あまりにも切なすぎる!『希望が死んだ夜に』

天祢涼さんが作成された、『境内ではお静かに』の
フリーペーパーの裏面に紹介されていた、
ミステリー作品『希望が死んだ夜に』を読みました。

子どもたちの悲痛な叫びが聞こえてくるようでした。

希望の「希」は‘ねがう’とも読むことから
ネガと名づけられた14歳の少女。
母親と2人、ぼろアパートで生活する日々。
経済力も生活力もない母親は体調が悪くなると
寝込んでしまう。そのせいで仕事が続かない。
生活保護の申請もしたが、断られてしまう・・・。
ネガは毎日、いかに節約できるか?そのこと
ばかりを考えながら過ごしていた。
そういう理由で、学校のクラスでも敬遠される、
唯一の友だちは幼馴染の男子中学生。

そんなある日、ネガは同級生の女子を殺害した
容疑で逮捕される。
ネガは犯行を認めたが、殺害動機は完全黙秘した。

捜査一課の真壁刑事と生活安全課少年係の女刑事・
仲田は、ネガの幼馴染の男子中学生から話を聞くことに…。
彼は、「ネガは絶対に殺していない」と言った。

二人の刑事の捜査の過程と、ネガ自らが語る
事件までの経緯。運命の出会いは、貧困に
あえぐネガに幸福と絶望をもたらした・・・。
次第に明らかになる事件の真相に、目頭が熱くなってくる。

登場人物の描き方が凄い!
特に、仲田刑事。事件関係者の心を「想像」する。
それは寄り添うことだと思う。

しっかりとした取材に基づいて描かれた、日本の「貧困」。
巻き込まれるのは子どもたち。
夢を持っても叶えられない。そんな絶望の中で
生きなければならない哀しい現実。
作中、少女がつぶやいた「子どもたちに冷たい国」・・・。
彼らの心を「想像」することが出来ない大人たち。
そんな大人たちの勝手な行動が、悲劇を起こすのだ

「希望が死んだ」この国に未来はあるのだろうか?

あまりにも切ないラストにそんなことを考えてしまった。

多くの人に読んで欲しい!心に深く突き刺さるミステリー。

『希望が死んだ夜に』
著者:天祢涼
出版社:文藝春秋
価格:¥1,700(税別)

警視庁犯罪被害者支援課シリーズ最新作「影の守護者」

堂場先生の人気警察小説シリーズ、
「警視庁犯罪被害者支援課」。犯罪被害者に寄り添う
警察官たちの優しさ、温かさが描かれ毎回感動します。

この最新作「影の守護者」は、シリーズの中でも
かなりミステリー色が強く面白い作品。

交番で警察官が射殺された。被害者は益田護。
長年交番勤務を務め、地域住民から信頼が篤かった。
早速、支援課にも出動要請がかかった。
益田には捜査一課に勤務する息子・智樹いた。

父を殺した犯人を自分で挙げると息巻く智樹。
村野はそんな智樹の暴走を何とか止めようとした。

捜査をすすめてゆくと事件に使われた拳銃は、
5年前の交番襲撃事件で奪われた拳銃だと判明する。

捜査一課からもやっかいもの扱いされるように
なった智樹に、村野は二人だけで秘密の捜査を
することを提案する。

5年前の交番襲撃事件と、今回の警察官射殺事件・・・
二つの事件の間には一体何があるのか?
二人の秘密捜査で浮かび上がった疑惑とは?

事件の謎に挑む、二人の刑事。
怒涛の展開と警察官として信じがたい真相、
そしてクライマックスのどんでん返しに言葉もない!

面白さが半端ない警察ミステリーの傑作!

『影の守護者 警視庁犯罪被害者支援課5』
著者:堂場瞬一
出版社:講談社(文庫)
価格:¥840(税別)

名探偵は、美少女の巫女!?「境内ではお静かに」

いつも、人が死んじゃったり、ホラーテイストの
ミステリーばかり読んでいる、はまさき….。

時々違うミステリも読んでみたいな…。ということで、
今回は神社が舞台のライトなミステリーを読みました。
最近はパワースポットとして人気の神社もあり、
とてもタイムリーだと思います。
装丁がとんでもなく可愛い巫女さんのイラスト。
ついつい手に取ってしまいそうです。

大学を中退し人生迷走中の壮馬。兄が神職を務める横浜の
有名な神社「源神社」で働くことに…。
信仰心ゼロの壮馬は、眼を瞠るほど美しい巫女・雫の
の弟子となり、神社の業務を学ぶ日々…。

