こころにグサッとくる!「絶叫」

2014年「週刊文春ミステリーベスト10」国内編第6位、
「このミステリーがすごい 2015年版」国内編第11位
にランクインした、社会派ミステリーの傑作
『絶叫』を読みました。

昨年『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学新人賞を受賞。
新人とは思えないほど完成度が高く絶賛されました。
老人介護をテーマに、社会の中でもがき苦しむ人びとの絶望を抉りだす!
重いテーマをミステリーに仕立てた、平成の松本清張!

その受賞後第1作目が「絶叫」です。
「絶叫」は一人の平凡な女性の転落人生にスポット
当てた、本当に「絶叫」したくなる作品です。

絶叫

あるマンションの一室で鈴木陽子という女性の遺体が発見された。
誰にも知られず、何か月も経過し、しかも猫に食べられた
と思われる無残な死体となって・・・・。
いったい鈴木陽子という女性はどのような人生を辿ってきたのか・・・・?

団塊ジュニア世代に生まれた陽子。最も標準的な家庭に生まれた陽子だったが、
母親からは「男の子が欲しかった」と言われ、弟が生まれたとたんに
両親は弟を溺愛。陽子は弟と比較されバカにされながら育った。
陽子は母親との確執を抱いたまま成長する。その間両親が溺愛した弟は自殺。
バブル崩壊後、父親は借金を背負い蒸発、母親は叔父のもとへと逃げ込む。
たったひとり残された陽子は、中学の時に憧れた先輩と結婚。
幸せをつかんだかに思えた。しかし結婚生活はあっけなく終わる・・・。
唯一信じた人を失くし、孤独に耐えつつ次々に転職。気が付けば頼るものも
なく、さらに自らも莫大な借金を抱え、身体を売るようになる・・・。

鈴木陽子の遺体を発見した、女性刑事・奥貫綾乃は彼女の人生を丁寧に
追う。やがて、奥貫は陽子の結婚生活に不審を抱く!!

普通に真面目に生きてきたのに、いつのまにか社会から棄て去れて
しまった・・・「棄民」という言葉が心を抉る・・・・。
そんな女が凶悪な犯罪に手を染め、生き地獄に堕ちてゆく様が
圧倒的にリアルに描かれている。
他人事とは思えないリアルさ・・・。今の日本は天国と地獄
危ういバランスで成り立っているのでは・・・?
いつ自分もこんな風に墜ちてゆくのか?
それを思うとものすごく怖くなる。
読んでいる間中、複雑な思いが駆け巡った・・・。

先の見えない不安な国・日本を臨場感たっぷりに
描き、さらにミステリー作品として昇華させた傑作!

『絶叫』
著者:葉真中顕
出版社:光文社
価格:¥1,800(税別)

ゾクリとさせる・・・。ミステリー話題独占!「満願」

米澤穂信「満願」・・・。
山本周五郎賞受賞!
「このミステリーがすごい2015年版」国内編1位!
「週刊文春2014年ミステリーベスト10」国内編1位!
「ミステリが読みたい2015年版」国内編1位!
など、今年の国内のミステリー界を席巻!!

ということで「満願」読みました!!
6つの短編からなるホラーとミステリー。

なんて!面白い短編なんだ!
短編なのに長編を読んだかのような満足感!
短さのなかにも、人間の心の闇のようなものが
しっかりと描かれていて不気味な怖さを感じた。

満願

交番勤務の警察官が新人教育において悩んだ末に起きる事件。「夜警」

別れた恋人が見つかった先は、自殺名所の旅館。
そこを訪ねると、見違えるほど元気になった恋人の姿が。しかし・・「死人宿」

娘二人の倖せのために、イケメンで優しいだけの夫と離婚を決意した美しい女性。
だが、親権をめぐって思わぬ方向に・・・女性の心理を鋭く突いた「柘榴」

海外で資源の発掘に燃える一人の男。発展途上国での発掘で順調に業績を
伸ばしてきたが、ある村で思わぬ反発を食らう。そこで男が犯した罪とは?「万灯」

都市伝説の取材を依頼されたライターは、事故が多発するという峠に向かった。
その峠には、古ぼけて、老婆が一人切り盛りする食堂があった。ライターは
そこで、事件について取材することに・・・「関守」

学生時代に世話になった下宿先の奥さんが、殺人事件で起訴された。
弁護士になって最初の事件はこの奥さんの弁護だった。司法試験の猛勉強中、
落ち込んでいるとき常に励ましてくれた人だ。精一杯の事をしたと
弁護士は思ったが・・・ぬぐい切れない疑問が残った・・・「満願」

「夜警」「満願」は練りに練られたミステリー。
後の作品は、人間の心の奥に潜む闇の部分を浮き彫りにした
サイコホラー。どれも最後の最後にしてやられる・・・。
そして行間から漂う負の感情にゾクリとさせられる・・・。

今年最高のミステリーの傑作短編集!

