子どもたちの苦しみが胸に迫る!「あの子の殺人計画」

天祢涼さんの「希望が死んだ夜に」では
貧困にあえぐ少女たちの悲劇を描き、
あまりにも切ない展開に、思わず泣けました。
事件の捜査とともに少女たちの心に
優しく寄り添った仲田刑事が印象的でした。

その仲田刑事が再び登場する、
最新刊は、「あの子の殺人計画」。
児童虐待というセンシティブなテーマに
真正面から斬り込んだ意欲作。

小学5年生の椎名きさらは、母子家庭で育つ。
母親は一生懸命働いているが、貧困からは
抜け出せない。しかも、「水責めの刑」で
厳しく躾られていた。
厳しいけれど、それは自分が悪いことをしたから。
ママは私のために厳しくしてくれている・・・。
母への思慕から、きさらはそう思い込んでいた。

ところがある時、保健の遊馬先生や、
転校生の翔太らに指摘され、自分が虐待
されているのではないかと気づき始める…。

やがて、母への思いは恨みへと変わり、
きさらは、母親の殺人計画を練る….。

一方、川崎駅付近の路上で、大手風俗店の
オーナー・遠山が遺体で見つかった。
鋭利な刃物で刺し殺されていた。
神奈川県警捜査一課の真壁刑事は所轄の
捜査員、宝生とともに聞き込み続けると、
かつて、遠山の店で働いていた、椎名綺羅
という女性が捜査線上に浮上する。

真壁は椎名綺羅に疑念を抱くが、事件当夜は
娘のきさらと自宅にいたというアリバイがあった。

そこで真壁は、以前女子中学生の事件で
捜査に協力してくれた、生活安全課の
女性捜査員・仲田蛍の力を借りることに。
仲田は生活安全課に所属しながら、数々の
事件を解決に導いた、優秀な刑事だ。
椎名きさらは、仲田に心を開き、
少しずつ母との関係性を語るのだった・・・。

「希望が死んだ夜に」に続き、今作品も
子どもたちの目線で描かれ、虐待という
悲劇的な展開に言葉をなくす。
そんな物語のなかで、仲田刑事が子供たちに
寄せる優しさに心が癒される。

さらに、一瞬にしてそれまでの世界が反転する
神業的なミステリー手法に息をのむ!

「子どもの貧困」「こどもの虐待」を
テーマに、現代日本の不条理を抉る!
社会派+本格ミステリが融合した、
胸に迫るミステリー。

『あの子の殺人計画』
著者:天祢涼
出版社:文藝春秋
価格:¥1,650(税別)

スリリングな展開!特捜本部VS.特捜検事「焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕」

今野敏先生の人気警察小説シリーズ
「警視庁強行犯係・樋口顕」シリーズの最新作
「焦眉」を読みました。

このシリーズは、「隠蔽捜査」(新潮社)
「東京湾臨海署・安積班」(角川春樹事務所)
「警視庁捜査一課・碓氷弘一」(中央公論新社)
シリーズと並ぶ、今野作品、警察小説シリーズ
ベスト4の中の1作です。

このシリーズの主人公・樋口顕は
「熱い情熱を秘めた静かなる男」
と言ったイメージで、はまさきは
安積警部補の次に好きな人物です。

今作品は、東京地検特捜部の検事たちの
暴走を食い止められるのか!という物語。

捜査二課の氏家から衆院選の
選挙係になったと報告を受けた樋口。
そのことでナーバスになった氏家の様子が
気になり、二課に寄った樋口だったが、
いきなり東京地検特捜部が来ていると
知らされる。

衆院選が終わった頃、世田谷区の住宅街で
殺人事件が発生した。
被害者はファンドを経営する中年男性だった。

警視庁は直ちに特捜本部を設置。
ところがその捜査本部に地検特捜部の
灰谷と荒木が現れる。

彼らは、今回の衆院選で与党のベテラン議員を
退け当選した野党の衆議院議員・秋葉康一を
政治資金規正法違反で内偵中だった。
殺された男性と秋葉は大学時代親しかったらしい。

さらに殺害現場付近の防犯カメラには
秋葉の秘書の姿がうつっており、灰谷らは
秋葉が殺人事件に関与しているのではないかと
疑っていたのだ。

捜査本部内では、殺人事件の特捜本部に
部外者がいるのはおかしいし、彼らの
やり方に憤りを感じていた。

そして、灰谷らは秘書の身柄を拘束、樋口は
証拠不十分を主張したが、独断で逮捕に
踏み切ってしまう!

