怒濤の展開に驚愕の連続!!凄い警察小説シリーズ登場!『石の繭 警視庁殺人分析班』

『石の繭』、タイトルに惹かれ読んでみました。
凄く面白いです。新しい切り口の警察小説シリーズの登場です。
しかもシリーズは第4弾まで発売中とのこと。めちゃめちゃ読みたくなりました!
著者は、鮎川哲也賞を受賞した本格ミステリ作家。

刑事だった父の跡を継ぎ、警視庁捜査一課の刑事となった如月塔子。
小柄で可愛い。しかし男並みのガッツがあるがんばり屋だ。
先輩の鷹野警部補からは少し休めと言われることもある。

ある日、モルタルで石像のごとく固められた変死体が発見された。
現場には犯人の遺留品と思われるものが遺されていた。いくつもの謎が残る事件現場。
そして翌朝、愛宕署の捜査本部に犯人から電話が入る。交渉相手に選ばれたのは、なぜか如月塔子だった。
自らヒントを提示しながら頭脳戦を仕掛ける知能犯。そして警察を愚弄するかのように、第二の事件が起こってしまう。
やがて二人の被害者に共通点を見つけると、捜査は前進。
しかし犯人はしきりに警察の無能さを強調するのだった。
捜査本部で集めた情報を積み重ね、分析、検証し、犯人と殺害動機を絞り込んでいく。
やがて特捜本部は事件の真相を暴き、犯人逮捕へと動き始めた。
しかしそれは、殺害計画から綿密に計算しつくされた犯人の罠だった・・・・。

この作品の二転三転する怒涛の展開に、何度も度肝を抜かれる。
犯人との直接対話、いくつもの伏線、事件の捜査過程はまるで本格ミステリの謎解きのように感じられる。

この作品は、チームワーク重視の警察組織小説であり、如月塔子刑事を名探偵に仕立てた本格ミステリ小説でもあるようだ。

事件の意外性と本格ミステリの謎解きをを思わせる事件捜査、そして魅力的な女性刑事の成長が楽しみな、凄い警察小説シリーズの登場です。

『石の繭 警視庁殺人分析班』
著者: 麻見和史
出版社:講談社
価格:¥695(税別)

何度読んでも‘震える’恐怖の社会派サスペンス『震える牛』!

昨年、衝撃的な内容で話題をさらった、社会派サスペンスミステリー『震える牛』が6月にドラマ化されるに当たり、この度文庫で発売されました。
再度読み返し、本書のリアル感に再び恐怖を感じてしまいました。

警視庁捜査一課継続捜査班に所属する田川刑事は、発生から2年たち未解決となっている、『居酒屋強盗殺人事件』の捜査を命じられる。
当時、捜査本部は被害者二人に面識がなかったことで、「金目当ての不良外国人」に絞り込んでいた。
しかし、メモ魔・田川は関係者の証言を再度積み重ねることによって、新たな容疑者を絞り込んでいった。
一方、ネット記者の鶴田真純は、ある大手ショッピングセンターを執拗に追っていた。そして彼女の記事は内部告発を誘発。やがて、鶴田は、そのショッピングセンターが行っていた不正を嗅ぎ付ける。
田川刑事の地道な捜査と、鶴田のスクープが交差したとき、大手ショッピングセンターが行っていた恐ろしい不正の事実が明らかになる!

食の安全も、消費者も全く無視した大企業の不正。
これはもしかして本当にあるのではないかと思うくらいリアルなのだ。
フィクションのはずなのに、まるで現実のスクープのように感じる。

現代の日本社会の病巣を鋭く抉っています。
大手SCの不正の描写ががあまりにもリアルなので、買い物するとき恐くなります。
読むには覚悟が必要か?!

『震える牛』
著者: 相場英雄
出版社:小学館
価格:¥714(税別)

北欧の警察小説『国家刑事警察特別捜査班』シリーズが渋くて良い!

ここのところ、ちょっと海外の警察小説にはまっています。
しかも北欧の警察小説シリーズが面白いんです。
前回書きました、「特捜部Q」シリーズから始まり、今回はスウェーデンの作家、アルネ・ダールが描いた『靄の旋律 国家刑事警察 特別捜査班』にすっかり魅了されてしまいました。

スウェーデンの所轄署に勤める、ポール・イエルム警部補は、怪我を追いながらも、人質立てこもり事件を解決し、一躍ヒーローに!
職務規定違反で内部調査を受けていた、ポールはさらに注目される羽目になるが・・・・。

その頃、スウェーデンでは、実業界の大物が次々に処刑されていた。
一刻も早く事件を解決したい警察。上層部は急遽、特別捜査班を編成。
ポールはその特捜班に呼ばれることとなる。
特捜班の面々は個性的だが、超優秀な刑事ばかり。この特捜班は、事件解決のためには管轄も命令系統も越えることが出来る。しかしやはり多少の軋轢も生む。
それぞれに事情を抱えた6人の精鋭たちの精力的かつ地道な捜査が始まった・・・。

時代は1990年代後半。スウェーデンもバブル景気のあと国内の景気がいっきに落ち込んだ頃。
なぜ実業界の大物ばかりが狙われたのか・・・?その背景がしっかりと描かれている。