『満願』
著者:米澤穂信
出版社:新潮社
価格:¥1,600(税別)

今野敏ファンお待たせ!新作「マル暴甘糟」

今野先生の新刊が出ました!
嬉しい~。

「マル暴甘糟」!?なんと潔いタイトルなんだ!
タイトルが示す通り、マル暴刑事が主人公の新作です。

今野先生が描くマル暴刑事を主人公にした警察小説は、
「横浜みなとみらい署」シリーズがあります。
ハマの用心棒こと、諸橋刑事がかっこいいですよね。

今回の新作は、北綾瀬署刑事組織犯罪対策課・組織犯罪対策係(通称マル暴)に
配属され、「なんで僕が・・・・はあ~」とため息をつく日々を送っている、
ちょっと気の弱い刑事・甘糟が主人公。
相棒はいかにも「マル暴」刑事!ヤクザに見えてもおかしくない
群原刑事。いつも苦虫を噛んだような表情が特徴。

マル暴甘糟

北綾瀬署管内で傷害事件が発生した。
被害者は暴力団風の男性らしい。
甘糟は「あ~いやだな!強行犯係は大変だなあ・・・」
などと思っていたら、強行犯係の芦谷から「お前も一緒に来い」
と言われ渋々現場にいくことに・・・
目撃者の証言から、数人の男に殴られたらしい。
被害者は病院に運ばれたが、亡くなったと連絡が入った。
傷害事件から、傷害致死・・・あるいは殺人?
あるいは暴力団同士の抗争か・・・?
被害者は、北綾瀬署管内の暴力団の構成員だった。

撲殺事件の裏にあるのは、抗争か?半グレの怨恨か?

主人公の甘糟は、確かにヘタレだ・・・・
マル暴の若い構成員は警察だから一応それなりの
礼儀は保つけれど、甘糟はなんとな~く軽く扱われる。
そんな時の口癖は、「なめないでよね」。
マル暴の事務所でお茶が出てくれば、
「飲まないから出さないでよ!」が口癖。
本人は、僕ってだめなんだなあ~って思っているけど
自分のことを客観的に見て自分のことはよくわかっている。
しかも、先輩刑事のいうことはきちんと聞く、
怖いけど、怒られるけど、先輩を立てる。
そういう面がとても良い。

だからどこへ行ってもなんとなく有力な情報が得られる。
結構、得な性格をしているのに自分でそれがわかっていない。
面白い!どこまでがとぼけているのか・・・?
この愛すべきキャラクターの周り固める先輩刑事もすごく良い!
特に特捜本部で警視庁捜査一課からやってきた、梶刑事。
偉ぶっていないところが良いなあ~。

事件の行方や捜査過程も楽しめるけれど、
魅力的な登場人物にノックアウトさせられる。

絶対にシリーズにしてほしい!新作!

『マル暴甘糟』
著者:今野敏
出版社:実業之日本社
価格:¥1,600(税別)

史上初!6冠達成のフランス発驚愕のミステリー「その女アレックス」

今年のミステリーランキングは海外の作品に注目が集まっています。
特に、このミス、週刊文春、ミステリが読みたい!など、
いずれのミステリーランキング海外部門で1位に輝いた
「その女アレックス」(ピエール・ルメートル著 文春文庫)は、
日本でも外国でも非常に評価が高く、海外の有名なランキングでも
1位に入るなど、史上初「6冠」といタイトルを獲得!