検事による不当逮捕。こんなことが許されて良いのか?
国家権力を武器に、民間人を恐怖のドン底に陥れる。
送検されれば、有罪率は99.9%なのだ。

その恐ろしさが物凄いリアリティをもって
描かれ、ただただ怖い。
ほんの些細な状況証拠だけで、犯罪を作り出す。
冤罪が生まれる過程を読んでいるようだった。

樋口のように当たり前に考えればそれはない!
と言い切る刑事がいなければどうなるだろう。

間違った方向に向かうとき、きちんと
正しいことが言える。
それが大切なんだということを痛感した
作品だ。

いつもながら、読後の爽快感がたまらない!

『焦眉 警視庁強行犯係・樋口顕』
著者:今野敏
出版社:幻冬舎
価格:¥1,600(税別)

読み始めたら止まらない!「冷たい檻」

伊岡瞬さんの「代償」「悪寒」「痣」に続き
文庫新刊「冷たい檻」を読みました。

冒頭からのスリリングな展開に心を
鷲掴みにされました。

17年前に息子を誘拐された樋口は、その後
妻と離婚。警察も退職し調査官として働く。

北陸地方の村の駐在所から警官が失踪した。
県警本部の依頼で、駐在所の調査に入った
樋口は、後任の駐在・島崎巡査部長ともに
前任の駐在の失踪の謎を追う。

その過程で、村では農作業に使う器具が何者かに
盗まれるという盗難事件が起こっていることが発覚。

次々と耳に入るきな臭いに情報に、
樋口はこの村には何かあると嗅ぎ取る。

一方、村に存在する大型複合医療施設の
介護付き老人ホームに入所していた70歳台の
老人が海に落ちて亡くなる事件が発生していた。
施設では様々な憶測が飛んでいた

樋口は、失踪した駐在の行方を調査する
かたわら、大型医療施設についての裏情報も
キャッチ。
数々の事件がこの施設に関係していること
に気づく。

しかし、不可解な殺人事件が起こってしまう。
それは凄惨極まりないものだった!

樋口・島崎の視点、施設の入所者たちの視点
また、施設を誘致した者たちの視点、
多数の人物の視点で描かれた物語。
数々の事件がどう繋がってゆくのか?
どんな風に発展してゆくのか?
先へ先へと引きずられるように読みすすめてしまう。

すべての謎が解き明かされたクライマックスは
圧巻!としか言いようがない。

卓越したリーダビリティで読ませる、サスペンスの傑作。
読みだしたら止まらない!夜に読んだら徹夜覚悟で!!

『冷たい檻』
著者:伊岡瞬
出版社:中央公論新社
価格:¥880(税別)

島田荘司先生の「火刑都市 改訂完全版」が素晴らしい!

島田荘司さんの文庫新刊「火刑都市 改訂完全版」
を読みました。
まだ読んでいなかったので、読めてとても嬉しい!

私の大好きな、名探偵・御手洗潔は登場しませんが、
渋い刑事さんが東京で起こる連続放火事件の
謎を解いていくミステリー。

昭和57年の東京が舞台。
四谷のビルで放火と思われる事件が発生し、
その地下で男性の焼死体が発見された。
どうも、警備員らしい。
さらに、放火事件は密室で起こったようだった。

事件性があるかもしれないということで
捜査一課殺人班の中村刑事が現場に向かった。
若い警備員が、自分の詰めている場所で火が回るまで
逃げもせず、消防にも連絡せずおとなしく焼け死ぬ
なんてことがあるのか?
その疑問から、中村刑事は他殺の可能性もあるとして、
彼の職場、アパート周辺の聞き込みを丁寧に行うと、
ある事実が発覚する。

ギャンブルもやらない、酒も飲まない、人付き合い
も苦手。ただただ真面目に仕事をする男。
そんな男に、恋人がいたというのだ。
そして一緒に暮らしていたらしい。

中村は早速彼のアパートの調査を開始。
その恋人はいるのか?彼の死を知っているのか?
しかし、残念ながら恋人はアパートにいなかった。
しかも部屋はきれいに片付けられている。
まるで、すべてを清算したかのような状況だ。

中村刑事は気づく。この女が男を殺したのだ・・・と
しかし、いったいどうやって?中村は推理する。
あくまでも推理だ。証拠はない。
そして、中村は女の行方を追うが・・・。

そんなさなか、赤坂のホテルが放火された!
そして現場には「東亰」という不可解な文字が
残されていた。

焼け死んだ男、彼を殺したであろう女。そして
連続放火事件。これらに共通するものは何か?
連続放火事件とどういう関係があるのか?
絡まった糸はほどけぬまま、クライマックスヘと進む。

中村刑事が執念でたどり着いた真実は、
想像を絶する結末を迎える!!

