自室で何者かに殴打され絶命。
そしてスーツケースに入れられたようだ。

大阪府警の要請で、事件解決に協力
することになった、犯罪学者・火村と
相棒のミステリー作家・有栖は
現場へと向かった。

殺害された被害者は元ホストだった。
捜査が進むうち、気になる人物が
3人に絞られる。

しかし、彼らには鉄壁のアリバイがあった・・・。
コロナ禍で旅行が出来なかった分、
新型コロナが一段落し、政府がGOTO~
を押しすすめたことで、そのストレスを
発散させるかのように、みな旅行に
出かけていたのだ。

一見、単純な事件かと思われた。
しかし、3人をさらに詳しく調べることで
複雑な様相を呈してきた。
また、捜査本部の一捜査員の動きも怪しい・・・。

警察に協力しながら、火村と有栖は様々な
推理を展開し殺害動機の解明と
アリバイ崩しに挑戦してゆく。

意表をつく「超絶」トリックで、
登場人物、そして読者を翻弄!、
さらに緻密な人間関係の機微が丁寧に描かれる。
その心理描写が秀逸すぎる。

久しぶりに読んだこのシリーズ。
二人の変わらない友情にホッとする。

『捜査上の夕映え』
著者:有栖川有栖
出版社:文藝春秋
価格:¥1,980(本体¥1,800+税)

戦慄のサスペンスミステリー「花束は毒」

読みたかった織守きょうやさんの
「花束は毒」を読了。
随所に仕掛けられた罠に絶句!!

中学生の時に、木瀬の従兄はいじめを受けていた。
それを解決したのが木瀬の1年先輩の北見理花。
彼女が解決してくれたおかげで従兄は
いじめから解放された。
しかし、その「解決」に疑問を持った木瀬は
心に棘のようなものが残ってしまった。

それから六年後、木瀬はかつての家庭教師・
真壁と出会う。
当時はイケメンで快活、医者志望で女子に
人気があったが、再会した真壁は別人のように
変わっていた。

それでも木瀬との再会を喜び、久しぶりに
一緒に食事をした。
近ぢか結婚する予定であることを少し
照れくさそうに話した。
ところが、木瀬が真壁をアパートに送って
行ったとき、ゴミ箱からくしゃくしゃに
なった手紙を発見する。
それは脅迫状のようなものだった。

度々脅迫状が来るという真壁の話に衝撃
を受けた木瀬は、真壁に調査会社を通して
調べてもらうことを提案する。

探偵事務所を探してたどり着いたのは、
中学時代の先輩・北見理花がいる事務所だった。

木瀬は北見に事情を話して、真壁から連絡が
きたら協力して欲しいと頼む。

しかし、真壁から北見に調査の依頼は無かった。
業を煮やした木瀬は、真壁の代わりに調査を
依頼する。
北見と二人で真壁の周辺を調べ始めると、
真壁が大学を中退し医者の夢をあきらめたと知る。
そして、真壁にはその脅迫者を追及できない理由が
あった・・・・。

二人の調査によって明かされる真壁の過去。
脅迫者とは誰なのか?
謎は深まり、混迷してゆく・・・。

何者かの巧緻な計略によって、幾重にも
張り巡らされた罠。
誰もがその罠にはまってゆく。

読み進め、真相がわかった時には鳥肌が
たってしまった。
読了した後、呆然自失。
そして徐々に背筋が凍るほどの衝撃が
襲いかかる。

更にラストに提示された深すぎる問い。
自分だったらどうするのか?
その答えは・・・・!?。

『花束は毒』
著者:織守きょうや
出版社:文藝春秋
価格:¥1,870(本体¥1,700+税)

依頼人はヤバすぎる!?「黒野葉月は鳥籠で眠らない」

織守きょうやさんのミステリー作品が
気になって「黒野葉月は鳥籠で眠らない」を読了。
一筋縄ではいかない依頼人の相談に
必死に応える、新人弁護士・木村。
しかし彼らの依頼はちょっとヤバかった・・・。

