とんでも!警察小説「警視庁FC」

今野敏先生の警察小説最新刊が文庫で発売です。
タイトルは「警視庁FC」。

まじめに読んでいたので、ラストを読んで
ひっくり返るほど驚いた、遊び心満載の警察小説です。

警視庁FC

最近、失態続きで信頼喪失の危機にあり、焦った警視庁が
とんでもない特命グループを考え出した。
その名も「警視庁FC」。
FCとはフィルムコミッションの略で、
その使命は映画やドラマのロケ撮影に対して
便宜を図るのが主な仕事だ(いいのかよッ!)

警察の未来をかけた「特命」は、もっとも安全な任務!?
特命グループに呼ばれた、マル暴の刑事、
ミニパトの女性警官、交機の白バイ隊員は憧れの
業界仕事にとりくんでるんるんな気分に浸っている。
そして、警視庁地域部の警察官・楠木は「警視庁FC」と
兼務するよう特命を受ける。

六本木ミッドタウンで映画の撮影が始まったころ、
その撮影現場で助監督が殺された!
マジかよッ?!!
この特命班は、危険やハードワークとは無縁な任務のはずじゃないの!?

聞き込みを始めると、撮影前に助監督と主演女優が、
言い争っていたという目撃証言が出てきた。
犯人は、人気女優なのか・・・?!
楠木は、自らの意思とは裏腹に捜査に関わることになるが、
驚くべき出来事が次々と起こる!
さらに、二転三転のとんでもない展開が始まる!

ありえない設定だらけの警察小説なので、まじめに読んでいると
肩透かしを食らう恐れあり・・・???
でも今野敏ファンならば、ありでしょう?
多彩な今野ワールドが堪能できる、とんでも!警察小説です。

『警視庁FC』
著者:今野敏
出版社:講談社
価格:¥730(税別)

ひねりの利いたイヤミスの極致「衣更月家の一族」

「鬼畜の家」ですっかり深木章子さんのミステリーに
はまってしまいました。

この作品「衣更月家の一族」は、「鬼畜の家」に登場した
キーマン、元刑事の探偵・榊原が再び登場!

衣更月家

物語は、大学教授であった衣更月家の当主が、
若き大学生と心中を謀ったことから始まる・・・。

「すぐ来て下さい!姉が…、私の夫に殺されたんです」
凶器の花瓶には通報者の夫の指紋が付着、その夫は逃走中!
これを捕まえれば万事解決、当初は単純な事件と思われたのだが、
数日後に男が出頭、そこから思わぬ展開を見せ始める。

3つの家族内で起こった殺人事件・・・。それらの家族には何の関係も
ないと思われた・・・・。
だが、元刑事の探偵・榊原は3つの殺人事件に共通するキーワード
を発見する。
それは、衣更月家・・・。
榊原のするどい洞察力と推理で、3つの殺人事件に隠された
とんでもない秘密を暴く。
ひとつひとつの家の殺人事件がなんのために描かれているのか
読んでいると繋がりは全くわからない。
しかし「衣更月家」というキーワードを当てはめると
何らかの事件の骨格が見えてくる・・・かもしれない
でもそこまでだ。
榊原が導き出した事件の真相は、絶対に予測できない・・・。
こんな結末なのでは?という読者の推理をはるかに裏切る、
驚愕過ぎる展開なのだ・・・。

体操の白井君じゃないけれど、ひねり王子もびっくりの
技が冴え渡る!「超」驚愕!衝撃のミステリー。

『衣更月家の一族』
著者:深木章子
出版社:原書房
価格:¥1,800

『教場』からさらに進化!『群青のタンデム』

長岡弘樹さんの新刊が発売になりました。
警察学校を舞台にした、斬新な警察小説『教場』から
新たな警察小説『群青のタンデム』(角川春樹事務所)です。

作品も素晴らしいが、装丁も素晴らしい。
この作品のイメージにピッタリです。

群青のタンデム

警察学校で同期。成績は同点で一位だった、戸柏耕史と陶山史香。
二人は卒配後も手柄を争い出世してゆく。
8つの短編で構成され、一つ一つの物語が二人の警察官としての
成長と共に繋がる連作となっている。

その間に登場する、一人の少女。
陶山史香の影響で警察官を目指す。
その時の指導教官は、戸柏耕史だ。

戸柏と陶山の二人は、ともにその少女を
見守り繋がっている。

短編一つ一つも深い意味を持つ。

「教場」でも衝撃を受けたが、この「群青のタンデム」は
それ以上だ。異色過ぎるほど、異色。

一度読んだだけでは、物語の全てが把握できない。
それほどに深い・・・。
物語の奥深さを知るのには、1度では足りない。
読めば読むほど、深い味わいを感じることのできる作品。

