シリーズ中最もスリリング!「潮騒のアニマ 法医昆虫学捜査官」

大人気警察小説シリーズ「法医昆虫学捜査官」。
最新作は「潮騒のアニマ」です。

今回は、謎のミイラ事件を岩楯刑事&赤堀博士コンビが
解明します。

東京都の小さな離島で、若い女性のミイラ化した遺体が発見された。
解剖医は、首つり自殺で死後3か月以上経過しているとの
所見だったが、法医昆虫学者・赤堀は、遺体に「昆虫相」がないことが
気になった。
気になったら最後、とことんまで解明しないと気が済まない赤堀は、
独自で調査を開始した。
かたや、岩楯刑事は、離島の所轄刑事・兵藤とコンビを組み、
周辺の聞き込みをしていた。
すると、妙なばあさんから妙な話を聞き出した。
離島はミイラ遺体発見でマスコミが殺到!
そんな中、赤堀は学校跡の校庭にテントを張って泊まり込んでいた。
能天気な赤堀は、獣医と仲良くなり、その獣医が飼っていた犬と
じゃれ合っているとき、犬の体についていた茶色の蟻を発見する。
詳しく調べてみると、その蟻はアカカミアリという南米で生息
している外来アリだった。
なぜ、こんなものが日本にいるのか・・・?
岩楯に話をしようと連絡した赤堀は犬の行動に注目!そして犬の行動を
追っていくと、島の先の洞窟のような場所に辿り着いた。
岩楯らと合流した赤堀は3人で洞穴の奥に入った。
そこで3人が見たものはなんと、ミイラ化した遺体が5体!
その5体のミイラからアカカミアリがわいてきた。大量の
アカカミアリにかまれると死に至ることもある!
遺体を運び出すまえに、アカカミアリを退治することになった。

アカカミアリ出現で、ミイラ化した遺体に昆虫相が見られなかった原因を掴んだ
赤堀と岩楯は、改めて遺体の死亡時期を調べ直した。
すると今まで見えなかったことが見えてきたのだ・・・。

ミイラ化した女性の暗い影、自殺志願者、善人の顔をした悪魔。
様々な人間の暗部が絡み合い、そこに不気味な虫たちの
生態が重なって、複雑な事件を起こした。
そしてそれに真っ向から挑んだ赤堀。
赤堀の天然さが今までにない危険な事態を招くが・・・。

今回の事件、赤堀の行動にさすがの岩楯も肝を冷やした・・・。
どうなる!?「法医昆虫学捜査官」。
益々、さらに益々面白さが増す!
次回作に期待!!

『潮騒のアニマ 法医昆虫学捜査官』
著者:川瀬七緒
出版社:講談社
価格:¥1,500(税別)

本当に鳥肌物!!「夜行」

本屋大賞にノミネートされた、「夜行」を読みました。

森見さんの作品は「ペンギン・ハイウエイ」「聖なる怠け者の冒険」
などファンタジックな作品は読んだけれど、今回の「夜行」は
ホラー?
読めば読むほど鳥肌が立つ・・・。

尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡、鞍馬。
旅先で出会う謎の連作絵画「夜行」。
その絵は不思議な絵だ。

尾道で妻と連絡がつかなくなった夫が、ある廃屋で
妻とそっくりな女性と出会う。
その女性は妻なのか?それとも違う人物なのか?
ホテルの男性スタッフはそこには誰もいないというが・・・。

奥飛騨に旅行にいった男女4人。
その途中で年配の女性を同乗させた。
その女性は「未来が見える」と言った。
そして、車の中の二人に「死相」が見える
と言ったのだ。
その言葉を誰も信じなかったが、宿についたとき
その二人とはぐれてしまった・・・。

津軽へ向かうため、寝台列車「あけぼの」に乗っていた
夫婦とその友人。
その友人が列車で通る時に火事を見たと言った。
さらにそこで手を振る女性を見たと・・・。
そんなはずはない。燃える家を確かめるため、列車を降りた
3人。その途中で友人が見えなくなる。
妻はその家が気なって仕方ないが、夫は不気味な雰囲気に
恐怖を感じ、家から離れるように促すが・・・。

