アガサ・クリスティ賞受賞作「月の落とし子」

2019年のアガサ・クリスティ賞受賞作品
「月の落とし子」を読みました。
壮大なスケールで描かれた、災害ミステリです!

新たな時代の有人探査船「オリオン計画」で
月面のシャクルトン・クレーターに降り立った
日本人宇宙飛行士・アキラを含めた4人の宇宙飛行士。
だが、二人が月面で急死した。
残されたエヴァとアキラは、遺体回収を訴え、
無事に仲間を地球に還すことなった。
ところが、突如エヴァが吐血し苦しみだした。
彼らが倒れた原因は、未知のウイルスだった!

最後に残った、宇宙飛行士アキラは、未知の
ウイルスを地球に持ちかえることは出来ないと
ある覚悟をする!

しかし、コントロールを失った月面探査船は、
あろうことか、日本の都心部である市街地の
マンションに激突!

未曾有の災害をもたらした。

日本人クルーの妹・茉由は兄の死を受け入れ、
JAXA職員として、現場に向かう。
この未曾有の災害現場で一体自分に何が出来るのか?
茉由は悩む。そんな時一緒に現場に出かけた、
理研でウイルスを研究する深田とともに、
ウイルス感染を食い止めるために奔走する!

生き残ったクルーが地球にウイルスを持ち返らない
そのためにどうするか?生死をかけたその覚悟に心が震えた!

マンションに宇宙探査船が激突するという
今までにない展開。
さらに宇宙からの未知のウイルスという
2重の災害に翻弄されながらも、決して生きることを
あきらめない、希望を失わない人々の勇気と
行動力に感動。
圧倒的スケール感に息をのむ!

『月の落とし子』
著者:穂波了
出版社:早川書房
価格:¥1,800(税別)

無差別銃撃事件を生き延びた人たちの悲劇と再生を描く「スワン」

呉勝浩さんの話題のミステリー「スワン」
を読みました。

ある日、突然起こった無差別銃撃事件。
生き残った人たちの苦しみ、哀しみ、葛藤…。
それらを乗り越えいかに生きてゆくのか?
想像を絶する悲劇の裏の真実とは何なのか?

奥深いテーマに、心を揺さぶられました。

巨大ショッピングモール「スワン」は、
地元の人たちの憩いの場所だ。
その日も午前中から、たくさんの人々が
集まり始めていた。

ところが、平和な日常は突如一変する。
銃を持った男が発砲しながら店内へ入ってきたのだ。
ボーゼンとする人々、銃撃され斃れる人、
逃げまどう人々、店内はパニック状態に陥った….。

無差別銃撃事件。死者21名を出した
これまでにない悲劇。

その中で、高校生の片岡いずみは犯人と
接しながら生き延びた。
だが、おなじく事件に遭遇した同級生の
小梢の証言、「次に誰を殺すか?いずみの
指名によって犯行が行われた」という
事実が週刊誌で暴露され、いずみは被害者
から一転、非難の的になってしまった。

苦しみから逃れられない日々を過ごすいずみの
元へ不可解な招待状が届く。
「お茶会」と題された会場に集められたのは、
生き残った事件の関係者5人。
その目的は、事件の中のもうひとつの「死」の
真相を明らかにすることだった。

生き残ったこの5人が集められたのは何故なのか?
もしかして、復讐が目的なのか?
彼らは何を隠しているのか?

殺戮のシーンは、感情のかけらも感じさせない
描写が続く。それも恐ろしいほどに。
そして、謎の解明に至る過程は、人間の
ありとあらゆる感情がせめぎあう。
そのコントラストがとても印象的だ。

緻密に計算された謎の提示。
じわじわと明らかになる悲劇の裏の真実!