都市成立の謎を背景に、大都会の孤独、
そしてビルという冷たいジャングル
の中で生きる人間たちの悲哀が浮かび上がってくる。
読んでいると、心が冷えてゆくように感じた。

都市論を巧に織り込みながら描かれた、
あまりにも切なく悲しい社会派ミステリー。

『火刑都市 改訂完全版』
著者:島田荘司
出版社:講談社
価格:¥840(税別)

驚愕のデビュー作!「アルファベット・パズラーズ」

ドラマ化された「アリバイ崩し承ります」の著者
大山誠一郎さんのデビュー作、
「アルファベット・パズラーズ」を読みました。
短編ミステリー4作品。
短編なのに長編のような読みごたえ!
面白すぎる!

マンション「AHM」の住人、警視庁捜査一課
の刑事・後藤慎司、翻訳家の奈良井明世、
精神科医の竹野理恵たちは、マンションの
オーナーである峰原卓の部屋に集い、紅茶を
飲みながら、推理合戦に興じていた。

奈良井の知り合いに富豪の女性がいるが、
最近になって、家政婦に毒殺されると思い込み、
丁寧に淹れていた紅茶を缶入りの紅茶に
変えてしまったという。
精神科医の竹野は、被毒妄想症ではないかと疑う。
ある日その女性に招待され奈良井と竹野は
彼女の家に出かけた。そこには女性と家政婦の
他、親族も招待されていた。
そして、事件は起こる。
件の女性が毒殺されたのだ…。『Pの妄想』

警視庁捜査一課の刑事・後藤は、美術館で
学芸員の男性が殺された現場にきていた。
その現場は最新の指紋照合システムが導入
され、指紋登録者以外は出入りができない。
後藤たちは、登録者の入退出記録を確認するが….。
『Fの告発』

クルーズ船の旅を満喫していた、奈良井と竹野。
そこである化粧品会社の女性社長と出会うが、
その女性が殺害される。その現場には奇妙な
ダイイングメッセージが残されていた。
『Cの遺言』

ある男性の手記に残された、あまりにも悲惨な誘拐事件。
その誘拐事件は未解決に終わっていた。
その手記はWEB上に残され、真相解明を
望みつつ男性は病で亡くなる。
それから数年後、手記を読んだ奈良井たちは、
早速推理合戦をはじめ、本格調査に乗り出す…。
『Yの誘拐』

『Pの妄想』は缶入り紅茶に変えた理由といつ、
いかなる手法で毒殺したのか?
意外過ぎる理由と眼からうろこの毒殺トリックに
驚嘆!

『Fの告発』は途中まで読んでもしかして
この密室トリックはこの手かなと推理したが、
まったく違っていた。緻密に仕組まれている!!
凄過ぎる~。

『Cの遺言』は、ダイイングメッセージの謎に
迫っているけれど、なかなか真相にたどり着けない。
もどかしい。究極のミスリードか?

『Yの誘拐』は、誘拐事件自体が悲劇的!
奈良井たちは、様々な推理を展開するが
どれも納得できない。
どんでん返しに次ぐどんでん返しに
最後は唖然!

緻密に練り上げられた謎とトリック。
それを読んでいるときのワクワク感。
そして鮮やかに謎を解く名推理に脱帽しました。

『アルファベット・パズラーズ』
著者:大山誠一郎
出版社:東京創元社
価格:¥820(税別)

天久鷹央シリーズ長編第1弾「スフィアの死天使」が面白い!

天久鷹央シリーズの長編ものです。
短編も面白いのですが、長編好きにはたまりません!
読み始めたらすっかりはまってしまいました。

外科医を辞め、内科医として新たな
道に進もうと、天医会総合病院に勤務
することになった、小鳥遊(たかなし)優は、
そこで、運命的な出会い果たす。

小鳥遊が配属されたのは、統括診断部。
その部長は天久鷹央。
小柄で、見た目は女子高生にしか
見えない。しかも初対面なのに上から目線で
人の痛いところをズバズバ突いてくる。
何なんだこの人は・・・?
小鳥遊は呆れて言葉ができない。

空気が読めず、人とコミュニケーション
をとることが苦手な天久鷹央は、しかし
日本最高峰の頭脳を持つ天才女医だった。

そんなこんなで鷹央のことを知った
小鳥遊は早速統括診断部での仕事が
始まった。

ある日、宇宙人による洗脳を訴える
患者が現れ、病院内で飛び降り自殺を図った。

さらに、救急で運びこまれた患者が、
またしても宇宙人に命令されたと言って
医師を殺害してしまった!

