クリスティデビュー作で、ポアロ初登場作品「スタイルズ荘の怪事件」

高校生時代、アガサ・クリスティが
好きで読んでいた。
でも、超有名な作品しか読んで
いなかった。(映画化作品寄り)

それでアガサ・クリスティを久々に読んだ。
創元推理文庫で新訳が発売されたから。
クリスティのデビュー作でポアロ初登場の
「スタイルズ荘の怪事件」。
なんと、この作品は未読だった!

イギリスの片田舎にある「スタイルズ荘」の
女主人が毒殺された。
療養休暇中のヘイスティングスは、旧友に
誘われ、「スタイルズ荘」に滞在していた。
毒殺された女主人というのは、旧友の継母だった。

夫の遺産で血のつながらない二人の息子を
慈しみ育てた。多少性格に難はあったが、
周囲の人に気を配れる、優しい人だった。

ところが、最近になって20歳も年下の
男性に恋をし、周囲の反対を押し切って
結婚してしまった。
誰の目にも明らかに財産目当てに映っていたので、
夫が女主人を毒殺したのだと誰もが思った。

ヘイスティングスは、偶然にもベルギーで
優秀な警察官だった、エルキュール・ポアロと再会する。
そして、この毒殺事件の捜査を旧友に依頼させた。

殺人に使用された毒はストリキニーネ。
誰がいつどのようにして飲ませたのか?

事件現場に残っていた様々な遺留品。
粉々に砕けたコーヒーカップ、
燃やされた遺言状、
そして、事件前の誰かとの諍い。
周囲の人間の証言から、ポアロは
事件の真相に繋がるピースをはめ込んでいく。

ヘイスティングスはポアロが一人で何やら
調べているのが気に入らない。
自分の推理をポアロに話しても全く
取り合ってくれない。
ポアロに、どうしてわからないのですか?
ヒントはそこにありますよ。
と言われても全くわからない。
そんなヘイスティングスの不満は読んでいる私たちも感じる。
一体どこまで調べがついているんだよ~
と突っ込みをいれたくなる。
ヘイスティングスの迷ワトソンぶりが面白い。
しかし、ポワロはヘイスティングスの
何気ない言葉から、事件の真相にたどり着くのだ。

ポアロの灰色の脳細胞が冴えわたる!
最高のデビュー作。
もう一回読むと別の意味が浮かび上がるらしい。
再読必至!

訳者は、あのアンソニー・ホロヴィッツ
作品の訳を担当した、山田蘭さん。
海外小説にある、独特の言い回しを
とても美しい日本語でわかりやすく翻訳。
それでいて、海外ミステリーの雰囲気を
壊していない。

読みやすさと面白さでいっき読み。

『スタイルズ荘の怪事件』
著者:アガサ・クリスティ著/山田蘭訳
出版社:東京創元社(文庫)
価格:¥968(本体¥880+税)

余韻が残る、美しく切ない犯罪小説「未必のマクベス」

早瀬耕さんの「未必のマクベス」を読みました。
大長編でありながら、読ませる展開。
まるで壮大なスパイ小説を読んでいるよう。
クールでスタイリッシュな主人公の
恋心が切なくて痛い。

IT企業Jプロトコルに勤務する、中井優一は、
東南アジアを中心に交通系のICカードの
販売に携わっていた。

同僚の伴浩輔とともにバンコクでのビッグな
商談を成功させた優一は、帰国途中
着陸地変更のため立ち寄ったマカオで
カジノに挑戦、大金を手にする。
マカオのホテルで出会った娼婦から
「あなたは、王になって、旅に出なくてはならない」
と予言めいた言葉を告げられる。

その後、香港の子会社の代表取締役を命じられた
優一。しかし、そこには悪意ある罠が待ち受けていた。

シェークスピアの三大悲劇と言われる
「マクベス」になぞらえた企業サスペンス。
中井と伴は、いつのまにか闇の世界へと堕ちていく。

横領、偽造、殺人・・・。
しかし、それは己の命と大切な人たちを守るためだった。

マカオ・香港・バンコク・サイゴンと
東南アジアの美しい情景を舞台に
繰り広げられる危険すぎる駆け引き!
中井の周囲は誰が敵で誰が味方なのか?
判断を誤ると命が危ない!
手に汗握る展開にワクワクする。