早速読んでみました。
表紙はかなりきついので、手に取りにくいのですが、
読み始めたら先が気になって止まりませんでした。

アレックス

道行く男たちが振り返るほど美しい女性・アレックス。
その日も、きらびやかなウイッグを見て歩いていた。
ところが、不気味な視線を感じる・・・・。
気のせいか・・・そういえば近頃よく感じる視線・・・。
大丈夫。何でもない・・。
自分に言いきかせるアレックスだったが、突然、男に襲われた。
身体のあちこちを殴られ気を失ったアレックス。
気が付くとそこは寒々しい無人の倉庫だった。
そして顔をあげると醜い男が無表情で立っていた。
アレックスは自分がなぜこんな酷い目にあうのか?
その男に問かかけるが、答えは暴力!
そのうち、男に全裸になれと命令され、窮屈極まりない檻の
ようなものに閉じ込められた・・・・。
そしてまたもや男に問いかける。やがて男は言った。
「おまえがくたばるのが見たいからだ。」

一方、警察に「女性が誘拐された」との通報が入った。
最愛の妻を誘拐、惨殺された過去を持つ刑事・カミーユは
女性の誘拐事件と聞き、うろたえる・・・。
PTSDでまだまだそんな凶悪事件とは向き合えないカミーユであったが、
同僚たちの説得もあり、嫌々ながらも捜査に加わる。
女性誘拐の目撃者もいたが、要領を得ず誘拐された女性の身元は
杳として知れない。
だが、あることがきっかけで女性の身元に手がかりが・・・・。

POPには「101ページから先は誰にも話さないでください。」と
謳われている。確かにここまで書くのが精一杯。
しかし、この後から凄い展開になるのだ。

孤独な女性アレックスの壮絶な秘密が明かされると
その後の物語は読者が「なんだそういうことか!」と納得
する間もなく、またまた予想外の展開に転がる!
そう、まるでジェットコースターのような展開に
翻弄されることになるのだ。

アレックスの強烈な人生もさることながら、
刑事たちの人生も描かれ、ヒューマンドラマな
テイストもプラス。
ミステリーの展開と共に彼らの物語からも目が離せない!

今まで読んだ事のない感覚!
強烈な印象!!!
強烈な面白さに絶句すること間違いなし!!

ミステリーランキング6冠にふさわしい‘超’衝撃と驚愕の
サスペンスミステリー。

『その女アレックス』
著者:ピエール・ルメートル 橘明美(訳)
出版社:文藝春秋(文庫)
価格:¥860(税別)

「厳選!海外ミステリー」コーナーを設置しました!

毎年恒例のミステリーランキングが出揃い
はまミスコーナーもミステリーランキングに
沿って、海外のミステリーコーナーを設置しました。

海外ミステリー②

海外ミステリー①

今年は「その女アレックス」ピエール・ルメートル(文春文庫)が
6冠ということで大いに話題になり、海外のミステリーに注目が
集まっています。
はまミスでは、「その女アレックス」をメインに、でも
今年のランキングははずして、(別のコーナーでミステリーランキング国内海外
作っています。)はまさきが今まで読んだ海外ミステリーの中で
特に面白かったものを厳選しコーナー組をしました。

「その女アレックス」はもちろん一番のおすすめなのですが、
他にも、警察大河小説「警察署長上下」スチュアート・ウッズ。
これはミステリー好きならば絶対に読んでほしい1作。
以前にもこのブログで紹介しました。本当に文句の
つけようがないくらい面白いです。
また、「刑事マルティン・ベック」シリーズは新訳で復刊!
日本の警察小説作家さんに多大な影響を与えた、約30年前に
翻訳されたシリーズ。
「ミレニアム」は当然。北欧ミステリーブームに火をつけた作品。
読んだ人のほとんどが面白すぎて止まらなかった。
全作一気読みしたという凄い作品。
探偵小説では、やはりロバート・B・パーカーの
「スペンサー」シリーズははずせません!シリーズ中の
最高傑作と言われる「初秋」。ハードボイルドなスペンサーと
心に傷を持った少年との交流がたまらない1作。
冒険小説の最高傑作「高い砦」デズモンド・バグリイ。
こんなに面白い冒険賞絶は読んだことがありません!
今年冬映画化され話題をさらった「ゴーン・ガール」
ギリアン・フリン。これほどネガティブな感情が
あふれた小説はありません!まさにワールドクラスの嫌ミス!
などなど、こだわりの作品を集めました。
本当に面白い作品ばかりです!!!