長岡ワールドが思う存分堪能できる1冊です。

『群青のタンデム』
著者:長岡弘樹
出版社:角川春樹事務所
価格:¥1,500

復讐を誓った冷酷な美女『霧の旗』

前回に引き続き、松本清張作品を紹介します。

この「霧の旗」も何度も映画化、ドラマ化されいている
有名な作品です。
氷のように冷たい心を持つに至った女性がとても怖い。

霧の旗

九州のある県で金貸しの老女が惨殺され、その容疑で小学校の教師が
逮捕された。当初は、まじめで生徒思いの若い教師がそんな事件を
起こすなど誰も信じなかったが、殺害現場に残された指紋、
血痕の附着したスラックスが教師の家で発見されたことで、
容疑は濃厚となり、警察に逮捕されたのだ。
教師はその日、確かに金貸しの老女宅に行ったが、
絶対に殺していないと否認を続けた。
兄の無実を信じる、柳田桐子は、
刑事事件では高名な弁護士・大塚欽三に弁護を依頼しに
わざわざ九州から上京するが、弁護料、裁判費用が払えない
ことを理由にすげなく断れてしまう。
そして兄は汚名を着たまま獄死する。

大塚弁護士は優秀な弁護士で、きちんと桐子の話を聴くことも
出来たのだ。
しかし愛人との密会に心を奪われ、桐子の依頼を
面倒だと思ってしまった。それが、大塚の首を
締めることになる。
自分の弁護能力、事件への洞察力
に自信のあった大塚は、金貸し老女殺人を自分で
調べるのだ・・・。そして事件の真相を知ってしまう。
ここで桐子にきちんと報告すれば良いのに、大塚は
またしても、保身から事件の真相を隠してしまった。
巡り巡って、その話が桐子の耳に入ってしまった。
それから、桐子の復讐が始まるのだ・・・・・。

主人公・桐子の復讐のやり方が物凄くて、ここまでやる!?
読んでいて背筋が凍る。その悪女っぷりが徹底しているため
読みだすと止まらない。
しかし、汚名を着せられたまま獄中で亡くなった兄の事を思うと、
桐子の気持ちもわかるかも・・。

ドラマや、映画では桐子の悪女っぷりばかりが目立つが、
原作は、大塚弁護士がその事件の資料から、次第に真犯人に
迫っていく過程は実に面白く、謎解きの醍醐味が味わえる。

この「霧の旗」は、人間の愚かさがとてもよく描かれていると
思う。権力、保身、名声そんなものにこだわるから
足元を掬われるのに・・・・。

松本清張の作品は、主人公も悪役もそれぞれ、人間味にあふれていて、
事件を起こさざるを得なかった過程が丹念に描かれている。
また、当時の社会背景を物語に見事に融合させながら、
人間の愚かさや、切なさ、哀しさを描き、今読んでも全く
色あせず、逆に新鮮な驚きをもって読める、素晴らしい作品ばかり。

『霧の旗』
著者:松本清張
出版社:新潮社(新潮文庫)
価格:¥590(税別)

時刻表トリックの原点!松本清張「点と線」

最近、仕事で松本清張の本を紹介する機会があり、
ずっと昔に読んでいた、「点と線」を読み返しました。

何十年も前の作品。
トリックも犯人もわかっているのに、読んでしまう。
そして新たな発見に驚く!

点と線

九州博多付近の海岸で、男女二人の変死体が発見された。
地元警察は、服毒による心中事件として片づけた。
一見、完璧に近い動機づけを持った心中事件。
しかしその裏には恐るべき奸計があった!
地元警察のベテラン刑事・鳥飼は、
亡くなった男がある汚職事件にからんだ官僚だったことから、
この心中事件に疑いを持つ・・。

多くの時刻表のトリックを使ったトラベルミステリー傑作中の傑作!

鳥飼刑事は、被害者の遺留品である「一人旅」を示すレシートから
‘これは本当に心中事件なのか?’と疑い始めるシーンなど凄い推理力だと感心した。
また汚職事件にからんだ複雑な背景、
容疑者の鉄壁のアリバイをいかにして崩すのか!?
刑事たちの執念が時刻表の複雑なトリックを
見破った過程などワクワクドキドキする一番の読みどころ。

さらに、ラストにある驚愕の真実・・・。
このラストにはほんとに驚きました。
わかっていてもやっぱり驚く。凄い設定。

松本清張に挑戦するなら、この作品からおススメします。

『点と線』
著者:松本清張
出版社:新潮社(文庫)
価格:¥490(税別)

これは、洗脳か!?「暗鬼」

今、話題になっているらしい、サイコサスペンスで、
乃南アサさんの「暗鬼」。
先日、読みました。

うわ~とっても怖かったです。

暗鬼

大家族で資産家の息子とお見合いの話があり、
気にいらなかったら断っちゃえばいいやと
軽い気持ちでお見合いをした、法子。
しかし、お見合いをしたその日に
その男性・和人に一目ぼれ。
和人も法子が気に入り、二人はすぐに結婚を決意。
大家族というデメリットはあったが
二人の気持ちは固かったため、法子の両親も納得した。
そして、法子は、和人の家に招待される。
その家族は、両親、弟妹、祖父母、曾祖母と
本当にいまどき珍しい大家族だった。
そして、法子はその家族に歓待される。
中でも、曾祖母に気に入られた法子は倖せの絶頂に!
嫁いでから、優しい家族と何不自由のない暮らしをする
法子だったが、近所で起きた心中事件に家族が関係
しているのではないかと疑惑を持つ。
一見理想的な家族を前に、法子の胸に疑惑の
闇が広がっていった。