最後の最後まで読み手を惹きつけてやまない
ストーリー展開に心を奪われた。

『スワン』
著者:呉勝浩
出版社:KADOKAWA
価格:¥1,700(税別)

怪異の謎を解く本格ミステリ「モノクローム・レクイエム」

仕事中、ふと徳間文庫の平台を見たら
小島正樹さんの「モノクローム・レクイエム」を発見!
まだ読んでない~と思わず購入。
小島ワールドへ入っていっちゃいました。

江戸川区に住む女子大生が深夜、不可解な現象を
目撃する。
誰もいないはずの隣家の窓に戦時中の
防空頭巾姿の人間が火中で苦しむ姿を見たというものだ。

警視庁特別捜査対策室五係は、奇妙な事件を専門に
扱う部署だ。
交通課から異動になった萬千尋ほか、怜悧な
イメージで近寄りがたい菱崎真司、人のよさそうな
稲葉実係長の3人が担当だ。

菱崎は女子学生の話を聞き、現場を確かめた。
やがて、菱崎は事件の真相にたどり着く!

奇妙な体験の裏に潜む「見えざる犯罪」を
引き出してゆく。これが五係の目的だ。

菱崎は、「櫂探社」という探偵事務所で探偵を
していたという異色の経歴の持ち主。
だが、菱崎には哀し過ぎる過去があった。

ネット上で奇妙な体験談を買い取る
「怪譚社」という掲示板がある。
菱崎はこのネット掲示板と関係があるのか
千尋は疑問を抱くが・・・・。

奇妙な体験談から見えざる犯罪を暴く五係と、
怪譚社で買い取られた体験談から事件が暴かれる、
そのストーリーが交互に描かれているが、
結末は、全く異なっている。

怪異としか言いようのない出来事をロジカルな
推理で暴き出す。
複雑なトリックが次々に明かされる。
その過程が小気味よい!
そして明かされた真相に度肝を抜かれる。

最大の見せ場は、菱崎を不幸のどん底に
突き落とし、闇に葬られたある事件の真相だ。

短編を紡ぎながら、最恐の「見えざる犯罪」を
白日のもとに曝す。

文句なしに面白い!
傑作の本格ミステリ5編!

『モノクローム・レクイエム』
著者:小島正樹
出版社:徳間書店(文庫)
価格:¥720(税別)

渋すぎる!そこが魅力の警察小説「警視庁監察ファイル」シリーズ第1弾!

伊兼源太郎さんの「警視庁監察ファイル」シリーズ
第1弾「密告はうたう 警視庁監察ファイル」を
読みました。

シリーズ第2弾「ブラックリスト」を先に読んだけれど、
警察官にとっての警察という「監察」に焦点を
充てた、緊迫感あふれるストーリー展開と
渋みと凄みを感じさせる人物描写に魅せられてしまい
前作を読まねば~と思い読んだのでした。

警察職員の不正を取り締まる部署、警視庁人事
一課監察係に所属する佐良は、元同僚で、
現在は運転免許試験場に勤務する皆口菜子の
監察を命じられた。

皆口が免許証のデータを売っているらしいとの
密告があったのだ。

佐良は、捜査一課時代、皆口の婚約者・斎藤と
バディを組んでいた。
ところが、ある事件で斎藤は銃撃され亡くなってしまった。
佐良と皆口はその現場にいたのだ。

皆口は、本当にそんなことをしているのか?
佐良は疑問に思ったが、内部密告のため行確する
しかない。

佐良は、上司とともに皆口の尾行を開始すると
不可解な人物と会っていることがわかる。

やがて、佐良は自らも関わった未解決事件との
接点に気づく….。

皆口のデータ横流し事件の真偽を確かめるという
大筋の物語から、佐良と皆口が関わった
同僚殺人事件、さらに5年前の未解決事件へと繋がってゆく。

警察官、情報屋、誰が敵で誰が味方なのか?
スリリングな展開にどんどん魅せられる!

果たして、これらの事件はどう決着がつくのか?