参拝客にはとびきっりの笑顔で接するが、それ以外は
笑わない雫。何か事情がありそうだ。
壮馬への態度もちょっと厳しすぎるんじゃない?…。

壮馬が雫の態度を気にしだした頃、
神社では次々と不可解な事件が起こる!
心霊騒ぎ、子ども祭り妨害事件、神社移転反対の裏側、
就職祈願の本当の理由、などなど。

神社で巻き起こる様々な事件を、雫が鋭い洞察力で解決に
導いてゆく。

神社ではいったいどんな事件が起こるのか?
切ない展開もあるけれど、重くならずライトに描き、
日常の謎を興味深いミステリーに仕立ててある。
そして、真相解明は膝を打ちたくなるほど心地良い。
随所に「本格」の香りが漂っていて、ミステリファンは
たまらない。

また、壮馬と雫、二人の微妙な距離感に、
読んでいると胸がキュンキュンしてくる。

今後の二人の関係がどうなるか?またまた新たな
トラブルに巻き込まれるのか?
とてもとても続きが気になる、超面白いミステリー。

『境内ではお静かに 縁結び神社の事件帖』
著者:天祢涼
出版社:光文社
価格:¥1,700(税別)

ユーモアたっぷり!警視庁FCシリーズ第2弾「カットバック」

今野敏先生のちょっとユーモアが入った警察小説
「警視庁FC」シリーズ。第1弾はまんまと騙されました。
第2弾は「カットバック」。こちらも面白かったです。

警視庁FC班は、都内で映画やドラマの撮影があった
ときに召集される特命班だ。

あるとき、特命の招集がかかった。
20年続いている国民的刑事ドラマ「危険なバディー」が
映画化されることになり、その警備のためだった。

班で一番若い楠木(くすき)肇は、地域総務課に
所属する、あまりやる気が感じられない巡査だ。
(時々、ハッとするような推理で周りから驚かれる)
特命班のリーダーは、通信指令本部の管理官・長門達男。
他に、組織犯罪対策部の山岡巡査部長、交通機動隊の
白バイライダー・服部、都市交通対策課の島原静香らが
メンバーだ。

人気ドラマの映画化ということと、人気俳優の二人と
ゲストヒロインの女優が出演することで、かなりの
野次馬が出現するだろうと予測した長門は、映画
撮影の管轄署・大森署へ協力を請う。

俳優たちと特命班が大森署署長への挨拶を終え、
ロケがスタートする頃、撮影現場で本物の死体が
発見された!潜入捜査官役の俳優が脚本通りの
場所で殺害されていたのだ!

新署長率いる大森署、捜査一課も合流し捜査を始めた
警察だったが・・・。捜査の行方はどうなる!

「FC班」が大森署員と合同捜査!?
大森署と言えば、署長は竜崎か?と思いきや、
すでに異動後だった!新署長は目の覚めるような
美人キャリア。天然を装っているが・・・・
貝沼副署長以下、美人署長に翻弄されているような・・・。

さらに戸高刑事も登場し、「隠蔽捜査」シリーズファン
にはたまらない展開だ!!

「隠蔽捜査」と「FC室」のコラボレーション!
思わず笑える展開もあり!
ユーモア交えた警察小説です!

『カットバック 警視庁FCⅡ』
著者:今野敏
出版社:毎日新聞出版
価格:¥1,600

警視庁53教場第2弾!「偽弾の墓」

「女性秘匿捜査官・原真希」、
「警視庁女性犯罪捜査班 警部補・原真希」、
「新東京水上警察」など、とても面白い警察小説
シリーズを描いている吉川英梨さん。

新刊は、「警視庁53(ゴーサン)教場」の第2弾
「警視庁53(ゴーサン)偽弾の墓」。
このシリーズも非常に面白いです。

警察学校を舞台に教官たちの奮闘を描く、警察ミステリーです。

元プロ野球選手、ガンマニア、助教官に恋する
女性など、超個性派揃いの学生を受け持つ、
53(ゴーサン)教場の教官・五味。
同期の高杉教官とも切磋琢磨しながら、警察官を
育てるべく日々奮闘している。

そんなある日、多磨霊園で射殺体が発見された。
捜査をしてゆくと、警察学校の生徒に容疑が
かけられてしまう!

五味は教え子を守るべく「53教場40名全員卒業」を
目標に事件解決を目指す。

厳しい授業に耐えられず落ちこぼれる生徒、
厳し過ぎる教官・・・。警察学校の描写がとてもリアル。
(特に模擬捜査の過程は面白かった。)

さらに、ミステリー小説としても読み応え
たっぷりで真相解明のくだりは圧巻!

また登場人物もかっこいい。
特に五味と高杉の仲の良さには思わずほっこりしてしまう。
しかし、五味には高杉に言わなければならないことが・・。

今後の展開がとても気になる作品!

