貫井徳郎さんの最新ミステリー『微笑む人』が不気味で怖い

貫井さんいわく、『僕のミステリーの最高到達点です』。人間の心の奥に潜む闇が、多分一番恐いと思える、ゾクゾクするミステリーです。
「本を置く場所がなくなって困る」という理由から、妻子を殺害し、逮捕・拘留された仁藤。殺害動機の異常性から、連日ワイドショーで報道され、世間の注目を浴びる。
その事件の目撃者は、その時の異様な光景に目の錯覚だと自分自身に言い聞かせた。
そうでもしないと納得できなかったからだ・・・。
いつ人に見られるかわからない、真昼間の海で、男は自分の妻らしい女性を海の中に沈めようとしている、それを必死に止める幼い娘・・・。しかし状況証拠だけで本当に殺害したのかはっきりしない。
その事件に興味を覚えた作家は、彼に関わった人たちに取材を試みる。
そうすると、彼の周辺の人物は、「彼は‘とてもいい人’で家族を殺害するなんて絶対にありえない」と口をそろえて言う。
彼らの口から語られる人物像は、ありえないくらい完璧。
しかし一部の人から聞こえてくるのは、彼はとても冷酷であったこと・・・・。
そこで彼の過去を調べていくと、大学の同級生が不審な死を遂げていたが判明。
どちらが彼の本当の姿なのか?本当に妻子を殺害したのか・・・?
クライマックスに登場する謎の女、もうわけがわからない・・・・!
常に微笑を浮かべているこの男。その微笑みには何の意味があるのだろうか?
読んでいて、あまりにも完璧すぎるこの男に嫌悪感を感じてしまった。
著者の人間描写がとても見事。不気味に微笑む人の正体は・・・・?
『微笑む人』
著者 :貫井徳郎
出版社:実業の日本社
価格:¥1,500(税別)

百田尚樹先生、会心の傑作『海賊とよばれた男』心が熱くなります!

今回は、ミステリー本の紹介をお休みして、先日講演会で百田尚樹先生がお話された、『海賊とよばれた男 上下』(講談社)について書きます。
百田先生の講演会を聴いて、どうしても読みたくなりました。
読んでる間中感動の連続でした。この出光佐三という人、すごい人です。

出光佐三は小説の中では、国岡鐵造という名前で登場します。
1945年、終戦。日本は戦争に負けた。
国岡商店は海外資産から何からすべてを失う。
大方の会社がリストラする中、国岡商店も役員たちからリストラ案を出されたが、鐡造はその案を一蹴し、一番大切な社員が残った、彼らとともに会社を復活させよう!と役員たちを説き伏せる。
上巻では、終戦後の国岡商店の復活の兆しと、鐡造がどのように会社を立ち上げ大きくしていったのかが描かれている。
いち早く石油に目をつけた鐡造は、石油事業を自分の一生の仕事にするべく、お世話になった会社を辞め、新たに会社を立ち上げる。そのとき無償で鐡造に資金を提供してくれた、日田重太郎氏はその後の鐡造の人生の師ともなる。

この上巻でなぜ国岡鐡造が‘海賊’とよばれるようになったのか?その由来も描かれている。
このくだりを読むと仕事とは工夫次第でいかようにも出来るんだな~と感心します。
また、鐡造が社員を家族同様に大切にしていることも描かれている。
勉強はもちろんのこと、立居振舞や、しつけなど本当に社員をわが子同様に扱っている。
社員を馘首にしない、出勤簿はない、組合はない、定年はない。
大きな会社になればなるほど必要なルールが国岡商店にはないのだ。
鐡造と社員との信頼関係がどれほどあついのかがわかるエピソード。

こんな国岡鐡造が店主だからこそ、会社がどんなに大変な状況になろうとも社員は落ち込まない。辞めない。
厳しい状況に置かれた時こそ、国岡商店の社員は大いなる働きを見せる。

下巻では、国岡商店が戦後、社員の猛奮闘で危機を乗り越え、業界でも1位2位を争う石油会社に復活している。
しかし日本の石油業界は、外国資本の石油会社に蹂躙され、民族資本で頑張っているのは『国岡商店』のみだった。
次々に難問を繰り出す外国資本に対して、鐡造は、日本の石油業界のために、信念を曲げず、ただ一人立ち向かっていく。
そして、とうとうイランへと旅立つことになる。
これが『日章丸』。日本初の大型タンカーが、イギリスの石油会社に乗っ取られていた、イランの石油を輸入するために出航するのだ!!このシーンは涙なくしては読めません!!!
このことが、何も知らされていなかった日本と英米ほか世界中を驚かす大ニュースとなったのだ。