天竜峡に行く飯田線に乗車した時のこと。
女子高生と坊さんと同乗した男性。
女子高生の不思議な魅力に取り込まれそうになる。
かたや坊さんは、その女子高生を恐れているように
見える。
この女子高生は一体何者だろう・・・?
そう考えた時にふとじわっと恐怖が背中を
這いあがってきた・・・。

この4つの物語には連作絵画「夜行」が登場する。
その不気味な絵と物語の不気味な繋がり・・・。
読んでいると次第にぶわ~っと鳥肌が立ってくる。
この本の不気味さになかなか気がつかない。
最終の「鞍馬」を読んだときにホッと一息
つくが、それまでの何とも言えない怖さは筆舌に尽しがたい。

初めて読んだ森見さんの本格ホラー。
何とも不可思議な体験をしているようだった・・・。

『夜行』
著者:森見登美彦
出版社:小学館
価格:¥1,400(税別)

40年前の誘拐事件の真相に迫る!「真犯人」

書評を読んで、とても気になっていたミステリ作品
翔田寛さんの「真犯人」を読みました。

昭和49年に起こった、男児誘拐殺害事件。
謎だらけの誘拐事件は、当時の捜査を混乱させ、
未解決のまま、14年が経過した。
そして、静岡県警に新たに着任した県警本部長の肝いりで
この誘拐事件を時効までに決着させるため、
継続捜査班のほかに特別捜査本部が置かれた・・・。

平成27年、8月。
高速道路のバス停のあたりで年配の男性の変死体が発見された。
裾野署に捜査本部がおかれ、遺体発見現場の地取りが開始された。
日下刑事&柳刑事は被害者周辺の聞き込みを行った。
その過程で、被害者・須藤勲が昭和49年に起きた、男児誘拐殺人事件の
被害者の父親だということが判明した。
捜査本部は、40年以上も前の誘拐事件と関係があるのか
疑問をもったが、殺害現場はその誘拐事件の身代金受け渡しの
最初の場所だったことが判明したのだ。

日下と柳は、時効直前にその誘拐殺人事件の特別捜査本部を
指揮した、当時の警視・重藤の話を聞くことになったのだ・・・。

二人を前に、重藤は重い口を開く・・・。
昭和63年、誘拐殺人事件から14年後の捜査の過程を詳細に語り始めた・・・・。

当時の誘拐事件発生時の状況は、混乱を極めていた。
まず、電話の逆探知に失敗し、犯人の声が残せなかったこと。
身代金受け渡し現場に犯人が現れなかったこと。
身代金要求が電話から手紙に変ったことの解明が為されなかったこと。
捜査本部の数々のミスが、結局時効直前まで解明されなかったのだ。
重藤は、継続捜査班を最小限にとどめ、新たな角度から事件を
見直すために、優秀な刑事を揃え捜査にあたらせた。
やがて、当時の捜査では発見できなかった事実が浮かび上がってきたのだ・・・。

特別捜査本部で次々に明かされる事実。
それは、不気味な人間の心の闇とどうしようもないくらいに
苦しい真実を暴き出した。だが・・・。

誘拐殺害事件から40年の時を超え、新たに発生した殺人事件は、
当時の事件の「真犯人」を明らかにした。
長い年月を経て、誘拐事件の謎も解明されてゆく。
その捜査過程がこれまでの警察小説にはみられない面白さだった。

警察小説ファンにおススメの1冊。

『真犯人』
著者:翔田寛
出版社:小学館
価格:¥1,600(税別)

早くも大人気!「新東京水上警察」シリーズ第2弾「烈渦」

吉川英梨さんの新しい警察小説「新東京水上警察」シリーズは
早くも警察小説ファンに大人気です!

東京湾を舞台に、犯人を追いつめ疾走する警備艇・なでしこ。
その臨場感には圧倒されます。

シリーズ第2弾となる「烈渦」
東京湾に係留されている、元南極観測船「宗谷」の施錠された船内で、
男性の腐乱死体が発見された。
東京水上警察・五臨署の碇たちは警備艇で現場に急行するが、
湾岸署と捜査権争いになってしまった。
捜査権は、湾岸署に持って行かれた碇たちは、独自に捜査する。
やがて、腐乱死体の身元がわかると、容疑者も浮かび上がってきた。

「宗谷」に愛情を注ぎ過ぎて家族との摩擦が多かった男は、
ある事件に巻き込まれ、船室に閉じ込められてしまった。
必死に家族に助けを求めたが、妻は夫の連絡を無視した。
その結果、夫は熱中症で死んでしまったのだ。
妻は「未必の故意」という夫殺しの容疑で逮捕される。

しかし、なぜ男が船室に閉じ込められたのか・・・?
一体そこで何が行われていたのか?
碇たちは、さらに捜査を続ける。
そんな時、捜査中に怪しいと目をつけていた男が拉致されたと
男の恋人から連絡が入った!