院内で起こる不可解な連続事件。
調べてみると、殺された医師の娘が
宇宙人信仰思想の「大宙神光教」に
入信し、親子の間でトラブルがあった
ことが判明する。

鷹央は殺された医師の事件究明のため、
小鳥遊と二人「大宙神光教」に
潜入するが・・・。

鷹央の突拍子もない行動に振り回される小鳥遊。
しかし、なぜか鷹央を放ってはおけない。
直属の上司だし・・・。
この二人の掛け合いに多分はまってしまうのかな?

物語の最初の方で、鷹央が謎の痛みに
苦しむ女性の話を聞いただけで病名をスパッと当て
適切な処置を進めた場面は、さすがに
現役医師にしか描けないな~と眼からうろこ。
こういうところがこのシリーズの際立った面白さ。

長編ということで、様々な仕掛けを施してあり
新興宗教の施設に潜入するシーンなどドキドキ、ワクワク。
そして、真相解明までのどんでん返し。
え~そういうことだったの~。と納得したところで
またもやのどんでん返しにやられました。

これからの鷹央と小鳥遊の活躍に期待!
次は「幻影の手術室」を読みます!!

『スフィアの死天使 天久鷹央の事件カルテ』』
著者:知念実希人
出版社:新潮社(新潮文庫nex)
価格:¥670(税別)

シリーズ第7作「特捜部Q 自撮りする女たち」の展開に唖然!

デンマークの大人気警察小説「特捜部Q」シリーズ。
第7作目「自撮りする女たち」を読んだ。
今までの作品は、未解決事件を中心に物語は
進んでいったが、今作品は現事件と未解決の
事件の捜査が同時に進んでゆく。

コペンハーゲン警察のカール・マーク率いる
「特捜部Q」は、未解決事件を専門に扱う部署。
これまでにかなりの数を解決してきた。

ところが、上層部のミスで特捜部Qの成果報告
が正確に伝わっておらず、部の解体が
ささやかれていた。
さらに頼みのローセの調子が良くなく、
特捜部Qチームの士気はダダ下がり。

そんな時、元殺人課課長から連絡が入った。
最近起きた老女撲殺事件が、未解決の女性教師
殺人事件と酷似しているので、再捜査をして
欲しいとの依頼だった。
カールらは渋々捜査を始める。

一方殺人課では、失業中の若い女性を狙った
連続ひき逃げ事件の捜査で忙殺されていた。

カールたちは、その隙に未解決の女性教師
殺人事件と老女撲殺事件の捜査を始めてしまう。

そんな中、新たな事件が発生する!
クラブに女性2人組の強盗が押し入り、さらに
殺人事件まで起こってしまったのだ。

次々と起こる事件は、カールたちをも巻き込み
かっていない様相を見せ始める!!!

今作品は、デンマークの社会福祉政策に焦点を
充てている。その中でも‘デメリット’の方だ。
デンマークは世界有数の福祉国家だ。
社会福祉政策の充実は大方の国民が満足している。
特に失業対策と生活保護は手厚い。
失業者に対してソーシャルワーカーが熱心に
カウンセリングを行い就労の手助けをする。

しかし、そのあまりの手厚さゆえに、就職
活動を回避し、補助金や生活保護を不正に
受給しようとするものが後を絶たないという現状。

そういう背景で起こった事件がクローズアップされている。
傲慢でわがままで自分のことしか考えない若者たち。
そんな彼らに対して職務を忠実に果たそうとする
ソーシャルワーカーのストレスはどれほどのものだろうか?
作品中に登場するソーシャルワーカーのように
間違った正義へと向かってしまうこともあるかも知れない。

さらに、今作品の注目すべき点は、
カールたちの大切な同僚・ローセの危機だ。
今作品でカールたちはどれほどローセに助けられて
いたのか?どれほど大切な友だったのか?
改めて気づかされる。

様々な事件が交差し、怒涛のような展開に翻弄されながら
カールとアサド、そしてゴードンといった仲間たちの
何気ないやり取りにホッとする。

今までないスリリングな展開にハラハラさせられる。
シリーズ屈指の読みごたえ!

次回作がまたまた楽しみです!

『特捜部Q 自撮りする女たち』
著者:ユッシ・エーズラ・オールスン著/吉田奈保子訳
出版社:早川書房
価格:¥2,100(税別)