上下巻をずっと読んでいて、なぜこんな凄い人が、歴史の中に埋もれていたのか・・・?不思議でならなかった。でも読み終わってなんとなくわかる気がします。

日本の未来のため、日本の石油業界のためには信念を曲げず、アメリカだろうが、イギリスだろうが、日本の発展を阻む者たちに敢然と立ち向かっていく。
利権ばかりを追求する官僚たちでは歯が立たない!
しかし鐡造のこの思いは、当時の世界の石油業界を牛耳っていた、セブンシスターズ(七人の魔女)をも味方につけてしまったのだ。
敵からも惚れられる男です。こんな日本人がいたとは・・・。感動しました・・・。
この本を読んでいるとき、日本人であることをとても嬉しく感じました。

この本を読むと、元気が出ます。どうか皆さんに読んでほしい。そして出光佐三のことを知ってほしいです。

『海賊とよばれた男 上下』
著者: 百田尚樹
出版社:講談社
価格:上下各¥1600(税別)

2010年、選考委員絶賛の乱歩賞受賞作『再会』が文庫化

2010年の江戸川乱歩賞受賞作、横関大著『再会』(講談社)は選考委員絶賛、満場一致で決まった、とても完成度の高いミステリー作品です。
この8月に文庫化されました。現在発売中です。
はまさきも発売されてすぐに買って読みました。
ミステリーですが、じわじわ~と心に残る・・・。そんな作品でした。
圭介、淳一、直人、万季子の4人は子供のころからの幼馴染。しかし、彼らには23年前に起きた決して忘れられない過去があった。
23年前・・・。強盗事件が起き、当時警察官だった圭介の父は、その事件で殉職してしまう。
事件の第一発見者となったこの4人は、圭介の父の遺体のそばに落ちていた拳銃をタイムカプセルに入れて、学校の校庭に埋めてしまう。
やがて月日は流れ、4人は大人になり仕事や家庭を持ち、普通の生活を送っていた。
しかし、万希子にかかってきた1本の電話から、新たな殺人事件と、迷宮入りとなり時効を迎えていた23年前の強盗事件に繋がっていく・・・・。
ある日、圭介の腹違いの兄・秀之が殺害された。
その殺害に使われた拳銃が、23年前の強盗事件で紛失していた圭介の父の制式拳銃のマークと一致。
刑事となっていた淳一はこの情報に驚き、焦る!
あの拳銃は、23年前にタイムカプセルに隠して校庭に埋めたはずなのに、だれが!?・・・。
4人は真相を探るべく再会を果たす。そしてタイムカプセルを掘り出すこと・・・。
とてもデビュー作とは思えない完成度。
さすがに8回も乱歩賞に挑戦した著者の作品。
面白くて、どう物語が展開するのか!?わくわくしてあっという間に読んでしまいました。
選考委員絶賛というのもうなずける、おすすめのミステリーです。
『再会』
著者: 横関大
出版社:講談社
価格:¥648(税別)

人間の顔をしたモンスターを描く!戦慄のサスペンス『悪の教典』

2年前のこ‘のミステリーがすごい’国内編で第1位となり、メディアでも数多く取り上げられた、戦慄のサイコサスペンスホラーの傑作!貴志裕介著『悪の教典』(文藝春秋)が文庫化されました。
しかも!映画化!誰がこの悪魔のような人間を演じるのか!?