この頃、都心に最大級の台風が迫っていた。
碇たちは事件の重要な端緒をつかんでいたが、
警備艇は、東京湾の安全を守らなくてはならない。
台風警備と拉致事件どちらが重要なのか?
台風がきても捜査は続けなければ!という碇の熱血さに
負け、警備艇は台風組と事件を追うため、二手にわかれることになった。

シリーズ第1弾で、碇の部下、日下部刑事と恋人同士だった
海技職員の有馬礼子。しかし碇に心を奪われ想いをぶつけた。
2弾では、碇と礼子のその後も描かれて、物語を通して二人の
関係の微妙な変化を楽しむことができる。
さらに日下部刑事は、礼子に振られたあと、情報屋として
使っていた湾岸署の事務員と結婚すると言い出した。
その裏には何かあると、碇は思っていた。
上昇志向の強い日下部だが、碇にとってはかわいい部下。
心配していた。

そして、とうとう台風が上陸した。
それぞれの職務を全うしようと碇たちは必死に事件と台風と闘うことになる!

凶悪事件、台風による水害と救出、さらには都政に絡む陰謀までも描く。
圧倒的迫力で迫る、海上での闘いに息を呑む!!
1弾を上回る面白さだ!

「烈渦 新東京水上警察」
著者:吉川英梨
出版社:講談社(文庫)
価格:¥720(税別)

本の学校で「意外な組合せが面白いミステリー」ミニフェア開催パート2

前回に引き続き、本の学校で開催中の
「意外な組合せが面白いミステリー」ミニフェアの紹介です。

今野敏さんの作品には「意外な組合せ」がたくさんある。
「心霊特捜」(双葉社文庫)は、神奈川県警に心霊現象
を専門に捜査する部署があり、個性的な刑事たちが
その現象の原因を突き止め事件を解決するという、
今までの警察小説にはない大胆な設定が面白い!
また、「警視庁捜査一課・碓氷弘一」シリーズは、
ベテラン刑事・碓氷弘一が、事件が起こる度に、刑事ではないが
事件捜査に必要不可欠なスペシャリストとコンビを組まされるという設定。
最近文庫化された「ペトロ」は、象形文字が事件の鍵。
碓氷の相棒はなんと、古代史が専門で日本語ペラペラの外国人大学助教授。
二人の活躍に注目!
さらに「わが名はオズヌ」(徳間文庫)は、軟弱な男子高校生・賀茂晶に
1000年前の修験道の祖・役小角(エンノオズヌ)が転生し、現代の悪を斬る!
という設定。頼りない賀茂晶にオズヌが転生し、悪人を静かに倒すシーンは
めちゃめちゃかっこいいんです。
その系列で言うと、「陰陽」「憑物」(KADOKAWA文庫)は現代の人間の心の闇に
つけ込んだ亡者たちを、祓い師・鬼龍光一が倒す。
こちらもおススメ。

などなど面白くていっきに読める作品を集めています!
ぜひのぞいてみてください。

本の学校で「意外な組合せが面白いミステリー」ミニフェア開催パート1

組合せ次第でものすごく面白くなっているミステリー作品を集めました。

誰も考えつかなかったコンビで事件を追うヴァージョンでは、
最も面白いと思った作品が、
五十嵐貴久「相棒」(PHP研究所 文庫)
新撰組の土方歳三とあの坂本龍馬がコンビで
徳川慶喜暗殺未遂事件を追う。
土方にとって坂本は宿敵!ところがそんな宿敵に
出会っても、坂本は土佐弁でまったり。土方は
血管切れそうになるくらいイラつくけれど、
まったりだが頭が切れる坂本を次第に信頼するようになる。
幕末オールスターを配し、意外過ぎるコンビが活躍。
一番のおススメ!

