超!衝撃のサスペンスロマン「終りなき夜に生れつく」

先日、「ミステリー小説を楽しむ会」という読書会で紹介された
アガサ・クリスティーの「終りなき夜に生れつく」
を読んだのですが、あまりの面白さと衝撃に
読み終わった後、しばらく呆然としてしまいました。

探偵はいっさい出てこない、どこにミステリーの要因が隠されて
いるのか・・・?
ひたすら、愛し合う若き夫婦の物語を読んでいく・・・。

終りなき

「ジプシーが丘」で出会った男女。女性は大富豪の令嬢。
男性はしがない営業マン。だが心に大きな野望を抱いていた。
二人は恋に落ち、結婚する。
21歳になった令嬢は、とてつもない莫大な財産を相続したが
大富豪らしいところはなく、とても素直でかわいらしい女性だ。
夫はそんな妻をとても大切にした。
そして二人は美しい「ジプシーが丘」の風景に心を奪われ、
この地に家を建てる。
近所の住人たちも歓迎してくれてようだ。
だが、このジプシーが丘には呪われているのとの言い伝えがあり、
二人が「ジプシーが丘」に住むことを快く思わない人物もいた。
やがて、二人に対する数々の嫌がらせが始まる・・・。
そんな時、足をけがしてしまった妻・・・。
妻は、自分が信頼し、唯一心を開くことが出来る美しい女性を
呼び寄せた・・・・。

これら一連の物語の陰に隠されたもうひとつの物語。
ミステリーの女王がこの恋物語に仕掛けた巧妙な罠・・・・。
そして、不意打ちを食らったような突然の大どんでん返しに
息がとまるほど驚く!
これってあり!なの?

クリスティーが自らのベスト作品にも選出した自信作!
ポアロやミス・マープルといったメジャーな作品の
影に隠れたマイナーな作品だが、そこにこそ宝物が
埋まっている。
この作品はまさに埋もれた「金」のような作品。

ご堪能ください!

『終りなき夜に生れつく』
著者:アガサ・クリスティー/矢沢聖子(訳)
出版社:早川書房(クリスティー文庫)
価格:¥840(税別)

鮫島刑事の凄さにはまる!「新宿鮫」

「新宿鮫」シリーズ、初の短編集「鮫島の貌」を読んで
本編のシリーズを読みたくなり、シリーズ第1冊目
「新宿鮫」を読みました。

短編集で鮫島刑事のクール過ぎる人物像に惹かれたのですが
長編を読むとさらに「新宿鮫」ワールドにはまりました。

新宿鮫

歌舞伎町を中心に、警察官が連続して射殺される
事件が起こった。
捜査員は、仲間が殺されたことで、犯人逮捕に
躍起になる。
犯行に使われた銃は特殊なものらしく、その線からの
捜査は難航していた。さらに犯人らしき男から妙な
電話が捜査本部に入り、さらに混乱していた。
そんな中、新宿署の鮫島刑事は、たった一人で銃密造の
天才・木津を執拗に追っていた。
新宿での聞き込みから、木津の銃密造の工房を突き止めた。
だが、そこには巧妙な罠が仕掛けられていた・・・・。

警察小説ブームと言われる作品の多くは、横山秀夫さんの
「D県警」シリーズを代表する、警察組織を舞台に組織内で起こる、
キャリアとノンキャリアの攻防、他部署との軋轢や、警察組織の
あり方をテーマにしたものだった。
はまさきは、そのあたりから警察小説、あるいは警察ミステリーと
呼ばれる作品にはまっていった。
だが「新宿鮫」はそういった小説がブームになる前から、その警察
組織内部の暗部に少しずつ触れながら、鮫島と言う刑事を探偵役に
事件の謎を解いてゆく・・・。
鮫島の一見クール過ぎる態度には、警察官としての熱い思いが
秘められている。その思いは警察組織の中では相容れないものだ。
それでも鮫島は刑事として淡々と事件を解決してゆく・・。

木津という男を追う中で、次第に犯人像が浮かび上がってくる。
クライマックスの展開は圧倒的にスリリング。
ミステリー小説としても面白さが際立っている。

新宿歌舞伎町という日本一の繁華街でありながら
危険で猥雑な街・・・。その雰囲気が文章のあちこち
からにじみ出ていて、自分もそこに入り込んでしまったような
感じになる。

さらに、鮫島を取り囲むキャラクターたちも魅力的だ。
ロンクバンドのヴォーカリストで鮫島の恋人・晶。
この作品では、鮫島がどれほど晶を愛しているかが
描かれている。
また、鮫島の唯一の理解者・上司の桃井。
そして鑑識の藪。
彼らとの絆の深さが物語をより面白くしている。