ある高校の英語教師・蓮実聖司は、明るく親しみやすい性格、しかもハンサム。
生徒たちからは‘はすみん’と呼ばれるほど人気がある教師。
担当教科の英語の授業は、生徒のために工夫を凝らし楽しい授業で生徒を飽きさせない。
また、生活指導の担当者として生徒の悩みにも親身なって応え、生徒の親、同僚の教師、さらには教頭、校長からの信頼も絶大だ。

だが、それは蓮実のうわべだけの姿だった・・・・。
彼の本性は、精神的に大きな欠陥を持つ、(他者への共感能力が欠如した)サイコパスだった。
子供のころから非常に頭が良かった蓮実は、これまでにも自分に障害となる人物を排除してきたのだ。
彼を慕う生徒が多い中、蓮実の完璧すぎる性質に違和感を抱く生徒がいた。
それを知った蓮実は、学園祭の準備で居残る生徒たちを殺戮する計画をたてる・・・。

上巻では、学校の諸問題、いまどきの高校生の実態もリアルに描かれている。
そして完璧なまでに模範教師をこなす蓮実が描かれつつ、徐々にモンスターの本性を現していく過程が、微妙な加減で描かれていて読み手の好奇心をくすぐっている。

下巻では、今までの模範教師がモンスターに変貌し、生徒たちを次々に殺戮していく。

ぶっ壊れた心、身勝手な理屈、ありえない結末!!
ここまで描けるのか!?というところまで描かれ、読み出したらとまらない。
サイコパスの恐ろしさを徹底的に描いた、サイコサスペンスホラーの傑作。

『悪の教典 上下』
著者: 貴志祐介
出版社:文藝春秋
価格:上下各¥695(税別)

女の無責任な噂話が怖い!湊かなえさんミステリーの新作

超ベストセラー作家、湊かなえさんの最新作は、女はやっぱり恐ろしい~がテーマの『白ゆき姫殺人事件』(集英社)です。

ある化粧品会社の美人会社員が惨殺された。
不可解きわまりない事件。
美しすぎる同僚への嫉妬なのか・・・?
やがて一人の女性に疑惑の目が集まる。ハイエナのようなフリーの雑誌記者の耳に届いた衝撃的なこの事件の噂。
記者は、同僚、同級生、家族、故郷の人々を取材し記事を書いていく。
取材の過程で語られる、驚くべき証言の数々。どれが真実でどれが噂なのか・・・・?
記者はこの事件を扇情的に取上げていく。
ネット炎上、過熱する週刊誌報道、口コミで走る衝撃。
女同士の『噂』ってこんなに怖い!果たしてその噂の女性とは?残忍な魔女なのか?それとも?

何かにつけ目立っている女性への嫉妬がこうもうまく表現できるなんて凄い!
意地悪目線がじわじわとにじみ出ている。
物語の後にたされた「事件関連資料」と題した、週刊誌の記事、ネット上でのつぶやき、ブログなどがこの物語をさらに面白くしていて、妙にリアリティがある。
ヒットメイカー・湊かなえさんの新たなる挑戦!?傑作ミステリ長編です。

『白ゆき姫殺人事件』
著者: 湊かなえ
出版社:集英社
価格:¥1,400(税別)

ミステリーか?ホラーか?不思議な面白さ『蛟堂報復録1』

夏ということで、ホラーミステリーものを紹介しています。
この作品、鈴木麻純著『蛟堂報復録1』(アルファポリス文庫)は、ちょっと不思議な世界を楽しめる作品です。
この作品との出会いは、文庫棚の周りを何か面白い本はないかと物色中に、表紙とタイトルに惹かれ・・・というかこの本が私を呼んでいた・・・みたいな感じで手に取り、読んでみると面白い・・・。
そして妙に心が安らぐ・・・?不思議な感覚に陥った作品です。
『蛟堂報復録』は、現在1巻~4巻まで発売中。徐々にファンが増えているようです。
第1巻は、3編の中編が収められています。
蛟堂―表向きは、江戸時代より続く漢方薬局兼雑貨屋。しかしその真の姿は、晴らせぬ恨みを引き受ける「報復屋」。
心に闇を抱えた人々は、人づてに‘蛟堂’の存在を知りこの「報復屋」に仕事を依頼する。
依頼者は、莫大な報酬を支払うことになるが、消えることのない業を負うことになるとしてもなお、報復を望む・・・。
陰陽道の天才であり、‘蛟堂’の十二代目店主・三輪辰史は彼らの恨みをどう晴らすのか!?
報復の舞台は、妖しき古書の世界・・・。
第1話『清姫』は、結婚式の当日に婚約者に裏切られた女性のすさまじい恨み。それは蛇と化して愛しい男を食い殺す。あまりにも深く、悲しい女の執念を描く・・・。
第2話『ピノッキオ』は、理由もなく無軌道に暴れる兄。その兄に対し、幼い妹が下した悲しき決断とは・・・。傍若無人な若者の行き着く先を描く。
第3話『赫夜姫(かぐやひめ)』は、物を貢ぎ、心を尽くしてもなお愛を得られない男は、女への復讐を誓う。男を翻弄し続ける女の結末とは?
哀しく、切なく、そしてちょっとだけ恐い・・・・。三つの怪異譚。