中井の知らないところで、彼の初恋の
人は同じ会社に入社しながら、行方不明に。
現在の恋人の間で揺れる中井。
意外なラストに衝撃を受けた。

危険な企業サスペンスにあまりにも
切ない恋愛エピソードを加えた、
ほかに類をみない、純愛サスペンスだ。

小説の中で、最後まで気になって仕方なかった。
美味しそうな料理・アフリカンチキンと
お酒・キューバリブレ。
食べてみたいな~

『未必のマクベス』
著者:早瀬耕
出版社:早川書房(文庫)
価格:¥1,100(本体¥1,000+税)

名探偵・海老原、超常現象の謎に挑む!『呪い殺しの村』

「風」の名探偵・海老原浩一が
難解な謎を解いてゆくシリーズ、
「呪い殺しの村」を読みました。

不可能犯罪てんこ盛りで
やりすぎミステリと言われている
このシリーズ。
今回も驚愕の連鎖でした。

恩師の娘・雫美とともに、千里眼・予知
呪殺の「三つの奇跡」を行うという
家を訪ね、東北の寒村に赴いた
探偵・海老原浩一。
その力は、代々糸瀬家に受け継がれてきた。
儀式を執り行うその糸瀬家は、「憑き筋」
として、厭われてきた。

海老原は、両親の死の真相を探るため、
父が研究していた「まつろわぬ民」の
調査を引き継ごうと決意し、この
糸瀬家にたどり着く。

そして、海老原と雫美は、「千里眼」
の奇跡をまざまざと見せつけられる。

一方、東京では警視庁の鴻上管理官が
都内で発生した連続殺人事件の調査を
行っていた。
殺された女性の捜査では、鴻上自らが
監視していたはずが、監視対象の
その部屋で殺されたのだ!

この不可解な事件に捜査は行き詰まった。
捜査の突破口を求め、被害者の血縁
を頼り、鴻上もまた海老原たちが
立ち寄っている場所へやってきたのだ。

この村で出会うことになった、海老原と鴻上。
二人は互いに意識しあいながらも、
この村で起きた忌まわしい過去と
対峙させられることに・・・・。

憑き筋の糸瀬家、村を牛耳る染矢家。
この二つの家にまつわる激しい
怨嗟の歴史に巻き込まれてゆく。

「呪い殺しの村」は、「三つの奇跡」
という超常現象の謎を解き明かす。
さらに、不可能犯罪のトリックと
事件の真相を暴くこと。
とんでもなくハードルの高い本格ミステリー。
不可能犯罪が次々とでてきて、
ワクワクの連続、そして海老原によって
明かされるトリックの数々は唖然!!

さらにラストのどんでん返しには
言葉を失った・・・・。

次の作品も楽しみだ!!!

著者:小島正樹
出版社:双葉社(文庫)
価格:¥815(本体¥741+税)

民主主義を揺るがす危険なプロジェクトが進行する!?「レッドネック」

「震える牛」で食品偽装の闇を暴き、
「不発弾」で大企業のマネーゲームの実態を暴露、
さらに「トップリーグ」では、永田町を揺るがす
政治の裏側にスポットを当て、読者を驚愕させた
相場英雄さん。
最新作「レッドネック」は、民主主義の根幹を
揺るがす危険なプロジェクトの内幕を描く。

外資の大手広告代理店オメガエージェントに勤務する
矢吹蛍子は、バンクーバーに出張を命じられる。
彼女のミッションは、データサイエンティストの
ケビン坂田に会うこと。これは極秘のミッションだった。

オメガエージェントのクライアントが
60億円ものフィー(専門作業に対する報酬)を
支払う謎の男。
彼は来日し、高田馬場の古びた倉庫で作業を始める。

蛍子はケビンの専門秘書に命じられるが、
ケビンからは何の仕事も振られない。
会社にもケビンにの仕事の内容を問うが
極秘プロジェクトのため、一切明かされる
ことはなかった。

理工学系の優秀な大学生を集め、パソコン
やタブレットに向かう彼らは、蛍子から見ると
遊んでいるようにしか見えない。
ケビンからは無能者扱いされ、疲弊する蛍子だった。
しかし、蛍子は執拗にプロジェクトの内容を
ケビンに迫る。
根負けしたケビンはたった一つ蛍子にヒントを与える。
プロジェクト名は、「レッドネック」だと・・・。

「レッドネック」とは、産業が空洞化した
ラストベルト、低賃金に甘んじ、移民や
他の民族が自分たちの分野へ進出し、
煽りを食ったと思いこんでいる白人層のこと。

「レッドネック」プロジェクトとは一体
何なのか?

ケビン・坂田は「レッドネック」計画を
日本で実行しようとしているのか?