「ただ独りで音もなく犯罪者に食らいつく」・・・。
「新宿鮫」と怖れられる、新宿署刑事・鮫島。
ものすごくかっこよく、ものすごく面白いシリーズ第1作。

『新宿鮫』
著者:大沢在昌
出版社:光文社(文庫)
価格:¥720(税別)

泣ける!日本の冒険小説「影の中の影」

月村了衛さんの新刊「影の中の影」(新潮社)が発売されました。

月村了衛さんと言えば「機龍警察」シリーズが傑作なのですが、
このシリーズのほかに幻冬舎「土漠の花」光文社「槐 エンジュ」など
誰かのために命を懸けて戦う系の作品があります。

とにかく、月村さんの描く戦闘シーンは圧倒的な臨場感で読者を
がっちりと掴み、物凄い迫力であっと言う間に
物語の中に惹き込まれていきます。
まるで映画を観ているような感覚になるのです。
すべてを忘れて物語に没頭できる・・・・。
そんな面白さを堪能できる作品。

影の中

中国人民解放軍による悪魔の所業から逃れ、
日本潜伏中のウイグル人亡命団。
彼らの事件を追う日本人女性ジャーナリストは
亡命団に接触中、証拠隠滅を図る中国の刺客に
襲われた!そして亡命中の一人の男性が
「カーガーを頼れ・・・」という謎の言葉を残し亡くなった。

その事情を知りながら、中国との衝突を恐れ、
弱腰になる日本政府と警察。

絶体絶命の亡命団に、謎の男が救いの手を差し伸べた!
なんと、その男こそ「カーガー」だったのだ!
頭脳明晰、身体屈強、ロシア武術を極め、情報機関や
裏社会にも怖れられる存在・・・。
この男は一体何者なのか!?

女性ジャーナリストは、今時珍しい任侠道を貫き通す
ヤクザの親分と懇意だったため、その子分たちが女性
ジャーナリストを救おうとするが、ウイグル地区の
人々の悲劇を知り、影の男とともに中国から送られてきた
刺客と命がけで戦うことになる。

この男たちの命のやりとりに泣けてくる!
普通の生き方を否定された男たちが、自分たちでも
役に立つことがあると自ら死地に赴くシーンは胸が熱くなる!!

最強のニューヒーロー誕生です!

『影の中の影』
著者:月村了衛
出版社:新潮社
価格:¥1,600(税別)

STシリーズ最新刊!「プロフェッション」

今野敏先生の大人気警察小説「ST 警視庁科学特捜班」シリーズの最新刊が
発売されました!新作は4年ぶり、しかも単行本!渋い装丁がかっこいいです。

テレビドラマと映画化でかなり認知され、ドラマの話も面白く
映画にまでなってファンとしては、嬉しい限りです。

プロフェッション

「おい、警部殿。STの出番だぞ」と菊川警部補に呼ばれた、STチームの責任者・百合根友久。
若くてちょっと気の弱い百合根は、キャリアで警部だ。だから時々、
警視庁捜査一課の強面刑事でSTとの連絡係、菊川に皮肉られる。
百合根は警視庁きっての特能集団・「ST」を束ねている。
5人のSTメンバーは頭脳もずば抜けて良いが、人間とは思えない
特殊な能力も備えているのだ。だが、皆、ちょっと自分勝手な性格
で、百合根はいつも手を焼いている。

今回、STに声がかかった事件は、3件立て続けに発生した誘拐事件で
解放された被害者たちが、皆「呪い」をかけられたと訴えたからだ。
彼らはいつも常識では解決できない事件を押し付けられるのだ。

早速、事件の被害者に会いに行くと、被害者二人は頭痛がひどく入院。
手足の痺れまで訴えているらしい。
三人目の被害者からは証言がとれた。
いきなり誘拐、拉致され、口の中に無理やりぬるりとしたものを
入れられたという。
被害者たちは皆、同じ大学の研究室の学生だった。
さらに、その研究室の教授は半年前に行方不明になっていた。

やがて、頭痛を訴えていた被害者の一人が死亡。
STのメンバーで法医学者の赤城は、いきなり解剖すると
言いだす。

その研究室に学んでいた学生達の証言は、超人的に発達した聴覚を持つ、結城翠と
犬並みの嗅覚を持つ黒崎勇治の人間嘘発見器コンビによって、明らかにされてゆく。
さらに、心理学専門のプロファイラー、絶世の美青年・青山翔のプロファイリングで
事件の真相に近づいてゆく。

彼らの得意とする能力で、次々に明らかになる事件の真相!
不気味な事件の行方は!?

いつものキャラクター達の変人ぶりが楽しめて、謎解きも面白い!
ファン待望の1冊です!