愛憎、嫉妬、騙しあい、裏切り・・・・。人が抱える心の闇がこれでもかと描かれているが、どこかに救いがある。人とは所詮こういう生き物なのだ、と納得・・・。そういう意味でも読み終わった後、妙に安らぐ不思議さ。

この世界にすっかりはまってしまったので、2巻以降読むのが楽しみ!!

『蛟堂報復録1』
著者: 鈴木麻純
出版社:アルファポリス(発売 星雲社)
価格:¥600(税別)

>百田尚樹先生の講演会、素晴らしかったです!

昨日は、百田尚樹先生の講演会&サイン会にスタッフとして参加しました。
そして先生のお話も聴くことが出来、大変感動しました。
お話の大半は、新刊『海賊と呼ばれた男』(講談社刊)についてでした。
この本は、出光興産の創業者、出光佐三をモデルに彼の生涯を描いたノンフィクション・ノベル。
百田先生は、この出光佐三がいかに素晴らしい男であったのか、熱く語られました。
‘なぜこれほどのまでの人物が忘れ去られていたのか・・・。この出光佐三をもう一度歴史の表舞台に出したい!皆に彼の偉業を知ってほしい!’という強い思いでこの本を描かれたそうです。百田先生の出光佐三への強い思いは、聴いている私の心にも強く響きました。
『永遠の0』で百田先生を知って以来、『錨を上げよ上下』(講談社)、『輝く夜に』(講談社文庫)、『モンスター』(幻冬舎)、『プリズム』などの作品を読んできました。
どの作品も面白く、楽しく読ませていただいたのですが、この『海賊と呼ばれた男』は、先生のお話を聴き、どうしても読みたいと思いました。‘戦後忘却の堆積に埋もれていた驚愕の史実’がいったいどういうものであったのか、どうしても知りたいと思いました。

百田先生、大変貴重なお話、ありがとうございました。

今日から読み始めました。
序章、終戦の玉音放送を聴いた後の国岡鐡造(出光佐三の小説での名前)の決意からぐっときます・・・・。

今年の乱歩賞受賞作は異色すぎて凄い!『カラマーゾフの妹』

2012年、第58回江戸川乱歩賞受賞作は、高野史緒『カラマーゾフの妹』(講談社)。
タイトルからあのロシア文学の続編が出たのか!?と勘違いしそうだが、実はこの高野さん、東欧やロシア文学のアンソロジーの編纂の経験があり、そこからヒントを得て今回この作品を描くことになったようだ。
原典である、『カラマーゾフの兄弟』をかなり読み込んでいないと描けない人物描写や、遺された謎の数々・・・。それらを丹念に拾い上げこの作品で謎を解明し、未解決事件の真相に迫る!というもの。
原典とオリジナルがうまく繋がって、今までにないミステリー作品になっています。

13年前に起きた、「カラマーゾフ事件」。父親を殺したのは、長男のドミートリ―。しかし真犯人はほかにいた!?
獄死した兄の無実を明らかにするために、モスクワで特別捜査官となった次男・イワンが事件の再捜査をするために相棒のトロヤノフスキーとともに故郷へ戻ってきた。
再捜査の過程で弟のアレクセイに会いに行く。アレクセイは相変わらず皆に愛されて、故郷では教師をしていたことから、子供たち、その両親からも絶大な信頼を得ていた。
一方、イワンは度重なる頭痛に悩まされ、ひどい頭痛のときは記憶すらない・・・。
トロヤノフスキーは彼の行動から、ある精神の病に思い当たる・・・。
そして次々と明らかになる兄弟たちの秘密。
タイトルに隠された、‘妹’とは・・・?
原典となる『カラマーゾフの兄弟』のエピソードを上手く盛り込み、新たに著者が描いたオリジナルな部分へと誘導する。
原典で描かれた謎が、この作品で明らかになり驚愕のクライマックスへと繋がっていく・・・。
『カラマーゾフの兄弟』を読まなくても、ミステリーの醍醐味が味わえる、今年一番の衝撃作!