超絶どんでん返しに唖然・・・・。
4つの短編を収録。

家庭教師の男子大学生が、教え子への
淫行容疑で逮捕された。
彼の弁護を担当する、新人弁護士・木村は
示談に持っていこうとするが、彼は
示談の際に提示された条件を拒否。
困った木村のもとへ被害者とされる
女子高生が現れた・・・。
【黒野葉月は鳥籠で眠らない】

木村は旧友の妻から「夫が逮捕された」と
知らされた。妻に事情を聞くと、旧友は
実家に不法侵入したらしい。
旧友の息子が難病にかかりその手術代のため
金目のものを盗もうとしたのだ。
木村とともに父親に会いにいき、事情を
話し許しを請うつもりだったが、
逆に相続人から排除すると言われる。
そして、そのあと旧友は父親殺害で逮捕されるが・・。
【石田克志は暁に怯えない】

木村は行きつけのお弁当屋の女性店員から
相談を持ちかけられる。
女性店員の幼馴染の男性の離婚や親権に
ついて相談に乗って欲しいという。
その男性は、妻の不貞を理由に離婚して
子どもの親権を得たいということだった。
木村が男性の仕事や日常のことを聞くと
親権は男性の方にメリットがあるようだった。
女性店員からも幼馴染の気持ちに沿うように
と頼まれた。木村は彼らの依頼通りの
結果を出した。だが木村はとんでもない
思惑に気づいてしまう・・・。
【三橋春人は花束を捨てない】

大物芸術家の財産管理を任された木村。
先輩の高塚とともに挨拶に行くと、美しい
女性に出迎えられた。
木村は「奥さん」と思ったが、高塚が
の話だと「娘」とのこと。
木村はその後何度かその家を訪ねた。
そして決定的な場面を目撃してしまう!
まさか・・・と思いつつ、女性に問い
ただす木村だったが・・・。
【小田切惣太は永遠を誓わない】

新人弁護士・木村がベテラン弁護士・
高塚のアドバイスを受けながら4つの
依頼を解決する。

「絶対に欲しいものが決まっている人が
どれだけ強くて怖いものかを・・・」
高塚が木村に言った一言。

彼らは一番欲しい物を手に入れるため、
一番大切なものを守るために何をしたのか?
それが分かった時、背筋が凍る展開も
あれば、愛情の深さに心を打たれる
感動の展開もある。
常識を超えたところに解決策を見出した
超絶どんでん返しだ。

感動と戦慄の結末に絶句する、リーガルミステリー。

『黒野葉月は鳥籠で眠らない』
著者:織守きょうや
出版社:双葉社(文庫)
価格:¥770(本体¥700+税)

シリーズ完結編!『女副署長 祭礼』

松嶋智左さんの「女副署長」シリーズ完結編
「祭礼」を読了。
とても好きなシリーズなので、3巻で
完結なのはちょっと寂しい気がする・・・。

Y県初の女性副署長として勤務する田添杏美は、
県郊外の佐紋署からY県で最も繁華街にある
A級署の旭中央署に異動になって2年が経過していた。

旭中央署は、6年前に夏祭りで行方不明に
なった女児をいまだに発見できていないと
いう事案を抱えていた。

そんな中、新たな署長が赴任してきた。
30代の女性キャリア・俵貴美佳だ。
杏美はまず、6年前の女児行方不明事件の
事案について説明をした。
女児の両親は毎年チラシを配り情報を
集めていた。旭中央署もずっと一緒に
動いている。

貴美佳は、署長として様々な会合に
参加し、張り切っているようだった。

ところが杏美に監察から声がかかった。
署長に関する極秘の案件だった。

同じころ、二年前の強盗傷害事件の被疑者が
動き出す。そして被疑者の関係者が転落死!
事故ではなく事件の疑いが出てきた。
ところが、旭中央署捜査一課のメンバーが
次々と体調不良で倒れてしまう。