新たな視点で描く、警察ミステリー

『密告はうたう 警視庁監察ファイル』
著者:伊兼源太郎
出版社:実業之日本社(文庫)
価格:¥685(税別)

ハラハラ・ドキドキが止まらない!「誘拐遊戯」

知念実希人さんの「誘拐遊戯」(実業之日本社)
時間を忘れて読みふけりました。

女子高生が誘拐され、特殊班の上原は身代金を
持ったまま都内を走らされた。

時間内に犯人からかかる公衆電話に出なかったら、
人質は死ぬ。
上原は人質救出のため、必死に走ったが
最後の一歩が間に合わなかった。
上原ほか警察を手玉にとり、捜査本部を翻弄する
恐ろしい誘拐犯・ゲームマスター。
翌日、女子高生の遺体が発見された….。

上原はその時のトラウマ、また人質を救出出来な
かったことを悔やみ、警察を辞めた。

そして4年後、再びゲームマスターの名をかたる
誘拐犯が現れた。だが、捜査本部は模倣犯を疑う。
なぜならば、ゲームマスターを語った犯人は、
自殺し、被疑者死亡でけりはついていたからだ。

ところが、新たなゲームマスターは以前の特殊班の
メンバー、さらに上原が身代金受け渡しの刑事
だったことも知っていた。
そして、上原と誘拐ゲームをすると言いだした。

今は刑事ではなく民間人となった上原だったが
特殊班メンバーに人質救出のため、捜査に
加わってほしいと懇願される。

そして、誘拐犯と連絡をとることになった上原は
この犯人こそ、本物のゲームマスターだと確信。
上原は過去の自分との決着をつけるため、
再び犯人と対峙する。

次々と無理難題をふっかける犯人。
身代金欲しさの犯行ではなく、上原本人を
ターゲットにし、またしても警察を翻弄する。

ただの身代金誘拐事件ではなく、なぜか
上原に固執する誘拐犯の不気味さが際立っている。
また、病と闘いながら犯人と対峙する上原の
葛藤が臨場感を持って描かれ心に響く。

起伏に富んだストーリー展開に魅了される!
そして、大逆転のありえないどんでん返しまで
すべてが読み手を惹きつける!

圧倒的な面白さを持つ、犯罪サスペンス!

『誘拐遊戯』
著者:知念実希人
出版社:実業之日本社
価格:¥720(税別)

警察のタブーに斬りこんだ!『背中の蜘蛛』

誉田哲也さんに新作、「背中の蜘蛛」は、
読んでいる途中でトリハダがたってきました。

池袋署刑事課の本宮は、管内で起きた男性の
殺人事件を担当するが、有力な情報がなく
捜査は進まなかった。

そんなある日、小菅捜査一課長から、
秘かに、殺された妻の過去を調査する
よう命じられる。

捜査本部の命令系統から外れた小菅の指示に、
納得がいかない本宮だったが、
上司の命令に「NO」はない。
捜査本部とは別行動で、部下の二人を使い、
妻の過去を調べた….。

そして、事件はあっけなく解決する。

捜査一課長のアドバイスなのか?推理なのか?
ならばなぜ捜査本部を通さないのか?

本宮の心は疑問とともに後ろめたさが
膨らんでゆく。

違法薬物の売人を尾行中、その売人の爆殺に
巻き込まれ、負傷した警視庁組織犯罪対策部の
植木刑事。自分自身が負傷したことで、捜査の
行方も気になる。捜査は難航しているようだった。
ところが、高井戸署の佐古が掴んだ情報によって
事件は解決する。

植木は佐古に情報の出所を訪ねるが要領を得ない。
いったい、何が行われているのか?
植木はその真相を突き止めようとする!

事件解決に難航する捜査本部に突如
有力な手掛かりが….。
事件は解決したけれど?
何だかすっきりしない。

何かあると思うけれど一体何だろう?

読み込んでいくととんでもない展開が!
警察って本当にここまでやっているのか?

ドラマや映画の世界だと思っていたことが
実は本当に行われている!?

あまりにもリアル、驚きを通り越した警察小説!