さらに6人の特捜班のメンバーも非常に魅力的だ。
アメリカの刑事みたいな男・グンナリ・ニーベリ、スマートでダンディな刑事・アルト・セーデシュテット、ちょっと斜に構えた、ヴィゴ・ノーランデル刑事。ラテンの血が流れる、ホルヘ・チャベス、紅一点、美貌の女性刑事・シェスティン・ホルム、そして主人公・ポール・イエルム。
特にポールのプライベートな苦しみは、刑事を生業とする男性の、世界共通の悩みと苦しみ・・・。
このチームをまとめるのは、思慮深いが、いざチームの危機となれば猪突猛進する、ヤン=オーロフ・フルティーン警部。理想の上司かも・・・。

日本で言うと、今野敏先生の「安積班」のように、チームが協力して難事件を解決する・・・。
海外警察小説では、久々にそんな感じの作品に出会いました。
すごく面白かったです。
この作品は、シリーズ化され、スウエーデンではすでに10作品で完結しているようです。
日本で次の作品がが発売されるのが楽しみです!!

『靄の旋律 国家刑事警察 特別捜査班』
著者: アルネ・ダール
出版社:集英社
価格¥980(税別)

海外警察小説の逸品!!『特捜部Q キジ殺し』

デンマークのコペンハーゲン警察を舞台に描かれた警察小説です。「特捜部Q」シリーズ第2弾。
未解決の重大事件を専門に扱う、コペンハーゲン警察の新部署‘特捜部Q’。
最初の事件は、行方不明になっていた美貌の女性政治家を救出し、見事に事件解決に導いた。
その功績は大きく、マスコミにも取り上げられ注目される。
しかし特捜部Qのリーダーである、カール・マーク警部補の活躍を快く思わない上層部は、その活躍を苦々しく思っていた・・・・。

そして第2の事件に挑むことなる。第2弾は『特捜部Q キジ殺し』(早川書房)。
カール・マーク警部補とアシスタントのアサドは、二十年前に惨殺された十代の兄妹の事件を再度調査し始める。
犯人はすでに逮捕・収監されているが、単独犯ではありえない痕跡がちらちらと残っていた。
そんな中、その事件の資料が盗まれ、なんとカールのデスクに置かれていたのだ。
マークにこの事件と真剣に向き合わせるために、一人の刑事がしたことだった。
その刑事は、事件の背後に政財界の大物が絡んでいることを示唆。そしてカールは本格的にアサドと二人で事件を追うことに・・・。しかし動き出したとたん上層部から圧力がかかる。

ダメだと言われると余計にやりたくなる、あまのじゃくな性格のカール。捜査の手をゆるめることなくじわじわと真相に近づいて行く・・・。

第2弾は女性が多く登場します。
カールが恋に落ちる、心理カウンセラーに加え、特捜部Qに新たに配属された、ローセ。美人じゃないけど、キュートな性格で、だんだんと愛着が沸いてきます。
さらに事件の真相を知る、要注意人物の女性。彼女の過去と現在の境遇がこの作品に奥行きを与えています。

そして残酷な事件・・・。‘キジ殺し’の意味がわかるととても怖いです。
この作品は人間の傲慢さ、残酷さが非常にリアルに描かれています。それを許さないカールとアサドも衝撃的な展開で真実を知ることになります。二人の命を懸けた行動が圧巻です。

そしてシリーズ第3弾『特捜部Q Pのメッセージ』は好評発売中、第4弾も5月に発売されたばかり。
海外警察小説では、人気がうなぎのぼりのシリーズです。

『特捜部Q キジ殺し』
著者: ユッシ・エーズラ・オールスン
出版社:早川書房
価格:¥1,900(税別)
価格:¥1,040(税別)文庫版

ラストの感動が半端ない!!長岡弘樹『線の波紋』

著者は、2008年『傍聞き』で日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞。
『傍聞き』は短編ながら、その緻密さと完成度の高さで絶賛されました。
本書『線の波紋』は、短編でありながら、それぞれの登場人物がひとつの事件で繋がっているという連作短編の形になっています。

『談合』は、娘の真由を誘拐され、さらにその直後夫が倒れ、鬱に苦しんでいた白石千賀は、事件から1ヶ月経ち役場の仕事に復帰、キャリアアップを目指す。そんな時入札業者からの不審な電話に衝撃を受ける・・・。
『追悼』は、誘拐事件から2ヶ月後、同じ町内に住む若い会社員・鈴木航介が死体で発見された。不思議なことにその死顔には笑みが浮かんでいた。同僚の久保和弘は、その1週間前、経理部員である、航介から不正を指摘されていたのだ・・・。
『波紋』は、少女誘拐事件で地道な捜査を続けていた、刑事・渡亜矢子がついに容疑者に辿りつくが・・・。
『再現』は、それぞれ点のように散らばっていた物語が一つの線となり、事件の全貌が明らかになる・・・。
どの短編も少女誘拐事件に関連して、読んでいるとつらい。しかしラストに必ず救いが用意されている。
その救いとは小説では決して言葉にしていない、エピローグで著者が読者に見せるイメージ・・・。それこそがこの作品の最大の衝撃だ。
そのシーンをイメージした瞬間、思わずハッ!とし、そしてうねるような感動の波がじわじわと押し寄せてくる・・・。

それこそ心に波紋のように広がっていくこの感動を味わって欲しい!!。

『線の波紋』
著者:長岡弘樹
出版社:小学館
価格:¥619(税別)