「海の見える理髪店」で直木賞を受賞した荻原浩さん。
「明日の記憶」は渡辺謙さん主演で映画化され、
さらに、本屋大賞第2位にランクイン。
「神様からひと言」は絶妙な面白さで大ヒット。
荻原浩さんの作品は涙と笑いが絶妙のバランスで
描かれ、読後の余韻がとてもさわやかなものがが多い。
でもこの「噂」だけは、背中がぞくぞくする
何とも言えない余韻が残る、戦慄のサイコ・サスペンス。
稀代のストーリーテラー荻原さんが描いた唯一のミステリー。
文庫発売当時の煽り文句は「衝撃のラスト一行に瞠目!」
ある大手の化粧品会社が香水の新ブランドを売り出すために
渋谷でモニターの女子高生をスカウト。
「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、
ミリエルをつけてると狙われないんだって」。
女子高生の口コミを利用し、この噂を広めるのが狙いだった。
販売戦略どおり、噂は都市伝説化し香水は大ヒット。
だが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された!
そして、捜査を開始する警察。優秀なシングルマザーの女性刑事が
事件の謎に迫ってゆく・・・。
物語全体に不気味で超危険な恐ろしさが漂う中、
事件捜査を任された刑事コンビの掛合いや、若者たちの
おばか発言など、荻原さんお得意のユーモアとシリアスの
絶妙なバランスが、緊張感漲るストーリー展開のなか
一息つける清涼剤のようだ。
だが、悪意に満ちた人間たち、若者特有の、特に女の子たちの
残酷さが描かれある意味、都市伝説見立て殺人事件よりも恐ろしい一面が
垣間見られる・・・。
また、企業の販売戦略について、現代はSNSを使っているが
ほんの何年か前はこうしたモニターを利用していた。
時代の流れも感じさせてくれ、そういう意味では
作中に出てくるエピソードは多少古く感じるかも知れない。
しかし、サスペンスミステリーとしての面白さは
際立っている!
わざわざ「最後の一行に瞠目」と煽っているということは
このラストの意味がわからなければ、この物語の本当の
恐ろしさに気づけないということだ。
稀代のストーリーテラー・荻原さんのサスペンス・ミステリー、
存分にご堪能あれ・・・!!!
『噂』
著者:荻原浩
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥670(税別)