『背中の蜘蛛』
著者:誉田哲也
出版社:双葉社
価格:¥1,600(税別)

刑事の執念を描く!「雨に消えた向日葵」

吉川英梨さんの描く警察小説。
シリーズものはほぼ全部読んでいますが、
単発ものは初めて手に取りました。

シリーズものとは一味違う警察小説です。

埼玉県坂戸市で、小学5年生の少女が失踪した。
少女の趣味はちょっと大人な漫画を描くこと。
その日も親友に頼まれて、漫画を描いていた。
ところが大雨で、学校から下校を促され、
豪雨の中、少女は一人歩いて帰った。

その姿が最後に目撃されており、現場には
傘が一本残されていた。

少女は周囲も思わず振り返るくらいの美少女。
姉の証言で、一か月前から現場と同じ場所で
不審な男につきまとわれていたことが判明。

誘拐か、家出か、事故か?県警捜査一課の奈良は、
少女の行方を追う。
捜査が進む中、中学生グループが少女に目をつけていたこと、
さらに電車内から少女の私物が発見されるなど、
有力な情報があがり、捜査は進展するかと思われたが…。

二転三転する証言、虚偽情報など、様々な情報
が錯綜し、有力な手掛かりが得られない中、
時間だけが過ぎてゆく。やがて、捜査本部は縮小された。
そんな中、奈良は一人捜査を続けた。

そして、焦燥にかられる被害者家族たちを
襲うさらなる悲劇!
詐欺被害、誹謗中傷、いじめ…。

被害者なのに、なぜこれほどまでの
仕打ちを受けるのか?

歪んだ社会、歪んだ正義、さらに弱者を
貶めようとする悪意。
心に闇を抱えた人間たちの本性が淡々と描かれる。

誰もがあきらめかけた、少女の行方を
追う刑事の執念の捜査とその生き様を
描いた、心が揺さぶられる物語。

『雨に消えた向日葵』
著者:吉川英梨
出版社:幻冬舎
価格:¥1,600(税別)

仰天展開!仏ミステリーの傑作!「ブルックリンの少女」

海外ミステリコーナーを物色中に妙に気なる
作品がこの「ブルックリンの少女」だった。
棚の前を通るたびに目に入るので購入。

しばらく積読していましたが、先日読了。
いやいや、どうしてもっと早く読まなかったのか
と後悔したくらいに面白かった~。

運命的な出逢いをした、人気小説家のラファエルと
医師のアンナ。結婚を間近に控え、二人は
南フランスで休暇を楽しんでいた。
幸せな中でもラファエルは気になることがあった。
なぜかアンナは過去をひた隠しにしていた。

結婚するならば、パートナーの過去を知りたいと
強く願うラファエルは、アンナに詰め寄る。
アンナは抵抗したが、ラファエルの強硬な
態度に観念し、一枚の写真を差し出す。
そこには、目をそむけたくなるほど衝撃的な
光景が写されていた。

その写真を見てショックを受けた
ラファエルは、アンナの元から去ってしまう。

しかし、激情にかられアンナを突き放したことを
後悔したラファエルは、アンナに謝ろうと戻るが、
アンナは出て行った後だった。
そして、アンナはそのまま失踪してしまう。

アンナにもう一度会って話をしなければ!
失ってはならない大切な人だということを
改めて思い知らされたラファエル。
友人の元警部・マルクとともにアンナの行方を
調査すると、不審な事件や事故が浮かび上がってきた。

アンナが隠し続けた過去、その過去を
調査してゆく過程で、アンナの正体
は明らかになってゆく。しかし
明らかになったことで、さらに新たな謎が生まれる。

アンナの正体は?
事件や事故の裏にあるカラクリとは一体?

ミステリーの王道をである謎が謎を呼ぶ展開。
最後の最後まで気を抜けない!
そして、超!どんでん返しに言葉もない。

海外ミステリーの醍醐味をたっぷり
味わえる傑作中の傑作!

『ブルックリンの少女』
著者:ギョーム・ミュッソ著/吉田恒雄訳
出版社:集英社(文庫)
価格:¥1,000(税別)