大家族の気持ち悪いくらいの仲の良さ。
嫁、姑の確執もない。
だが、法子が疑惑を口にした途端、
家族の化けの皮がはがれていく。

法子の考えを変えさせるために、家族会議と
称して、法子を糾弾する。
そしてそのあとはお決まりの優しい言葉に
美辞麗句を並べ立てる。
飴と鞭を使って法子の心を翻弄する。
やがて、法子の心は崩壊してゆく。

じわじわと法子の心を侵食してゆく家族たち
いったいこの家族にはどのような秘密があるのか?
自らのアイデンティティをも失ってしまう法子。
彼らの口から語られる、おぞましく呪われた秘密とは!?

これは洗脳の過程を描いたサスペンスだ!
想像を絶する洗脳の恐怖が描かれている。
怖いです。本当に怖いです!

『暗鬼』
著者:乃南アサ
出版社:文藝春秋(文庫)
価格:¥550(税別)

イヤミスの極致!「鬼畜の家」

第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
タイトル「鬼畜の家」に惹かれ、単行本発売後
すぐに読みました。

著者は深木章子さん。
弁護士の仕事をリタイヤして、還暦後描いた強烈なミステリー。
とても新人が描いたとは思えない設定と描写。
凄いインパクト!さらに読みやすい文体に一気読みした作品です。

文庫化された表紙が美しすぎます。

鬼畜の~

元刑事の探偵・榊原は、従妹から施設にいる北川由紀名を紹介される。
母親と兄が車ごと崖から転落死したのに、保険金がおりないという。
榊原は、その事件に興味を抱く。
そして彼女の口から語られる家族の真実・・・・。
「私の家は鬼畜の家でした・・・。」
保険金目当てで家族を手にかけてゆく母親。その母親も
自動車もろとも海に転落。末娘だけが生き残った。
母親による巧妙な殺人計画、娘への殺人教唆、家族の資産の収奪。
母親の所業はまさに「鬼畜」・・・・。
信じ難い、娘の語る「鬼畜の家」の全貌。

母親の狂態がクローズアップされ、ものすごいインパクト!
尼崎の事件を彷彿させる内容。

探偵・榊原が関係者から集めた証言と一人残された
由紀名の告白でやがて見えてくる事件の真相。それは
こうだろうと思い描いてた予測を見事に裏切り、さらなる
恐ろしい企みにつながっていた。

内容があまりに悪に満ちていてただ面白いというには残酷すぎる。
だが、いったいどんなラストになるのか・・・。
先が読みたくて止まらなかった。
だから、クライマックスの強烈などんでん返しには
思わず「え?!」と叫んでしまった。

結構前に読んだのに、鬼畜の母親の所業はすっかり
忘れていたけれど、どんでん返しの強烈さは
鮮明によみがえってくる。
ドロドロでイヤミスの極致ですが、怖いもの見たさの感覚で
読み出したら止まらない、驚愕のミステリー小説。

『鬼畜の家』
著者:深木章子
価格:¥730(税別)

驚愕の理系ミステリー「推定脅威」

松本清張賞受賞作「推定脅威」を読みました。
表紙とタイトルを見た瞬間!うわ~読みたい
と思ったのです。

はまさき、戦闘機ものは大好きですが、
さすがに、理系の難しい用語がたくさん
出てくるのは厳しいかなと思ったのですが、
意外とスラスラ、サクサクと読めたのでした。

推定脅威

戦闘機墜落事故の真相に迫る、理系ミステリーと
いうことで話題になっている。

侵入機が発見され、スクランブルがかかった2機の
戦闘機。
だが、優秀なパイロットが乗っている戦闘機が墜落し、パイロットは死亡。
事故原因調査は、官からの依頼で戦闘機を作っているメーカーへ。
そこで働く主人公の女性が、その事故に疑惑を持ったことから
真相を解明してゆく。

キャラクターが魅力的で、テンポよく読める。
事件解決のキーとなる人物とのラブストーリーや
ハニートラップなど、スパイめいた展開もある。

ミステリーとしての展開はシンプルな構成。
大仰などんでん返しはない・・・が、
調査、検証を重ね真相を暴く。警察捜査のような展開。
だから犯人はもしかしてこいつか・・?と途中でわかったりして・・・。
それはそれで、お~やっぱりとちょっと嬉しかったりして・・。

また、はしばしに出てくる官と民とのよくある構造も
上手く描いてあり、面白かった。
さらに、理系の知識が半端なく凄いので、航空機に関して
新たな発見がありとても興味深かった。

航空機ミステリーって面白い!
次の作品も読みたい!

『推定脅威』
著者:未須本有生
出版社:文藝春秋
価格:¥1,350(税別)