都知事選を目前に控えた東京を舞台に
危険なプロジェクトが進行する。
私たちの知らないところで、何者かに
誘導される・・・?
そんなことはありえないと誰もが思うだろう。
しかし、本書「レッドネック」を読むと
それが事実だったのだろうと思わせる
リアル感がある。

『レッドネック』
著者:相場英雄
出版社:角川春樹事務所
価格:¥1,870(本体¥1,700+税)

最恐の展開!「暗黒女子」

秋吉理香子さんの「暗黒女子」を読みました。
2017年に映画化され、話題をさらった作品。

「イヤミス」っぷりが半端ない!
そして、読みだしたら止まらない面白さ!

名門ミッション系女子高・聖母女子高等学院で、
学園一の人気を誇る美少女・白石いつみが
スズランの花を手に屋上から飛び降り謎の死を遂げた。

その後、学園内では「彼女が主宰していた文学
サークルの中に、彼女を殺した犯人がいる」
と噂が流れた。

いつみの親友である澄川小百合は、彼女の死を
悼み、学年末恒例の「闇鍋会」で追悼会を行う。

5人の部員たちは、いつみに選ばれ、いつみに
憧れを抱いていた女子学生たち。
その追悼会で、彼女たちが「いつみの死」ついて
描いた小説の朗読を行う。
それはいつみの死の真相を探ろうとする小百合の
提案だった。

誰もが信頼し合い、助けあう、いつみを中心とした
素敵なサークルだと思い込んでいたのに・・・。

彼女らが朗読する小説は、誰かが誰かの秘密を暴き、
そして陥れ、犯人を告発するものだった。
誰が真実を語っているのか?真犯人はいるのか?

不穏な空気が漂い、5人の少女たちは恐怖にかられる。

嘘で固めた友情。裏切り。罠。
上流階級の女子たちの心に潜むどす黒い闇に唖然!
誰が犯人でもおかしくない。

しかし、クライマックスで最恐の真実が語られる。
あまりのおぞましさにのけぞってしまった。

読み終わってから、映画「暗黒女子」の
展開が気になってきた・・・。

『暗黒女子』
著者:秋吉理香子
出版社:双葉社
価格:¥672(本体¥611+税)

日常が非日常に変わる怖さ・・・。「非日常の謎ミステリアンソロジー」

「非日常の謎」講談社タイガ文庫

読み応えたっぷりのミステリ短編集。
今注目の作家さんたちの意欲溢れる作品ばかり。

【十四時間の空の旅】 辻堂ゆめ
16歳の誕生日に、アメリカから一人日本に帰国
することなったエリカ。「嬉しいのか寂しいのか、
どっちなんだろう?」と心がざわめく。
不安な気持ちを抱えたまま、飛行機に搭乗すると
怪しい男が・・・・。
揺れ動く少女の心が胸に刺さる。

【表面張力】凪良ゆう
寺の住職の妻としてテキパキと働く母。
その二人の息子たち、そしてその妻たちの
母に対する危険な心理が交差する。
そのギリギリ加減。【表面張力】という
表現がまさにピッタリ!!

【これは運命ではない】城平京
「虚構推理」シリーズの桜川九郎が後輩の
悩みを受け止める。
ある女性との出会いは偶然か?故意か?
様々な推理を披露する桜川九郎。
後輩が何を言っても納得できる答えを出す
桜川九郎が凄い!

【どっち?】木元哉多
妻の親友と不倫した夫。妻の出産が
近づいて、不倫を清算したいと願うが、
不倫相手は納得せず、夫は窮地に陥いる。
しかし・・・・。
女性の恐さが浮き彫りにされる。一番怖かった。

【成人式とタイムカプセル】阿津川辰海
兄に対抗心むき出しの弟が、兄のまねをして
タイムカプセルを埋めた。
それから10年。埋めた場所を堀かえすと
何も入っていなかった・・・・。
いったいどういうこと?
たった一人の女友達と真相を探る。
愚かだった自分と向き合う青年。そして友達の
心遣いにホッとする。

【この世界には間違いが七つある】芦沢央
見られているあいだは決して動いてはならない
というルールのもと、監禁された人たちの心が
は壊れてゆく・・・。
衝撃的展開で読者を魅了する著者。
この作品では「間違い探し」で読者に挑戦する!
再読必至の傑作!