日本警察史上初捜査に導入された昆虫博士にによる捜査。
川瀬七緒「法医昆虫学捜査官」シリーズ(講談社文庫)は
死体から発生した昆虫の生態を調べ、そこからさらに正確な
殺害日時や殺害場所などを特定し、法医学者と連携して
殺人捜査を行う。その法医昆虫博士は、なんと虫オタクの
女性。猪突猛進で徹底的にKY(空気読まない)の性格が
災いし、警視庁上層部からは変人扱い。そんな彼女と
コンビを組むのはベテラン強面刑事。
その性格に辟易しながらも、女性昆虫博士をサポートする。
絶妙のコンビだ。

物語の設定が面白いミステリーでは、
時代小説のミステリーが面白い!今一番のおススメは、
山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』シリーズ。
平成の元OL女性が、江戸時代と平成を自由にタイムトラベルし
江戸で起こった様々な事件を、平成の科学捜査で解決する。
江戸の情緒がたまらない。タイムスリップものということで、
SF時代ミステリーというところ。
主人公の謎の解明のくだりにいつも舌を巻く!!

まだまだあります~。
次回に続きます!!

小説だから描けた「グリ森事件」のカラクリ。「罪の声」に戦慄!

週刊文春ミステリーベスト10、国内1位、
さらに本屋大賞にノミネートされた
塩田武士さんの「罪の声」(講談社)は、
1984年3月に起こった「グリコ・森永事件」を
題材にした、ミステリー小説。

発売当時から話題になった作品。
今回、あらためて読んでみて、よくぞここまで
描けたものだ!と心が震えました。

京都でテーラー営む曽根俊也は、ある日父親の
遺品から旧いカセットテープと黒革のノートを見つける。
ノートを見ると英文で全ては読めなかったが、そこには
日本の菓子メーカー「ギンガ」と「萬堂」の文字があった。
さらに、テープを再生すると自分の幼いころの声が聞こえてきた!
俊也は、記号のような言葉を話す自分の声を聞いて戦慄する!
まさか・・・あの「ギン萬事件」?
俊也は、未解決事件を扱ったテレビの動画を検索し該当の番組を発見。
その番組で流された音声は、「ギン萬事件」で恐喝に使われた
録音テープと全く同じ音声だった・・・。

大日新聞では年末企画で「昭和・平成の未解決事件」を取上げることになり、
大阪支社では「ギン萬事件」を扱うことになった。
ギン萬事件が起こる前、パリでハイネケンビール社の社長が身代金目的で
誘拐され、犯人は金を奪うと社長を解放し逃走。しかし犯人らは逮捕された。
その事件を東洋人らしい男が調べていたとの情報があったらしい。
記者の阿久津は、そのわずかな手がかりをもとに、鬼上司の命令で
イギリスに取材に行くことになる。
楽な仕事ばかりに逃げていた阿久津だったが、東洋人の恋人
だったらしい女性がいるとの情報を得て彼女を訪ねた・・・。

否応なくギン萬事件に巻き込まれ、被害者であり、加害者でもあると
認識した曽根と、仕事で仕方なく取材を進めることになった阿久津。
二人が「ギン萬事件」を調べる動機は全く別物であったが、
次第にのめり込み、特に俊也は自分のように声を使われた子ども
がいたことを知った。

やがて、俊也と阿久津はお互いが調べ出した「ギン萬事件」の
カラクリを知る・・・。
「ギン萬事件」は、一般庶民、特に子どもたちの楽しみを奪った
だけでなく、事件に関わることによって、幸せに暮らしていた一家を
地獄に突き落した事件でもあったのだ。

30年以上経過した今でも未解決の事件、「グリコ森永事件」。
子どもたちとその親たちを恐怖のどん底に落とした事件だ。
あれほどの大事件であったにも関わらず、いまだに真相を
突きとめることができない。

しかし、著者は小説に描くことによって、そのカラクリを暴いた。
緻密な取材は見事で、フィクションなのかノンフィクションなのか
読んでいると時々わからなくなる。
しかし、真相はこの通りだったかも知れないと思わせるリアルさがある。
そして事件の真相だけではない。その事件に巻き込まれた
家族の悲劇も描き、涙なくしては読めない。

30年間眠っていた大事件「グリコ森永事件」がこの小説によって
再び世間の注目を集め始めた・・・。
現実にもどんでん返しがあるかも知れない・・・。

『罪の声』
著者:塩田武士
出版社:講談社
価格:¥1,650(税別)