『偽弾の墓 警視庁53(ゴーサン)教場』
著者:吉川英梨
出版社:KADOKAWA(文庫)
価格:¥720(税別)

胸が熱くなる!時代小説『童の神』

『羽州ぼろ鳶組み』『くらましや稼業』シリーズ
など人気の時代小説シリーズが続々ベストセラー入り!
大ブレイク中の今村翔吾さんの初の単行本『童の神』
を読みました!

「童の神」は、第10回角川春樹小説賞受賞作で、
選考委員の方々が満場一致で激賞した時代小説。

はまさきもプルーフ版を読ませて頂いた時に
あまりの面白さになんだかぞわぞわしました。

平安時代、京の都の人たちはかなりの上から目線で
「童」(朝廷に属さない先住の民)たちを蔑んでいた。
彼らは、鬼・土蜘蛛・不知火・滝夜叉などと呼ばれていた。
京人たちは、権力を持って「童」たちの大切なものを
奪ってゆく・・・。

越後で生まれた桜暁丸は、父と故郷を奪った京人に
復讐を誓っていた!身分を隠し、京で暮らす内に
一人の盗人と出会う。彼は貴族でありながら、
朝廷のやり方に不満を持ち、彼なりのやり方で
民や「童」たちを守ろうとしていた。桜暁丸は
そんな盗人に心酔し、兄と呼ぶようになる!
しかし、悲劇は起こった!
大切なものをねこそぎ奪われた桜暁丸は、ほかの
「童」たちを仲間に引き入れ、朝廷に闘いを挑む!

いつの時代も権力者は傲慢で、自分たちのことしか
考えない。民よりも自分たちの立場やメンツが大切なのだ。
民はいつでも平穏で公平な世の中を望んでいるというのに。

ちょっとだけ、平安時代の歴史の闇を垣間見た感じだ。

登場人物が全て魅力的!
童たちの正義はどこまでも潔く、京の貴族階級の
悪人たちはどこまでも悪として描かれ、両者の
激烈なる戦いぶりに、心を鷲掴みにされる!
ワクワクが止まらなかった、凄い時代小説!

『童の神』
著者:今村翔吾
出版社:角川春樹事務所
価格:¥1,600

本屋さんは「謎」がいっぱい!「レジまでの推理」。

似鳥鶏さんの「レジまでの推理 本屋さんの名探偵」は
書店を舞台にした‘ほんわか’ミステリー。

書店に勤めていても、お客様からの問い合わせは
時に「ミステリー」と感じることもあります。

「7冊で海を越えられる」「全てはエアコンのために」
「通常業務探偵団」「本屋さんよ永遠に」
の4作品が収録されていて、どれもとっても面白い。

海外赴任が決まり、彼女に相談もせずに
それを決めちゃった男性。喧嘩別れした後、
彼女から送られてきた本の内容にボーゼン!
一体どういう意味なのか?
懇意にしていている本屋さんに相談するが…。
本のタイトルが暗号化。秘密のメッセージを解読できるのか?
「7冊で海を越えられる」

大学生の男性が引っ越し先で大好きな作家のサイン本が
行方不明になったので、もしかしたら手伝いをしてくれた
友人が持って帰ったのでは?と思い、友人がバイトをしている
本屋さんにやってきた。彼は友人が持ち去ることは
不可能だと言うが….。スタッフたちは様々な推理を展開する。
ラストはちょっと切ない。
「全てはエアコンのために」

カリスマ人気作家のサイン会が開かれた。作家はその書店に勤務
するバイトの友人ということでサイン会を快く引き受けた。
無事にサイン会は終了。ところがその後からお店のポスター等に
気味の悪い嫌がらせが始まった…。
「通常業務探偵団」

POPばかり書いている店長さんの謎解きが圧巻ですよ~。
本にまつわるミステリー。こんなに「謎」があるなんて!
読んでいて「なるほど~」と膝をうちました。
それから、書店用語のミニ解説が面白いです。

万引きに、悪質な嫌がらせ・・・次々と不穏なことが起こる
書店。最近店長に元気がない・・・。そんな時に小火騒ぎが
起こった!「本屋さんよ永遠に」

この章は本が好きなすべての書店員の悲痛な叫びが描かれて
いる。書店員が読むと実際のそうなんだと叫びたくなると同時に
でも本屋は決して無くならないと信じたくなる。っていうか
信じてる。
「本も好きだけれど、それとは別に本屋が好き」「本屋さんで
欲しい本を見つける」というセリフに涙が出てしまいました。

『レジまでの推理 本屋さんの名探偵』
著者:似鳥鶏
出版社:光文社
価格:¥1,300(税別)

文豪・谷崎潤一郎の犯罪小説がすごい!!

中公新書「日本ミステリー小説史」で紹介されていた
谷崎潤一郎が描いたミステリー小説を読みました。

紹介されていたのは「途上」。
その作品が収録されていたのが、
「谷崎潤一郎犯罪小説集」です。

谷崎潤一郎といえば、大正、昭和初期に当時では
ショッキングな退廃的な小説描いて注目!