『プロフェッション』
著者:今野敏
出版社:講談社
価格:¥1550(税別)

切ない展開!北海道警シリーズ「憂いなき街」

佐々木譲さんの大人気警察小説「北海道警察」シリーズ第7弾の
「憂いなき街」の文庫が発売されました。

佐伯警部補、津久井刑事、小島百合刑事、新宮刑事など、おなじみの
キャラが登場!
今回は、佐伯と小島の関係が急展開!

憂い

「サッポロ・シティ・ジャズ」の開催に湧く初夏の札幌。
市内で起きた宝石商の強盗事件を追っていた機動捜査隊の津久井卓は、
当番明けの夜、行きつけのジャズバー「ブラックバード」に立ち寄る。
そこでピアニストの安西奈津美に出会った。奈津美は、人気アルトサックス
プレーヤー・四方田純から声をかけられ、シティ・ジャズの出演を
控えていた。ジャズの話で意気投合した二人は急速に惹かれあった。
そんな中、中島公園近くの池で女性の死体が見つかる。
そして、現場近くのカメラの映像に奈津美らしき人物が写っていた。
殺害された女性は、四方田純のファンであったことから、二人の間に
トラブルがあったのでは?ということで、奈津美に容疑がかかってしまう。

「憂いなき街」はこのシリーズには珍しく、登場人物のプライベートな
部分にもスポットを充てている。
様々な事件が同時進行し、佐伯警部補、小島百合が活躍する警察ミステリーの
面白さとともに、大人の恋愛物語が上手く織り込まれ、
いつもの「道警」シリーズとはちょっと異なる。

津久井が恋した奈津美には警察官の相手にはふさわしくない過去があり、
警察官としての矜持が、津久井の気持ちに歯止めをかける。
だが、頭ではわかっていても恋しい気持ちはどうする事も出来ない。
そんな津久井刑事の心の葛藤が丁寧に描いてありとても共感した。
また、佐伯警部補と小島百合の関係も一歩前進するが、
バツイチの佐伯はどうしても積極的になれない。
そんな態度に小島は歯がゆい思いをしながらも
大人の態度で受け入れる。その小島百合が健気でかわいくて
さらに、かっこいいのだ!

こんな大人の恋と対照的に起こる殺人事件は
だめな大人を象徴する事件だ。

恋愛がからんだ道警シリーズ。今回は女性にもおススメの作品!

『憂いなき街』
著者:佐々木譲
出版社:角川春樹事務所(ハルキ文庫)
価格:¥660(税別)

監察官を監察せよ!?「監察特任刑事」

「署長刑事」シリーズでおなじみの姉小路祐さんの新刊
「監察特任刑事(デカ)」を読みました。
今回も京都が舞台。
京都の街なみ、京ことば・・・
主人公、戻橋警部補が使う京ことばが刑事らしくなくて
良いんです。

監察特任

税理士としての経験を買われ、京都府警に特別資格者枠(シカクシャ)で
中途採用された戻橋京一郎は、「監察官を監察する」新設部署の
係長事務代理に任命される。
その新設部署は、ノンキャリアから警視長まで登りつめた轟が
市民のための警察であるべきとの思いから設置した部署だ。

警部補でありながら、係長事務代理ということは警部と同等の
権限を持つ。
戻橋は、特別枠の中途採用であるため、警察学校を出ていない。
それゆえ、同期という仲間もいない。警察内部ではある意味
孤独な存在だった。
しかし、そういうしがらみがないから、一般市民に近い
眼で警察という組織を見ることが出来る。

だが、新設部署では早速、部下の八反田刑事から嫌味をいわれる・・・。

そんな時、事件は起こった。
京都の隠れ家的なパワースポット・二枝神社で女性の変死体が
発見された。状況から、階段から転落、特に不審な点は
見当たらないことから、事故死と断定された。

だがその後、新設部署にある電話が入る。
「転落死した女性の捜査をきちんとしろ!」
と女性の声での密告だった。
部下の女性刑事からその連絡を受けると、戻橋は
通報を受けた交番の巡査に話を聞いた。
その巡査は女性で、その転落事件に女性特有の不審な点を
感じていた。単純な事故ではないと言った。

戻橋も、なぜあっけなく事故死と断定されたのか?不審に思い
調査をすることに。
戻橋が調べれば調べるほど、疑惑は広がってゆくのだった・・・。

隠蔽された事件は、やがて府警内部の巨大な闇へ繋がってゆく。
戻橋の「外から来た人間やからこそ、僕は警察の正義を信じたいんや!」
という強い思いと「中途刑事」ゆえの執念が、幾重にもゆがんだ
内部犯罪を暴いてゆく!