『非日常の謎 ミステリアンソロジー』
著者:芦沢央/阿津川辰海/木元哉多/城平京/辻堂ゆめ/凪良ゆう
出版社:講談社(タイガ文庫)
価格:¥726(本体¥660+税)

三部作完結編はまたしても衝撃の展開『ブラッド・ブレイン③闇探偵の旋律』

小島正樹さんの「ブラッド・ブレイン③闇探偵の旋律」
を読みました。

凶悪犯罪者の脳を調べるために設立
された脳科学医療刑務所。

厳戒態勢の所内で、特別矯正監の早坂が
何者かに殺害された。
早坂が死亡したことで、非常事態プログラム
が発動し、顧問の景嶋の訓示を聞くために
会議場に集められた、刑務官、警察官は
閉じ込められ、自由になった収監者たちが
脱獄をはかろうとしていた。

美貌の天才犯罪者・寺河望美は、収監者
たちを先導する。
それを阻止しようとする、刑事の百成と
「闇探偵」月澤。

閉鎖空間で繰り広げられる収監者たちとの
手に汗握るデスゲーム。
収監者たちの過去も暴きつつ、月澤との
闘いがヒートアップしてゆく。

しかし、百成が寺河たちの罠に落ち
絶体絶命のピンチに!!!

3作目は、冒頭から月澤が起こした
「警察連続殺害事件」の謎につながる
ストーリーが語られる。そして、
月澤の悲壮な過去と黒幕の存在が
明らかになってゆく!

月澤は、ただただ復讐を胸に秘め、
闇探偵として研ぎ澄まされてきたのだ・・・。

果たして非常事態プログラムが解除
されるまで、百成たちは生き残ることが
出来るのか?

月澤の過去があまりにも悲劇的すぎて切なくなった。
それだからこそ、このラストがとても印象的。
月澤と百成のコンビ、また読みたいと思った。

『ブラッド・ブレイン③ 闇探偵の旋律』
著者:小島正樹
出版社:講談社(タイガ文庫)
価格:¥858(本体¥780+税)

史上最強の内閣誕生か!?「もしも徳川家康が総理大臣になったら」

前に、坂本龍馬みたいな人が現れて
日本の政治を変えてくれないかなと
思ったことがあった。

それ以上のことを考えた作家さんがいたなんて!
「もしも徳川家康が総理大臣になったら」
を描いた眞邊明人さん。
凄い!の連続。

ミステリー作品以外で、
最近読んだ本の中ではとんでもなく
面白かった本の筆頭です。

総理大臣・徳川家康
官房長官・坂本龍馬
財務大臣・豊臣秀吉
経済産業大臣・織田信長
経済産業副大臣・大久保利通
外務大臣・足利義満
総務大臣・北条政子
などなど、日本史が大好きな人が読んだら
この人物リストを見ただけでウオーとなりそう。
私も日本史が大好きなので
思わず凄すぎるラインナップと思いました。

2020年、新型コロナの初期対応で
つまずき、あろうことか首相官邸
でクラスターが発生。
総理大臣がコロナに感染し死亡!
戦後最大の窮地に陥った日本政府。

政府与党はこの緊急事態に際し、
密かに画策していた最後の手段に出る。
それは、AIとホログラムにより、
偉人たちを復活させ、最強内閣
による政治を実行させることだった。

徳川家康を筆頭に日本の歴史に
名を刻んだ英傑たちで構成された
最強内閣は、迅速な意思決定で、
日本初のロックダウン、10日以内
で全国民に50万円給付、リモート
博覧会など、大胆な政策を次々と
打ちだし実行していく。
その徹底ぶりは国民の度肝を抜いた。

前半は、最強内閣の決断力と実行力に
よって、コロナ禍の日本で人命救助と
経済がバランスよく回ってゆく過程が描かれる。
その過程は、読んでいると胸がすくほど気持ちよい。

最強内閣が実行したことはとてもシンプルだ。

何か一つのことをやるにしても
必ず問題点がでてくる。
しかし、その問題点をすべてクリアに
してから実行していたのでは時間がかかりすぎる。

最優先すべきものは何かを明確にし
さっさと実行する。不正やミスは
それが発覚してから厳しく対処
することで実行度はさらに上がる
ということがわかる。

歴史上の偉人たちの登場のシーンには、
その偉人が何を成してきたのかが
注釈として表記してあり、歴史の勉強にもなる。

また中盤から後半にかけては、
誰がこのシステムを作り上げたのかと
いうミステリー的展開にもなっている。

ビジネス、歴史、政治、そして
ミステリーも楽しめる!
あらゆるジャンルが融合した教養
あふれるエンターティメント作品。

最強内閣は日本を救えるのか?!
読んでみてください!
クライマックスは感動の連続!

『もしも徳川家康が総理大臣になったら』
著者:眞邊明人
出版社:サンマーク出版
価格:¥1,650(本体¥1,500+税)