それに伴い、県警本部捜査一課三係の
剛腕・花野警部が助っ人にやってくる。
強盗傷害事件について、意外な方向へと
展開してゆく。

6年前女児が行方不明になった夏祭りの日、
杏美は単独である人物を追った。

旭中央署が抱える3つの事案。
6年前の女児行方不明事件、強盗傷害事件関係者の
不審死、そして署長にからむ不祥事。
一つ一つの事件が非常に丁寧に描かれ、見事に
交錯し、捜査小説としての面白さは群を抜いている。

心の準備ができないまま読んだまさかの結末!
衝撃が強すぎて言葉が出なかった・・・。

『女副署長 祭礼』
著者:松嶋智左
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥693(本体\630+税)

「巨悪」に挑む男!「地検のS Sが泣いた日」

伊兼源太郎さんの「地検のS」シリーズ
第2弾「Sが泣いた日」を読了。
湊川地検の総務課長・伊勢雅行の
真の狙いが徐々に明らかになる!

特ダネを上げろと上司からプレッシャーを
かけられる新聞記者。
暴力団員の遺棄致死の裁判でのらり
くらりと検事の質問をかわす証人。
トラブルメーカーの男の弁護を
引き受けた女性弁護士の苦悩。
政治資金規正法違反の疑いのある
政治家をかばう前科のある主婦の
自白をとれと迫られる女性検事。
政治家の闇献金疑惑に関するメモが
紛失し、必死で捜索する総務課員。

そのすべての事件の裏側には、伊勢がいた。
湊川地検の総務課長・伊勢雅行は
いったい何者なのか?
長年、総務課長の席にあり、湊川地検の
すべてを知る男。
伊勢雅行という男の影の働きをほのめかす
内容だった。

「Sが泣いた日」は伊勢雅行自身が主人公。

次期与党総裁候補の吉村泰二に闇献金疑惑が
浮上した。
湊川地方検察庁は、その証拠固めを急いでいた。
その金の受け渡しを目撃し、話をすると
約束した二人のホステスが行方をくらませた。

総務課長の伊勢は、盟友である事務官の
久保と独自に調査を始めるが・・・。

伊勢と事務官の久保には悲しい過去があった。
それは、次期総裁候補・吉川泰二とその父親
に関わることが原因だった。
彼らが何をしてきたのか?
伊勢と久保は彼らが行ってきたことを
白日の下に晒すことが真の狙いだ。

伊勢にとってこの「闇献金疑惑」は
吉川泰二を潰す絶好の機会だととらえた。
しかし・・・またしても悲劇が彼を襲う!

収賄疑惑がかかる大物政治家VS地検の
影の実力者。

何が何でも「巨悪」を潰す!
伊勢は正義を貫くことが出来るのか?

切れ者たちの策謀が渦巻く。
誰が味方で誰が敵なのか?
息をのむほど「超」スリリングな展開に
翻弄される!

検察ミステリーの極致。

『地検のS Sが泣いた日』
著者:伊兼源太郎
出版社:講談社(文庫)
価格:¥748(¥680+税)

偽造運転免許証の謎を暴け!『黒バイ捜査隊 巡査部長・野路明良』

「女副署長」シリーズでおなじみの
松嶋智左さんの新シリーズ「巡査長・野路明良」
第二弾「黒バイ捜査隊」読了。
元警察官で、初の女性白バイ隊員だった
著者が描くものすごくリアルな警察小説。

警察学校の恩師・山辺佑警部補から、
運転免許センターの技能試験監督の
仕事を勧められ、運転免許センターに
異動した、野路明良は、新設された
黒バイ捜査隊の訓練も担っていた。

その黒バイ捜査隊が追跡した不審車両の
運転手が所持していたのは、精巧な
偽造運転免許証だった。
ICチップが搭載された本物の運転免許証。
しかしそのICチップが別人のものに書き換え
られていた。

そんな免許証の偽造が発覚した直後、
センター係長が庁舎から飛び降り、
重体になってしまう。

知事・公安委員らからも免許証偽造に
ついて厳しい意見がでた。

野路は、そんな精巧な免許証の偽造は
内部の協力がないとできないのではと
推理。
内部の組織的犯行を疑う野路は、仲間と
ともに独自に捜査を始めると彼の前に
謎のバイク集団が現れた!?