『カラマーゾフの妹』
著者: 高野史緒
出版社:講談社
価格:¥1,500(税別)

人間が一番恐い・・サイコサスペンスホラーの代表作『黒い家』

すさまじい怪異現象にさらされた一家の悲劇も怖いが、この『黒い家』(角川ホラー文庫)は、欲にまみれた人間がどれほど恐ろしいか・・・。言葉ではいいつくせないほどの恐怖を描いたサイコサスペンスホラー。
著者の貴志祐介さんの原点ともいえる作品。第4回日本ホラー小説大賞受賞作。
1999年に内田聖陽さん、大竹しのぶさん、西村雅彦さん主演、森田芳光さんが監督で映画化され、大ヒットしました。

生命保険会社で死亡保険金の査定を務める若槻は、ある日顧客の家に呼び出され、子供の首つり死体の第一発見者になってしまう。
ほどなく、死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。
自殺した子供の父親は、幾度となく死亡保険金の督促にくるが、若槻は調査中と偽り、保険金支払いを保留にしていた。
やがて、その父親の態度にも異変が表れてくる・・・。
執拗に保険金請求をするわりは、まだおりないと答えるとすんなり帰ってしまう。
その態度に不気味さを感じる若槻。子供の事件の後、その夫婦の周りで次々と事件が起こる。
やがて若槻はその事件に巻き込まれていく・・・そして、信じられない悪夢に見舞われることになる・・・・。

保険金を騙し取るために殺人を繰り返す、心を持たない、人間の顔を持ったモンスターが邪魔者を排除する・・・。
その恐ろしさは想像を絶する!生きている人間の所業が一番恐ろしい!!サイコサスペンスホラーの衝撃作!!

『黒い家』
著者: 貴志祐介
出版社:角川書店(角川ホラー文庫)
価格:¥667(税別)

ホラーミステリー『墓地を見おろす家』・・。怖すぎて鳥肌もの

8月になりました。今週からお盆までホラーミステリーをちょっとずつ紹介していきたいと思います。
暑い夏の日の夕方、マンションのベランダで涼みながら読むのに最適なホラーミステリー。
小池真理子さんの『墓地を見おろす家』(角川ホラー文庫)。
あまりの怖さに、買うのをためらってしまった作品です・・・。
かなり前に読んだのに、今でも鮮明によみがえってくるあの恐ろしさ・・・・。
都心で新築、しかも格安という抜群の条件で手に入れたマンションに移り住んだある一家。
緑に恵まれたその地は、驚くことに広大な墓地に囲まれていた。
妻は、一抹の不安を覚えるが、夫はそういうことをあまり気にしていない様子。
しかし移り住んだその日から不吉な出来事が起こり始める・・・・。
かわいがっていた小鳥の突然死、小さな娘が口にする奇妙な話、引っ越し祝いでやってきた妻の妹が気にする隣人の声・・・・。
日常のちょっとした不安程度の出来事があることをきっかけに徐々にエスカレートしていく。
住民が使用する地下の物置で、子供たちが巻き込まれた事件・・・。
不吉な風が吹いた後、娘が足にけがをしたのだ・・。何が原因なのか・・・。
次第に正体を現してくる、悪意ある怪異現象・・・。
その恐ろしさから、マンションを出ていく住民たち。
やがて一家は最悪の事態に襲われる!!
霊媒師も逃げ出すほどの霊がマンションを取り巻いているのか・・・?。
なすすべもなく閉じこめられる一家。
夫婦が抱える不吉な過去、そしてマンション建設の裏にかくされた驚愕の真実。
あってはならないその事実が墓地に眠っていた霊たちを呼び覚ましたのか・・・?
ありとあらゆる怪異現象の描写があまりにもリアルでものすごく怖い!!
土地と人間についた霊が胎動する底知れぬ恐怖を圧倒的な筆力で描ききった、超鳥肌もののホラー作品です。
読んだ後はしばらくの間、夜テレビと灯りをつけたまま寝ていました。
怖すぎて壁側にも近寄れなかった・・・・。

『墓地を見おろす家』
著者: 小池真理子
出版社:角川書店(角川ホラー文庫)
価格:¥560(税別)