はまさきも「痴人の愛」「細雪」は高校時代に
読みました。確かに「痴人の愛」は衝撃的!!
大正時代に出版しても良いのか!?と思ったくらい。

そんな谷崎が描く「犯罪小説」とはどんなものか?

「柳湯の事件」「途上」「私」「白昼鬼語」の
4作品が収録。
その中でも特にはまさきが驚いたのは、
「途上」と「白昼鬼語」の2作品。

「途上」は人事部に勤務する会社員が帰宅途中、
突然私立探偵に声をかけられるところから始まる。
社員の身元調査という話なのに、探偵はその会社員の
亡くなった妻についてしきりに聞いてくる。
会社員は新たに妻を迎えようとしているが・・・。
探偵は道々ある推理を展開するのだ。
それは夫が妻に仕掛けた危険な罠・・・。

二人の会話だけで話は進んでゆく。しかし探偵の推理を
聞いている内に会社員は恐怖にかられてゆく。
その緊迫感がひしひしと伝わってきた。
江戸川乱歩曰く「プロバビリティーの犯罪」に焦点を
あてた、サスペンスミステリーの傑作。

「白昼鬼語」は、富豪だがちょっと変わった男が、
偶然手にした不思議な暗号文を解読し、この日、
この場所でこの時間に殺人事件が起こると断定。
唯一の友人を無理やり誘い、現場に向かう!

暗号解読の手段は、あの名作をヒントに描かれている!

さらに、事件現場に登場する女性の描写が、退廃的かつ
官能的で、谷崎の語彙の多さとその使い方の上手さに
酔いしれてしまう・・・。
そしてトリッキーなラストには言葉もない。

文豪が描く、犯罪小説の凄さを堪能しました。

『谷崎潤一郎犯罪小説集』
著者:谷崎潤一郎
出版社:集英社(文庫)
価格:¥480(税別)

著者独特の世界観で描かれる人間の怖さ、「少女たちは夜歩く」。

宇佐美まことさんの世界観にはまると抜け出せなくなる…?

城山を舞台に、10編の短編が
紡ぐ、幻想的で怖い….物語。

城山の森の描写が非常に不気味で、登場人物たちの
心に闇が訪れた時に、その魔界にはまってしまうような
悲劇が待ち構えているような、ざわざわした気持ちに
なってしまう。

恋に狂う女子高校生、病を抱えながら息子を思う父、
奇妙な絵の修復をするうちに狂気の世界へと
引きずり込まれた女性、謎のケモノを操る少年?
亡くなった人が見えてしまう女性…。

それぞれの物語の登場人物たちがあるところでは
リンクし、時に時間を飛び越え物語が進んでゆく。

ファンタジックな展開、ホラーとしか表現できない
物語。読み進むうちに頭がくらくらしてくる。
しかし、それこそが著者が物語に仕掛けた罠なのか。
読み手を翻弄する展開の巧さに絶句する。

ホラー、ファンタジー、ミステリーが絶妙な
バランスで融け合い、著者独特のダークさを
醸し出しているところが凄い。

宇佐美さんの世界を存分に堪能できる、傑作。

『少女たちは夜歩く』
著者:宇佐美まこと
出版社:実業之日本社
価格:¥1,600(税別)

目の前で人が消えた!?とんでも展開「消人屋敷の殺人」

深木章子さんの「消人屋敷の殺人」(新潮社)を読みました。
いつもいつもアッと驚かせてくれる作家さん。

今回もすっかり騙されてしまいました。

東京から五時間、Q半島の断崖絶壁にそびえる「日影荘」。
江戸末期から続く武家屋敷だ。
明治初期、多数の官憲に包囲されたこの屋敷から一族が
忽然と消えた・・・。
それからこの屋敷は「消人屋敷」とよばれるようになった!

その曰くつきの屋敷は、今はある出版会社の社長の別荘となっていた。
そしてそこにはベストセラーを連発する覆面作家が隠遁していた。
ある時、その作家を訪ねて行った女性編集者が失踪。

その3か月後、謎の招待状によって5人の関係者がこの屋敷に集められた。

ところが、嵐によって足止めをくらってしまう。
誰にもなす術のない自然現象によって、断崖絶壁の屋敷に
閉じ込められてしまう。意図しない密室状態!
目の前で次々と人が消える!
いったいどういうことなのか?
何が起こっているのか!?
真相がわかるまで、いっきに読み進むものの・・・。

どこから騙されているのか・・・?そして人間消失のカラクリも、
犯人もわからないままラストに突入。
えええ~ッ!そういう事だったの?と驚きつつ納得。

深木さん、騙しの達人ですね・・・。

『消人屋敷の殺人』
著者:深木章子
出版社:新潮社
価格:¥1,700(税別)