ICチップ書き換えの偽造免許を巡る犯行により、
運転免許センターの署員たちが次々と
事件に巻き込まれてゆく。
何が目的なのか?
黒幕の正体とは?

もし運転免許が知らないうちに偽造
されていたら・・・・。
私たちの身近である運転免許センターで
起こる絶対にあってはならない、でも
もしかしたら起こるかもしれない事案を
元に練り上げられた警察ミステリー。

大切な仲間が犠牲になったことで、
野路の怒りは頂点に達している。
どんなことがあっても絶対に真相を
暴いて見せるという野路の警察官として
意地が感じられた。

バイクを駆使し、犯人らを追い詰める
シーンは毎回手に汗握る展開!
バイクアクションの描写も見事!

本格ミステリと、元警察官という著者の
経験が警察のリアルな描写と融合し
これまでの警察小説にはない面白さが
楽しめる。

『黒バイ捜査隊 巡査部長・野路明良』
著者:松嶋智左
出版社:祥伝社(文庫)
価格:¥792(本体\720+税)

開署準備に追われる署員たちを襲う前代未聞の事件!?『開署準備室 巡査長・野路明良』

「女副署長」シリーズでおなじみの
松嶋智左さんの新シリーズ「巡査長・野路明良」
第一弾「開署準備室」読了。
元警察官で、初の女性白バイ隊員だった
著者の、白バイの描写がものすごくリアル!

巡査長・野路明良は、白バイ隊員のエース
で、全国白バイ安全運転競技大会で優秀な
成績を収め、Y県警本部を優勝に導いた
男だった。しかし、後輩とともに捜査中
車の事故で後輩を死なせたうえに、自分自身も
右手の指二本に障害を負い、二度と
白バイには乗れなくなった。
リハビリ後の復帰先は、吸収合併で
出来た姫野市に置かれる、姫野署の開署準備
のために臨時で作られた総務担当だった。
その異動で、野路は自棄になっていた。

四日後に開署予定の姫野署の準備は終盤を
迎えていた。
野路は、総務担当の山辺礼美らとともに
最終チェックに明け暮れている。
ところが、不審な出来事が次々と起こる
発注外の大型什器の搬入、防犯カメラの
誤作動、不審人物の目撃など・・・。
本部のお偉方を招いてのセレモニーに
暗雲が立ち込める・・・。

一方Y県にそびえる信大山のキャンプ場で
人間の白骨遺体が発見された!?
捜査本部が出来るが、身元が判明しないまま
捜査は膠着状態に陥った・・・。

開署準備に追われる野路らを放って、
ベテラン刑事だった上司の飯尾は、
白骨死体の捜査に首をつっこむ始末・・・。

だが、飯尾の行動は膠着状態だった
捜査が動き出すきっかけとなるのだ。

開署前の姫野署で続く不審な事件、
さらに白骨死体の事件が交差した時
迷宮入りしていた事件に繋がる!

しかしその事が、姫野署を大惨事に
巻き込んでゆく!

白バイが疾走し、奇跡的な運転技術を見せる
シーンは、元白バイ警官の知識と経験が
これでもかと発揮され、圧倒的な
臨場感で描かれている。

大胆不敵、空前絶後の展開で読者を
翻弄する、稀にみる面白さで迫る警察小説!

『開署準備室 巡査長・野路明良』
著者:松嶋智佐
出版社:祥伝社(文庫)
価格:¥770(本体¥700+税)