警察という組織の中の権力闘争の中で利用され、捨てられるかも
知れないという恐れと闘いながら、ただひたすら真実を追う
愚直な刑事・戻橋京一郎の姿勢が素晴らしく、胸を打つ警察小説。
ミステリーとしての謎解きも非常に面白い!

『監察特任刑事(デカ)』
著者:姉小路祐
出版社:講談社(文庫)
価格:¥690(税別)

警察小説の新たな視点!「クランⅠ」

「警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結」シリーズの著者
沢村鐡さんの新シリーズ
「クランⅠ 警視庁捜査一課・晴山旭の密命」を
読みました。

「警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結」シリーズは、
究極の悪・国際武器商人と日本のインテリジェンスとの
戦いと主人公・一柳美結刑事の成長と復讐が
全4巻に渡り描かれ大変読み応えがあり、
斬新な警察小説に我を忘れて読みました。
沢村さんの警察小説の面白さに度肝を抜かれ
その興奮も冷めやらぬうちにこのシリーズに
出会ったのでした。

その面白さときたら!前シリーズ以上の興奮と
期待感に満ち溢れます。

クラン①

渋谷の公園で警察関係者の遺体が見つかった。
第一発見者は、六本木署組織対策課から、渋谷南署
生活安全課に異動になったばかりの岩沢刑事とその
交番勤務の足ヶ瀬巡査だった。
明らかに他殺死体なのに、鑑識課の検視官・綾織美音は
自殺と断定した。
疑念を抱いた捜査一課上層部は、晴山旭警部補に内偵を命じる。
綾織検視官の目的は一体何なのか?
内偵を開始した段階で、晴山に接触してきた警察内部のありえない大物。
その大物の目的は、晴山の想像を絶する密命だった!!

連続して起こる、警察関係者、現職警察官の謎の死。
密命を帯び、捜査する晴山は開けてはならない
パンドラの箱を開けてしまうのだった!!!

警察内に蔓延る巨大な闇、それに立ち向かう
密命チーム。

斬新な展開に興奮度はMAXに!
クランⅠは晴山の生死をかけた闘いの始まりの物語!
これからが面白い!
期待大!!!!

『クランⅠ 警視庁捜査一課・晴山旭の密命』
著者:沢村鐡
出版社:中央公論新社(文庫)
価格:¥680

トム・ロブ・スミス新刊「偽りの楽園」が面白い!

数年前「チャイルド44」でこのミス海外1位に輝いた、トム・ロブ・スミスの新刊
「偽りの楽園 上下」(新潮文庫)を読みました。
翻訳は、田口俊樹さん。この方の翻訳が素晴らしかったので、
上下巻「あっ」と言う間に読んでしまいました。

海外ミステリー作品は、作家の持ち味を活かすため
妙な日本語訳になったりするのですが、この作品は
そういったことを一切感じさせず、ベストセラー作家が描く
物語の面白さと、読みやすい翻訳で、はまさきが今まで読んだ
海外ミステリーの中でも記録的な速さで読んでしまいました。

偽りの楽園

リタイヤして、北欧の田舎町で農業を営む父からダニエルに
突然入った電話。それは「母さんが精神病院に入院したが
脱走した!」という信じがたい連絡だった。
両親は、幸せな老後を送っているものとばかり思っていた
ダニエルにはまさに青天の霹靂だった。
父からの電話の直後、今度は母親から電話が!
「私は狂ってなんかいない!お父さんは悪事に手を染めている
警察に連絡しなければ!」というさらに信じがたいものだった。

ダニエルは両親のどちらを信じていいのか途方に暮れる中、
母親がすぐにダニエルのもとにやってきた。
その母の姿を見て、ダニエルは愕然とする!
閉鎖された農場で起きた数々の悪事、そこで蔓延る狂乱の宴、
嘘、隠蔽、犯罪、陰謀の数々が母の口から語られる。
そして母は大事に持ってきたバッグの中からそれぞれの事件の
証拠品を次々と提示してゆく。

母の話を半信半疑で聴いていたダニエルは、その真相を
確かめるためにスウエーデンへと向かう・・・。

物語の大部分は母親の語り口調で進められる。
そのため、読んでいるとどんどん惹き込まれてゆく。
閉塞感漂う、北欧の田舎の農場を舞台に
不気味な悪事に手を染め、絡め取られてゆく父親の姿と
そこから逃れようとする母親の姿が描かれている。

一体真相はどこにあるのか?
最後の最後まで集中力が途切れない面白さ!
海外ミステリーの醍醐味が堪能できる!

『偽りの楽園 上下』
著者:トム・ロブ・スミス/田口俊樹
出版社:新潮社(文庫)
価格:上下各¥630(税別)