ハードボイルド的子育てに胸が熱くなる!「初秋」

2010年に亡くなった、アメリカのミステリー作家、ロバート・B・パーカー。
彼の代表作は私立探偵「スペンサー」シリーズ。
スペンサーという男は、たった一人の恋人を愛し続け、友を大切にし、体を鍛え、
依頼以上の仕事もこなす。依頼された仕事を引き受けた以上、命も顧みない・・・。
男の中の男、男性から見ても、女性から見ても理想の男性。
だから、このシリーズは男性女性ともにどちらからも支持を得た。

はまさきが初めて読んだのは、この「初秋」。
これを読んだことがきっかけとなり、アメリカのミステリー、
探偵小説にはまっていった。

この「初秋」は「スペンサー」シリーズの中でも異彩を放つ!
シリーズ中最高傑作と言われている。

初秋

私立探偵スペンサーは、離婚した夫から息子を取り戻してほしいと依頼を受けた。
彼にとっては非常に簡単な仕事だった。
早速仕事を完了したスペンサーだったが、
問題の少年ポールは、彼の心にわだかまりを残した。

ポールは、対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ、
両親の愛情も知らず、固く心を閉ざして何事にも関心を示さない少年だったのだ。
そんなポールを見てスペンサーは決心する。
ポールを自立させるためには、一からすべてを学ばせるしかない。
それから、スペンサー流のトレーニングが始まる。

人生において何が大切か?
生きることはどういうことか
男として何が大切なのか・・・?
スペンサーはとことんポールと向き合い、
一緒にトレーニングをし、本を読み、音楽を聴き・・・
彼の問いには一つ一つ誠意を持って答える・・・。

人生の生き方を何も知らぬ少年と、彼を見守る
スペンサーとの交流が読んでいると本当に胸に響く・・。
ハードボイルドな中にも心温まるストーリー展開に
感動する・・。
ポールが成長し、スペンサーと再会する「晩秋」は
さらに感動。他人の気持ちを思いやる優しく繊細な
青年に成長したポールに驚く!

『初秋』
著者:ロバート・B・パーカー/菊池光訳
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫)
価格:¥800(税別)

独白ミステリーの極致「敗者の告白」

「鬼畜の家」でブレイク中のミステリー作家
深木章子さんの最新作「敗者の告白 弁護士睦月怜の事件簿」を読みました。

元弁護士という著者。
事件の証言者から聴いた話を検証し
真相に至る過程を描くのはお見事です!

敗者の告白

IT企業の経営者・本村弘樹の妻と小学生になる息子が
別荘のベランダから転落死した。

そしてその事件当日に、雑誌記者に送られてきた、
一通のメール。それは、本村の妻・瑞香の手記だった。
その手記の内容は驚くべきものだった。
この手記の登場により、本村は妻子を殺害したとして逮捕された。

瑞香の手記には、夫が愛人と共謀し、自分と息子を殺す計画を
立てていると書かれていた。その理由は息子が夫の友人の
子どもであること、さらに資産家の母が亡くなり、瑞香が相続した
遺産を自分のものにすること、そして最愛の娘を亡くされた償い・・・?

だが、逮捕された直後に、今度は本村の母親に亡くなった孫の
朋樹からメールが送られていたのだ。
朋樹のメールの文面は瑞香以上に世間をあっと驚かせた!
自分はパパとママに殺される、おばちゃん助けて!
僕が妹の由佳を殺したから、パパのお友だちのところの
美優ちゃんを殺そうとしたから・・・

朋樹のメールから、警察は瑞香の素行を調べ始めた。
そして明らかになった瑞香の正体は、本村の想像を
はるかに超えたものだった・・・・。

本村の弁護士・睦月怜は、本村、瑞香の周辺の
人物から証言をとった。
その証言を徹底的に検証してゆくとあるひとつの仮説に
繋がった・・・・。

物語は、ほぼ手記と証言者の独白、本村の独白。
しかしそこにちりばめられた伏線の数々。
そこからいかにして、妻子転落死事件の真実に
繋げるのか?

読みは始めると気になってしょうがなくなる!
超絶ミステリー技巧の傑作!

『敗者の独白 弁護士睦月怜の事件簿』
著者:深木章子
出版社:角川書店(KADOKAWA)
価格:¥1,600(税別)